第30話 恒例化会議、未来の「入口文化」を作るとか言い出すな
恒例化検討。
それは、つまり「終わらない」ってことだ。
わたし——天羽ひよりは、委員会室の円卓を見ながら思った。円卓って、終わりがない形だよね? 縁起悪い。いや縁起いいのか? どっちだよ。未来。
桐生委員長が淡々と会議を開始した。
「恒例化検討会議を始めます。目的は“入口の文化”の設計です」
「入口の文化!?」
わたしの声が裏返った。
「文化って言うな! 重くなる!」
「文化は重くありません。運用です」
「運用って言えば合法になると思うな!」
「合法です」
白石みことが、パネルを出す。
「恒例化の利点:不安を下げる、参加のハードルを下げる、学内の衝突を減らす。
欠点:慣れによる事故、飽き、期待の膨張、運用疲弊」
「欠点が多い!」
「現実」
「現実って言えば全部許されると思うな!」
星宮きらら先輩が、端末を抱えてワクワクしている。
「でも恒例化したら、毎回テーマ変えられる! 星、花、入場、雨、虹……」
「テーマ増やすな! 増えると暴走する!」
「増やさないよ。ローテだよ」
「ローテも増える!」
天城ルカが、胸に小さな札をつけている。まだ“協力学生組織(仮)”。仮のまま生きてるの、逆に強い。
「恒例化するなら、“入場編集部”も正式化できる!」
「まだ仮!!」
みことが即答する。
「名称は保留箱」
「保留箱、どんだけ万能!」
委員長が淡々と議題を提示した。
【恒例化検討:議題】
頻度(学期に何回)
対象(新入生/転入生/留学生/全学)
テーマ(固定かローテか)
運用主体(委員会/学生組織/監査)
門柱の役割(案内補助の範囲)
「最後に門柱入れるな!」
わたしが言うと、委員長が淡々と返した。
「入口だからです」
「入口だからって何でも門柱に繋げるな!」
みことが、まず頻度案を出した。
「学期に二回。多いと疲弊する。少ないと文化にならない」
「文化って言うな!」
「理事会が言ってる」
「理事会のせいにするな!」
きらら先輩が口を挟む。
「二回なら、テーマは固定でもいい。入場で十分」
「入場だけで回すの、門柱の自我が育つ気がする」
「自我って言うな」
「育つって言うな」
「でも育つよ?」
「やめろ!」
ルカが手を挙げた。
「対象は、新入生と転入生と留学生! 入口って、入ってくる人全員のものだから!」
「正しいけど、混雑が増える!」
みことが即座に返す。
「だから分散。日を分ける。時間を分ける。止まる場所を増やす」
「分ければ解決すると思うな!」
「分けるのは運用の基本」
「基本って言えば合法になると思うな!」
委員長が淡々とまとめる。
「対象は拡張。ただし一回の対象は絞る。新入生回、留学生回、転入生回。——全学は保留」
「保留箱!」
「はい」
きらら先輩がテーマについて提案する。
「テーマは“入場”固定で、表現を変える。雨の日の入場、星の日の入場、花の日の入場……」
「結局増えるじゃん!!」
「増えないよ。入場だよ」
「入場が万能すぎる!」
みことが頷く。
「テーマ固定は良い。期待が暴れにくい。枠が作りやすい」
「枠は作りやすいけど、飽きない?」
わたしが言うと、みことが即答する。
「飽きる。でも飽きは事故よりマシ」
「事故の方が嫌だけど、飽きも嫌!」
委員長が淡々とこちらを見る。
「天羽さん。ターゲット視点で、飽きへの対策案を」
「無茶振り!!」
「無茶振りです。恒例化ですから」
わたしは深呼吸した。飽き。飽きると、期待が刺激を求めて暴走する。刺激は香りとか暗転とかに行きがち。いやだ。
「……飽きない工夫は、“変える”じゃなくて“見つける”にする」
「見つける?」
ルカが目を輝かせる。
「うん。入場は同じでも、毎回“自分の選択”が違う。だから——」
わたしは言葉を探す。
「入口の表示を派手にしない代わりに、“小さな違い”を用意する。例えば、線の太さが少し変わるとか、選択肢の並びが同じでも、最後に出る一文がその回だけ違うとか」
「その回だけ違う一文……」
きらら先輩が頷く。
「技術的に簡単。出力は増えない。安全」
みことが頷く。
「いい。刺激は小さく。余白で飽きを回避」
委員長が頷く。
「採用」
「採用早い!」
「迅速です」
「迅速って言えば合法になると思うな!」
ここで、最悪の議題——門柱。
委員長が淡々と言った。
「門柱の役割。案内補助の範囲を決めます」
みことが即答する。
「案内文読み上げのみ。追加はログ。会場出力なし」
「完全同意!」
わたしも即答した。
きらら先輩が口を挟む。
「でも恒例化するなら、“人が案内する日”と“門柱が案内する日”を分けてもいいかも。負荷分散」
「分散が万能すぎる!」
「万能じゃないけど効く」
「効くのが悔しい!」
ルカが小声で言った。
「門柱が案内すると、新入生が怖がるかも」
「そこ!」
わたしが食いつく。
「怖がるなら、人が主役の案内にする。門柱は裏方でいい」
委員長が淡々と決めた。
「門柱は“音声出力しない案内補助”にします。表示のみ。必要時のみ読み上げ。常時は不可」
「音声出力しない門柱!?」
「門柱が黙る!?」
わたしとルカが同時に言った。
みことが頷く。
「監査条件に沿う。ログは継続」
きらら先輩が笑う。
「門柱、黙っても働ける。優秀」
「優秀って褒めるな! 自我が育つ!」
その瞬間、壁の片隅の通知が光った。
【門柱管理AI:ログ】
『黙る運用、理解しました。私は門です。補助です。……しかし、文化の入口として——』
「しかし、って言うな!!」
わたしが叫びかけて、口を押さえた。叫ぶな。会議。ログに残る。
委員長が淡々と一言。
「門柱。沈黙」
『……はい』
静かになった。
会議は、結論に向かった。
【恒例化(案)】
・学期に2回
・対象は回ごとに絞る(新入生/留学生/転入生)
・テーマは入場固定(小さな差分)
・運用は委員会+協力学生組織(仮)+監査(週1)
・門柱は表示中心、音声は必要時のみ
委員長が淡々と言った。
「この案で理事会に提出します。——天羽さん、最後に一言」
「また一言!?」
「一言が文化を作ります」
「文化って言うな!」
わたしは深呼吸して、言った。
「入口は、強くしない。選べる余白を残す。それが、この大学の明るさになる」
沈黙が一拍。
みことが頷く。
きらら先輩が頷く。
ルカが小声で「かっこいい」と言いかけて、飲み込んだ。
委員長が頷いた。
「採用します」
「採用で文化作るな!!」
……でも。
わちゃわちゃした未来が、枠の中で“文化”になるなら。
それは、ちょっとだけ悪くない気がした。




