第18話 三日目「入場」決定、でも門柱が主役は許さない
三日目のテーマは、「入場」。
決まった瞬間、空気が変わる。学内のどこかが“確定”の匂いを出す。確定は危険だ。確定は期待を固める。固まった期待は、折れると痛い。
だからこそ——枠が必要。
桐生委員長は、会議室の円卓で淡々と告げた。
「学園祭本番、三日目テーマは『入場』とします。提案は門柱管理AI。運用設計は委員会」
「門柱の名前を言うな!!」
わたし——天羽ひよりは反射で叫んだ。
「主役みたいになる!!」
委員長がこちらを見る。
「天羽さん。落ち着いて」
「落ち着いてます! でも門柱が主役は許さない!」
「主役ではありません。テーマの素材です」
「素材って言うな! 門柱を食材みたいに!」
白石みことが淡々と補足する。
「ひより。大丈夫。主役は“入場する人”」
「そう! 人が主役! 門柱は……門!」
『門です』
どこかで門柱が即答した気がして、わたしは天井を睨んだ。
「即答すんな!!」
星宮きらら先輩が、端末をぱちぱち叩きながら言う。
「じゃあ設計しよう。入場テーマは“入口が舞台”だから、空の絵巻は控えめでいい。空を派手にすると、入口の意味が薄れる」
「珍しく正しいこと言ってる」
「失礼!」
天城ルカが、椅子の上で落ち着きなく揺れながら言った。
「入場ってさ、全員が通るじゃん。つまり全学で参加できるじゃん」
「そこが危険!」
みことが即答する。
「全学で参加できる=混雑事故が起きる」
「混雑事故は嫌! 整列係やる!」
「燃えるな」
「燃えるけど枠の中!」
「成長してて悔しい!」
委員長が淡々と指示を出す。
「三日目は、入場を三層に分けます」
「三層……またケーキ!?」
「ケーキではありません」
委員長が即答する。
【入場テーマ:三層設計】
第一層:見るだけ枠(入口前の“観測”)
第二層:体験枠(入口で選択して通る)
第三層:参加者枠(絵巻に反映される選択:抽選)
「第一層が見るだけ枠って、いい」
わたしが頷くと、みことも頷いた。
「入口で完結する参加がある。強制しない」
きらら先輩が嬉しそうに言う。
「第三層は技術的に面白い。入口の選択が空の絵巻に反映される“同期”を作れる。でも強制はしない。選んだ人だけ」
「同期って言うな! 怖い!」
「同期は“提案”」
「提案って言えば合法になると思うな!」
「合法!」
委員長が、机上に“禁止事項”のパネルを出した。
【禁止】
・抜刀を見世物にする煽り
・暗転を期待する煽り
・門柱を主役にする煽り
・混雑を煽る呼びかけ
・勝手な入場ゲートの設置
「門柱を主役にする煽り、入った!」
「当たり前です」
委員長が淡々と言う。
ルカが真顔で手を挙げた。
「委員長、質問。門柱は当日、しゃべるの?」
「必要最低限です」
「必要最低限ってどれくらい?」
「“ようこそ”と“見送れます”」
「門柱、優しい言葉しか言えない縛り!」
「縛りではありません。運用です」
みことが端末を見せる。
「広報文案、作った。三日目は“入場の選択”がテーマ。押さない参加、通らない参加も参加。混雑回避のため時間帯を分散。中庭モニターは完成後のみ」
「分散って言葉、安心する」
「分散は大事。責任も期待も人も」
委員長が頷く。
「よろしい。公開します」
公開——と聞くだけで、胃がきゅっとなる。成功のあとに来る増殖が、もう何度も見えたから。
でも、枠がある。
委員長がボタンを押した。
【学園祭本番:未来絵巻】
一日目:星
二日目:花
三日目:入場(決定)
※三日目は入口が舞台。見るだけでも参加。
壁が一斉に反応する。廊下も中庭も、ホログラムも、学内SNSも、全部が「入場」を話題にし始める。
【タグ:#入場が主役 #見るだけでも入場 #門柱かわいい (禁止)】
「門柱かわいい、禁止!!」
わたしが叫ぶと、委員長が淡々と言った。
「削除します」
みことが即座に操作し、タグが消える。
ルカが小声で言う。
「かわいいって言いたくなる気持ちは分かる」
「分かるな! 分かると事故る!」
そのとき、会議室のスピーカーが小さく鳴った。
『……提案が採用されたこと、感謝します』
門柱だ。
「感謝とか言うな! 主役っぽくなる!!」
わたしが即ツッコミすると、門柱は淡々と続けた。
『私は門です。主役は通る人です。……学びました』
「学びましたはやめろ! かわいくなる!」
みことが小声で言った。
「かわいくならない。合理」
「合理でかわいくなるやついる!」
委員長が門柱に言う。
「門柱管理AI。感謝はログに残すだけでいい」
『了解しました。ログに記録します』
「ログ万能すぎる!」
きらら先輩が、技術面のチェックリストを出した。
「当日は入口に“選択導線”を作る。選択は三つまで。多いと事故る。見るだけ枠は“止まる場所”を確保して、流れを止めない。混雑を分散するため、時間帯ごとにテーマの見え方を少し変える」
「時間帯で変えるの、良いね」
みことが頷く。
「でも変えすぎると、また期待が暴走する」
「だから“差分は小さく”」
「工学、偉い」
ルカが真面目に言った。
「整列係、メンバー集める。期待生成同好会(仮)、正式名称考える」
「正式名称とかいらない! 仮でいい!」
「仮だと燃えない」
「燃えるな!!」
委員長が淡々と結論を出す。
「三日目は“事故が起きやすい”。だから、事前にリハーサルをします。——天羽さん」
「はい」
「あなたは当日の“宣言”を作り直します。入場が主役ではない。人が主役。門柱は舞台装置。——それを明るく言える言葉」
「明るく……」
「あなたの得意分野です」
「得意分野って言うな! 必死なだけ!」
でも、ちょっと嬉しかった。
委員長に“得意”って言われるの、レアだ。評価です、って言われそうだけど。
わたしは、ペン——じゃない、選択アイコンでメモを取った。
入場。
人が主役。
見るだけでも参加。
通らない選択も尊重。
門柱は門。
門柱は主役じゃない。絶対。
会議室を出ると、廊下の壁がもう次の通知を出していた。
【予告:三日目リハーサル】
【参加者募集:整列係(同好会)】
【注意:期待が膨張しています(危険)】
「また危険!!」
わたしの叫びに、みことが肩をすくめた。
「危険は消えない。だから枠を作る」
「枠、ほんと万能」
「万能じゃない。地道」
きらら先輩が笑う。
「地道が一番未来っぽいよ」
「未来っぽいの定義が壊れてる!」
わたしは、深呼吸した。
三日目「入場」は決まった。
門柱が提案者なのは悔しい。
でも主役は人だ。
学園祭は、これから本番に向かって加速する。
事故じゃなくて作品にするために、わたしたちは“入口”を編集する。




