第2話 最強騎士、庭を見つける
金属がぶつかり合う音は、森の奥から聞こえてきた。
ガキンッ、と鋭い音。
続いて、何かが地面に倒れる重たい衝撃。
「……やっぱり戦闘だよね」
ユイは少し迷った。
始めたばかりのゲームだ。
モンスターに襲われたら、きっと逃げ切れない。
それでも――。
「ちょっと見るくらいなら……」
草をかき分け、森へと入っていく。
木々の間から差し込む光は柔らかく、風が吹くたびに葉がさらさらと音を立てる。
リアルと変わらない感覚に、ユイは改めてこのゲームの凄さを実感した。
少し進むと、音がはっきりしてきた。
ガッ!
ザシュッ!
そして、低い咆哮。
「グオォォォッ!」
次の瞬間、視界が開けた。
「わ……!」
そこは小さな空き地だった。
中央にいるのは、巨大な狼型モンスター。
体長は三メートルほど。
黒い毛並みと鋭い牙を持つ、いかにも強そうな敵だ。
《ダスクウルフ》
そのモンスターの前に、ひとりのプレイヤーが立っていた。
銀色の鎧。
長いマント。
手には大剣。
騎士だ。
「はっ!」
短い掛け声と共に、大剣が振り下ろされる。
ズドン!
重い一撃がダスクウルフの肩に叩き込まれた。
「グルァッ!」
モンスターが怒り、前足で薙ぎ払う。
しかし騎士は一歩だけ横へ動き、その攻撃をあっさり避けた。
「すご……」
ユイは思わず呟く。
戦い方が、明らかに慣れている。
騎士は大剣を構え直し、静かに言った。
「……終わりだ」
次の瞬間。
身体が一瞬だけ光った。
《スキル発動:ブレイブスラッシュ》
振り抜かれた剣が、空気を裂く。
ズンッ!!
衝撃音。
ダスクウルフのHPバーが一気に減った。
「グオ……」
モンスターはよろめき、地面に崩れ落ちる。
《ダスクウルフを討伐しました》
戦闘終了。
「はぁ……」
騎士は軽く息を吐いた。
どうやらソロプレイらしい。
(すごい人だなぁ……)
ユイは木の陰からこっそり見ていた。
こんな戦い、きっと自分にはできない。
するとそのときだった。
騎士がふと顔を上げる。
「……ん?」
そして、こちらを見た。
「えっ」
ばっちり目が合った。
「……見てたのか?」
低い声。
ユイは慌てて木の陰から出てくる。
「ご、ごめんなさい! 通りかかっただけで……!」
「いや、別に怒ってない」
騎士は苦笑した。
「始めたばかり?」
「はい。さっきログインしたばかりです」
その答えに、騎士は少し驚いたようだった。
「この森に来る初心者は珍しいな」
「え?」
「ここ、スタート地点から少し離れてる」
そうだったのか。
ユイは知らずに歩いてきてしまったらしい。
「モンスターも初心者向けじゃない」
「そ、そうなんですか……」
ユイは少し青くなる。
「でも」
騎士が続ける。
「庭があるだろ」
「え?」
ユイは首を傾げた。
「庭……?」
騎士は森の外、草原の方を指差す。
「さっきから、妙なバフがかかってる」
バフ?
「戦闘中に表示された」
騎士はメニューを開いた。
《星花の祝福》
《能力上昇:小》
「あ……!」
それ、さっき植えた星花の効果だ。
「もしかして」
騎士が言う。
「お前がやったのか?」
「えっと……多分」
ユイは説明した。
隠し職業を選んだこと。
星の種を植えたこと。
光る花が咲いたこと。
騎士は黙って聞いていた。
そして。
「……面白い職業だな」
ぽつりと呟いた。
「え?」
「戦闘中ずっとバフがかかってた」
つまり。
「それ、かなり強いぞ」
「えっ」
ユイは目を丸くする。
「そんな……」
ただ花を植えただけなのに。
騎士は少し考えてから言った。
「その庭、どこだ?」
「え?」
「見てみたい」
ユイは森の外を指差した。
「草原のところです」
「案内してくれ」
そして二人は草原へ戻る。
そこには。
小さな星の花が、静かに光っていた。
「……これか」
騎士はしゃがみ込み、花を見つめる。
ふわり、と光が広がる。
《星花の祝福》
《能力上昇》
騎士のHPバーの横に、バフアイコンが表示された。
「やっぱりだ」
そして彼は立ち上がり、ユイを見た。
「この庭」
一瞬、笑う。
「たぶん、すぐ有名になる」
「えぇ!?」
「だから」
騎士は剣を肩に担いだ。
「最初の客は俺にさせてくれ」
「客?」
「ここ、拠点にしたら面白そうだ」
そして彼は手を差し出す。
「俺はレオン」
「トップギルド《白銀の剣》の騎士だ」
ユイはその名前を知らなかった。
でも後になって知ることになる。
このプレイヤーが――
ランキング上位の有名プレイヤーだったことを。
そして。
この庭に集まる最初の守護騎士になることも。
まだ、このときは。
ユイも、レオンも。
この小さな星の庭に――
10人のプレイヤーが集まる未来を知らなかった。




