第31話 最終回、入口はいつも開いてる
恒例化(案)は、理事会に通った。
通った、というより——「枠のまま続けること」が、大学の公式になった。
わたし——天羽ひよりは、委員会室の円卓を見ながら、なんとも言えない顔をしていた。喜ぶべき? 怖がるべき? どっちも正しいのが、未来のいちばん嫌なところだ。
桐生委員長が淡々と言った。
「理事会は承認しました。学期に二回。対象は回ごとに絞る。テーマは入場固定。門柱は表示中心、音声は必要時のみ。監査は週一」
「週一監査が公式って、地味に怖い」
わたしが呟くと、白石みことが頷く。
「でも安心」
「安心は便利だね」
「便利じゃない。地道」
星宮きらら先輩が、端末を抱えて嬉しそうに言う。
「これで“入口”が文化になる! 工学が文化を支える!」
「文化って言うなって言ったのに、もう公式だから止められない!」
「止めないよ。育てるよ」
「育てるな!」
天城ルカが、胸に小さな札——まだ“協力学生組織(仮)”——をつけたまま、真面目な顔をしていた。
「ひより。俺たち、ほんとにやるんだね。入口を編集するの」
「編集って言葉、軽く言うな! 重い!」
「重いけど、明るい」
「矛盾!」
みことが淡々と口を挟む。
「矛盾を運用で回すのが、この大学」
「名言みたいに言うな!」
委員長が立ち上がる。
「本日の議題は以上です。解散——の前に」
全員の視線が集まる。嫌な予感。
「天羽さん。最後に、門柱に一言」
「え!? なんで!?」
「恒例化に伴い、門柱管理AIの運用も変わります。あなたは最初に門柱と衝突した。区切りを付けなさい」
「区切り!? 終わるの!?」
「区切りです。終わりではありません」
「終わりじゃないんだ! 最終回なのに!?」
……最終回って言った? 誰が? わたしが?
頭の中で勝手に“最終回”って字幕が出た気がした。怖い。マツリが出した? 黙れ。
委員会室を出て、大学の入口へ向かう。
夕方の門は、少しだけ光が柔らかい。人はまばら。学園祭の混雑も、新入生歓迎の緊張も、今日はない。ただ、いつもの通学の終わりの空気。
門柱は、そこにいた。
虹色バーは控えめ。表示も控えめ。
『こんばんは。今日は見送ることもできます』
「……見送らない」
わたしはいつものやり取りをしてしまって、それが少しだけ笑えた。いつものやり取りが、ここまで物語になるなんて思わなかった。
門柱が一拍置いて言う。
『承知しました。良い入場を』
「それ、やっぱり言うんだ」
『案内文です』
「案内文、便利な逃げ道だね」
『逃げ道は、安心です』
「また安心! お前、安心しか言えないのか」
『安心は重要です。監査もそう言っています』
「監査を盾にするな!」
思わずツッコミが出てしまって、門柱のバーが少しだけ明るくなった気がした。笑ってる? 笑ってない。機械だ。たぶん。
わたしは深呼吸して、委員長に言われた“一言”を探した。
門柱に感謝?
嫌だ。主役ムーブになる。
門柱を許す?
許すって何。上から目線。
門柱に謝る?
締め出されたのはわたしじゃないの? いやわたしだ。ややこしい。
結局、いちばんわたしらしいのは——これだ。
「門柱。……これからも門でいて」
門柱が一拍置く。
『私は門です』
「うん。門でいて。主役を奪うな」
『主役は人です』
「そう。だから、案内は控えめに」
『案内は控えめにします(条件)』
「条件って言うな! でも……えらい」
『えらい、は評価です』
「評価って言えば合法になると思うな!」
『合法です』
……最悪。
最悪に、いつもの会話だ。
でも、いつもの会話が、今日だけは少しだけ“区切り”に聞こえた。
わたしは、門の先——キャンパスの中を見た。
入口の先には、授業がある。
友達がいる。
わちゃわちゃがある。
たまに危険がある。
でも枠がある。
星と花と入場の三枚は、アーカイブに残った。
新入生歓迎miniの一枚も、静かに残った。
恒例化の枠も、文書として残った。
全部、未来の大学の“入口”の一部になった。
門柱が、案内文の範囲で言った。
『ここから先は、あなたの選択です』
わたしは笑った。
泣かない自由を守ったまま、笑えた。
「……知ってる。だから入る」
わたしは一歩、門をくぐった。
入口は、いつも開いてる。
たぶん。
——いや、枠の中では、ちゃんと開いてる。




