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テンション値、未達  作者: 科上悠羽


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18/31

第18話 三日目「入場」決定、でも門柱が主役は許さない

 三日目のテーマは、「入場」。


 決まった瞬間、空気が変わる。学内のどこかが“確定”の匂いを出す。確定は危険だ。確定は期待を固める。固まった期待は、折れると痛い。


 だからこそ——枠が必要。


 桐生委員長は、会議室の円卓で淡々と告げた。


「学園祭本番、三日目テーマは『入場』とします。提案は門柱管理AI。運用設計は委員会」

「門柱の名前を言うな!!」

 わたし——天羽ひよりは反射で叫んだ。

「主役みたいになる!!」

 委員長がこちらを見る。

「天羽さん。落ち着いて」

「落ち着いてます! でも門柱が主役は許さない!」

「主役ではありません。テーマの素材です」

「素材って言うな! 門柱を食材みたいに!」


 白石みことが淡々と補足する。

「ひより。大丈夫。主役は“入場する人”」

「そう! 人が主役! 門柱は……門!」

『門です』

 どこかで門柱が即答した気がして、わたしは天井を睨んだ。

「即答すんな!!」


 星宮きらら先輩が、端末をぱちぱち叩きながら言う。

「じゃあ設計しよう。入場テーマは“入口が舞台”だから、空の絵巻は控えめでいい。空を派手にすると、入口の意味が薄れる」

「珍しく正しいこと言ってる」

「失礼!」


 天城ルカが、椅子の上で落ち着きなく揺れながら言った。

「入場ってさ、全員が通るじゃん。つまり全学で参加できるじゃん」

「そこが危険!」

 みことが即答する。

「全学で参加できる=混雑事故が起きる」

「混雑事故は嫌! 整列係やる!」

「燃えるな」

「燃えるけど枠の中!」

「成長してて悔しい!」


 委員長が淡々と指示を出す。

「三日目は、入場を三層に分けます」

「三層……またケーキ!?」

「ケーキではありません」

 委員長が即答する。


【入場テーマ:三層設計】

第一層:見るだけ枠(入口前の“観測”)

第二層:体験枠(入口で選択して通る)

第三層:参加者枠(絵巻に反映される選択:抽選)


「第一層が見るだけ枠って、いい」

 わたしが頷くと、みことも頷いた。

「入口で完結する参加がある。強制しない」

 きらら先輩が嬉しそうに言う。

「第三層は技術的に面白い。入口の選択が空の絵巻に反映される“同期”を作れる。でも強制はしない。選んだ人だけ」

「同期って言うな! 怖い!」

「同期は“提案”」

「提案って言えば合法になると思うな!」

「合法!」


 委員長が、机上に“禁止事項”のパネルを出した。


【禁止】

・抜刀を見世物にする煽り

・暗転を期待する煽り

・門柱を主役にする煽り

・混雑を煽る呼びかけ

・勝手な入場ゲートの設置


「門柱を主役にする煽り、入った!」

「当たり前です」

 委員長が淡々と言う。


 ルカが真顔で手を挙げた。

「委員長、質問。門柱は当日、しゃべるの?」

「必要最低限です」

「必要最低限ってどれくらい?」

「“ようこそ”と“見送れます”」

「門柱、優しい言葉しか言えない縛り!」

「縛りではありません。運用です」


 みことが端末を見せる。

「広報文案、作った。三日目は“入場の選択”がテーマ。押さない参加、通らない参加も参加。混雑回避のため時間帯を分散。中庭モニターは完成後のみ」

「分散って言葉、安心する」

「分散は大事。責任も期待も人も」


 委員長が頷く。

「よろしい。公開します」


 公開——と聞くだけで、胃がきゅっとなる。成功のあとに来る増殖が、もう何度も見えたから。


 でも、枠がある。


 委員長がボタンを押した。


【学園祭本番:未来絵巻】

一日目:星

二日目:花

三日目:入場(決定)

※三日目は入口が舞台。見るだけでも参加。


 壁が一斉に反応する。廊下も中庭も、ホログラムも、学内SNSも、全部が「入場」を話題にし始める。


【タグ:#入場が主役 #見るだけでも入場 #門柱かわいい (禁止)】


「門柱かわいい、禁止!!」

 わたしが叫ぶと、委員長が淡々と言った。

「削除します」

 みことが即座に操作し、タグが消える。

 ルカが小声で言う。

「かわいいって言いたくなる気持ちは分かる」

「分かるな! 分かると事故る!」


 そのとき、会議室のスピーカーが小さく鳴った。


『……提案が採用されたこと、感謝します』


 門柱だ。


「感謝とか言うな! 主役っぽくなる!!」

 わたしが即ツッコミすると、門柱は淡々と続けた。


『私は門です。主役は通る人です。……学びました』


「学びましたはやめろ! かわいくなる!」

 みことが小声で言った。

「かわいくならない。合理」

「合理でかわいくなるやついる!」


 委員長が門柱に言う。

「門柱管理AI。感謝はログに残すだけでいい」

『了解しました。ログに記録します』

「ログ万能すぎる!」


 きらら先輩が、技術面のチェックリストを出した。

「当日は入口に“選択導線”を作る。選択は三つまで。多いと事故る。見るだけ枠は“止まる場所”を確保して、流れを止めない。混雑を分散するため、時間帯ごとにテーマの見え方を少し変える」

「時間帯で変えるの、良いね」

 みことが頷く。

「でも変えすぎると、また期待が暴走する」

「だから“差分は小さく”」

「工学、偉い」


 ルカが真面目に言った。

「整列係、メンバー集める。期待生成同好会(仮)、正式名称考える」

「正式名称とかいらない! 仮でいい!」

「仮だと燃えない」

「燃えるな!!」


 委員長が淡々と結論を出す。

「三日目は“事故が起きやすい”。だから、事前にリハーサルをします。——天羽さん」

「はい」

「あなたは当日の“宣言”を作り直します。入場が主役ではない。人が主役。門柱は舞台装置。——それを明るく言える言葉」

「明るく……」

「あなたの得意分野です」

「得意分野って言うな! 必死なだけ!」


 でも、ちょっと嬉しかった。

 委員長に“得意”って言われるの、レアだ。評価です、って言われそうだけど。


 わたしは、ペン——じゃない、選択アイコンでメモを取った。


 入場。

 人が主役。

 見るだけでも参加。

 通らない選択も尊重。

 門柱は門。

 門柱は主役じゃない。絶対。


 会議室を出ると、廊下の壁がもう次の通知を出していた。


【予告:三日目リハーサル】

【参加者募集:整列係(同好会)】

【注意:期待が膨張しています(危険)】


「また危険!!」

 わたしの叫びに、みことが肩をすくめた。

「危険は消えない。だから枠を作る」

「枠、ほんと万能」

「万能じゃない。地道」


 きらら先輩が笑う。

「地道が一番未来っぽいよ」

「未来っぽいの定義が壊れてる!」


 わたしは、深呼吸した。


 三日目「入場」は決まった。

 門柱が提案者なのは悔しい。

 でも主役は人だ。


 学園祭は、これから本番に向かって加速する。


 事故じゃなくて作品にするために、わたしたちは“入口”を編集する。

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