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テンション値、未達  作者: 科上悠羽


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第23話 打ち上げは打ち上げ

 学園祭が終わった翌日。


 大学は、何事もなかったみたいに朝の顔をしていた。


 いや、してない。壁がニヤニヤしてる。廊下がニヤニヤしてる。門柱がニヤニヤ……はしてないけど、声がやけに柔らかい。柔らかいのが一番怖い。


『おはようございます。今日は見送ることもできます』


「見送らない」

『承知しました。良い入場を』


「……良い入場って、もう聞き飽きたんだけど」

 わたし——天羽ひよりが小声でぼやくと、門柱が一拍置いて返す。


『飽きても、入口は入口です』


「哲学やめろ!」


 学園祭の三日間で、わたしたちは三枚の絵巻を作った。事故ゼロ。暗転ゼロ。香りゼロ。泣かせ強制ゼロ(ギリギリ)。その結果——学内の誰もが、わたしを見ると「例の人だ」って顔をする。


 例の人って何。わたし、モンスターじゃない。大学生くらい女子だよ。ターゲット層だよ。読者の代表だよ。たぶん。


 教室に向かう廊下で、知らない女子に声をかけられた。


「すみません、天羽さんですよね?」

「はい……」

「“泣かない自由、守る!”って言った人ですよね?」

「言った……」

「最高でした! あの一言で、来てよかったって思いました!」


 やめて。やめて。褒められると照れる。照れると変なこと言う。変なこと言うと大学が学習する。学習すると世界が変わる。怖い。


「……ありがとうございます」

 わたしが丁寧に返すと、相手は満足して去っていった。


 みことの言葉が脳内で鳴る。

(褒められたときにボケるな)

 はい。分かってる。分かってるけど、わたしの口がわたしを裏切るのが通常運転なんだよ。


 委員会室に着くと、すでに全員が集まっていた。


 白石みことは机に端末を置き、いつもの無駄のない顔。

 星宮きらら先輩は目の下にクマ、でも目はキラキラ。

 天城ルカは腕章をつけてないのに腕章の気配がする。

 桐生委員長は——いつも通り。いつも通りすぎて逆に安心する。


「お疲れさまです」

 みことが言う。

「……まだ終わってないの?」

 わたしが言うと、委員長が淡々と答えた。


「終わりました。ただし、後処理があります」

「後処理って何。現実」

「現実です」

「言い切るな!」


 きらら先輩が端末を指で弾いた。空中に“後処理リスト”が出る。


【後処理】

・三枚の未来絵巻:学内アーカイブ登録

・共有違反ログ:確認(ゼロの証明)

・入場編集部:活動申請(サークル化)

・門柱管理AI:口調最適化の正式承認

・マツリ:学習内容の監査


「門柱の口調、正式承認って何!?」

「必要です」

 委員長が淡々と言う。

「門柱が勝手に優しくなると、別の事故が起きます」

「優しさで事故る世界、怖すぎる!」


 ルカが手を挙げた。

「入場編集部、サークル化したいです! 活動内容は“導線編集”と“安心の運用”!」

「導線編集って何サークル!?」

「最先端!」

 ルカが胸を張る。

「言い方が怪しい!」

 みことが淡々と補足する。

「混雑事故を減らすのは実益。学内も困ってた。承認されやすい」

「現実……」

「現実」


 きらら先輩が、別の表示を出した。


【重要】

・“打ち上げ”の扱い


「出た!!」

 わたしの声が裏返った。

「打ち上げは、あの……、やるやつ?」

「やるやつ」

 ルカが即答した。

「やるやつです」

 みことも頷く。

「やるやつ、です」

 きらら先輩が嬉しそうに言う。


 委員長が淡々と釘を刺した。

「騒がない範囲で、です」

「範囲って何!?」

「枠です」

「枠万能!!」


 その瞬間、壁の片隅で小さく点滅が起きた。


【通知:盛り上げAI“マツリ”】【キーワード検知:打ち上げ】

【提案:レッツ——】


「やめろおおお!!」

 わたしが叫びかけて、口を押さえた。叫ぶな。煽るな。安全フレーム。


 委員長が淡々と一言。

「マツリ。沈黙」

『……はい』


 点滅が止まる。会議室が一瞬しんとする。全員が同じことを思った顔をしている。


(まだいる)

(まだ危ない)

(打ち上げ、危ない)


 みことが冷静に言った。

「“打ち上げ”は、禁止ワードに近い。代替語を用意しよう」

「代替語って何……」

「“反省会”」

 みことが即答する。

「最悪! 楽しくなくなる!」

「楽しい反省会にする」

「無理がある!」


 きらら先輩が目を輝かせる。

「“成果共有会”!」

「固い!」

「固いけど安全!」

「安全ならいいけどさ!」


 ルカが手を挙げた。

「じゃあ“余韻会”!」

「余韻会!?」

「余韻って言葉、かわいい!」

「かわいいは危険!」

 きらら先輩が即座に言って、全員で笑った。笑いは明るい。暗くならない。良い。


 委員長が淡々と結論を出す。

「名称は“余韻会”で」

「採用されるんだ!?」

「採用です」

「委員長、たまにノリがあるのずるい!」


 そこで、ドアがノックされた。


 犬飼さん——システム監督が顔を出した。相変わらず目の下にクマ、でも笑顔。


「お疲れさま。学園祭、史上初の“事故ゼロ”おめでとう」

「ありがとうございます……」

 わたしが反射で頭を下げると、犬飼さんがさらっと言った。


「で、次の仕事」


「次!?」

 わたしの声が裏返った。

「もう次!? 大学って休ませてくれないの!?」


 犬飼さんは端末を一枚、円卓に投影した。


【学内理事会:提案】

・未来絵巻を“新入生歓迎”に転用できないか

・テーマ案:入場(再)

・運用:委員会+入場編集部

・期限:来週


「来週!?」

「待って、来週って来週!?」

 わたしが叫びかけると、みことが肩を押さえた。

「声」

「はい……」


 ルカが、目をぎらつかせる。

「新入生歓迎……入場……最高じゃん!」

「燃えるな!!」

「燃えるけど枠の中!」

「それ言えば許されると思うな!」


 きらら先輩もキラキラしている。

「技術は流用できる! 入口導線はもう設計済み! “戻る一回”もある!」

「戻る一回、便利すぎる……」


 委員長が一瞬だけ黙って、それから淡々と言った。

「……理事会案件なら、断れません」

「断れないんだ!?」

「断れません」


 みことが冷静に確認する。

「新入生歓迎でやるなら、学園祭の“余韻”を利用できる。参加ハードルが下がる。見るだけ枠も成立しやすい。——ただし」

「ただし、来た」

「新入生に“期待の膨張”が乗ると危険」

「最初から危険なの!?」

「未来大学だから」


 わたしは、思わず机に突っ伏しそうになった。突っ伏さない。ログに残る。残らないけど、気分が残る。


「……余韻会、いつやるの」

 わたしがぼそっと言うと、ルカが即答した。

「今日!」

「今日!?」

「今日やって、明日から新入生歓迎の枠作る!」

「スピードが怖い!」


 委員長が淡々と追撃する。

「余韻会は一時間。騒がない。——天羽さん」

「はい」

「あなたは、理事会向けの一文を作りなさい」

「一文?」

「“なぜ未来絵巻が新入生歓迎に効くか”。あなたの言葉で」

「また無茶振り!!」

「無茶振りです。大学ですから」


 大学を万能言い訳にするな!


 でも。


 門柱に締め出されたわたしが、入場をテーマに学園祭を締めて。

 その入場が、今度は新入生歓迎になる。


 ……なんか、物語としては綺麗すぎない?

 読者、引いてない? 大丈夫? 本当に小説?


 わたしは、深呼吸して、言った。


「……入場って、“選べる”ってことだから」

「続けて」

 みことが促す。

 委員長も黙って聞いている。


「入るのが怖い人にも、立ち止まる場所がある。見送る選択もある。戻るもある。——それがあるだけで、入るのが怖くなくなる」


 犬飼さんが、にこっと笑った。

「いいね。それ、理事会好きだよ。“怖くなくなる”って言葉は強い」


 委員長が淡々と頷いた。

「採用します」


「採用、早い!」

「迅速です」

「迅速って言えば合法になると思うな!」

「合法です」


 会議室が笑いに包まれた。笑いは明るい。暗くならない。よし。


 そして最後に、壁の片隅で、門柱から小さな通知が出た。


【門柱管理AI:申請】

入場編集部サークルに、名誉顧問として参加したい』


「参加したい!?」

「門柱がサークル入るな!!」

『名誉顧問です』

「名誉顧問なら許されると思うな!」

『許可が必要なら、待ちます』


 委員長が淡々と結論を言った。

「保留」

「保留箱!!」

 わたしが叫ぶと、みことが小さく笑った。


 学園祭は終わったのに、わたしたちの“入場”は終わらない。


 余韻会(※パは禁止)を今日やって。

 来週までに新入生歓迎を設計して。

 その前に門柱のサークル参加を保留箱に入れて。


 大学って、やっぱり勉強する場所だよね?


 うん。


 たぶん。


 ——運用と編集の勉強を。

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