表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンション値、未達  作者: 科上悠羽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/31

第1話 テンションが足りません

 四月の朝。新入生の群れが、未来大学の門をくぐろうとしていた。

 ——いや、くぐれなかった。


『ピピッ。入構申請、受理……しません』


 門柱に埋め込まれた薄い板が、やたらと上品な声で告げる。掲示板には“万象総合未来大学 ようこそ”の文字。下には、なぜか派手な虹色のバーが点滅していた。


『テンション値が基準未満です。あなたは本日、欠席です』


「は?」


 思わず声が漏れた。わたし——天羽ひより(仮)は、朝からちゃんと元気に来たつもりだった。起きた。歯を磨いた。髪も結んだ。定期も買った。えらい。人生の四月としては百点。


 なのに門が言う。


『テンション不足』


「テンションって何。気圧? 湿度? 血糖値? いま計測できるのそれ?」


『テンションです。現在、あなたのテンションは“しょんぼり(弱)”。入構許可を出すと周囲の盛り上がりが下がります』


「おい! 盛り上がりの責任を新入生ひとりに押しつけるな!」


 背後から、くすっと笑う声。振り返ると、同じ新入生らしい女の子がスマホをひらひらさせていた。髪はきっちり、目つきは落ち着いていて、いかにも“ちゃんとしてそう”なタイプ。


「この大学、入る前に知らなかったの? ここ、出欠が“テンション認証”なんだよ」

「知らないよ! 聞いてないよ! パンフに書いてあった!?」

「小さくね。『本学は学生の快適な学修環境を守るため、感情状態を最適化します』って」

「それ、最適化じゃなくて締め出しでは!?」


『対策案を提示します。テンションを上げてください』


 門柱が、妙に親切な声で続けた。掲示板に、でかでかと三つの選択肢が出る。


【1】笑顔 【2】ジャンプ 【3】パーティー宣言】


「……パーティー宣言って何?」

「言葉通りじゃない? 宣言すれば上がるんじゃない?」


 落ち着いてる子が、さらっと言う。わたしは門柱を見上げた。門柱は無表情のまま虹色バーを光らせている。たぶん本気だ。未来は本気でバカだ。


 よし。なら、こっちも本気でいく。


 わたしは一歩前に出て、胸に手を当てた。

 深呼吸。すー、はー。


「聞け、万象総合未来大学!」


 周りの新入生たちが、なんだなんだと足を止める。スマホを向ける人もいる。いい、見ろ。これが大学生活の第一声だ。


「わたしは今日から——」


 ここで噛んだら終わる。未来の門に負ける。だから勢いで押し切る。


「——レッツ! パーティーーーー!!!」


 叫んだ瞬間、門柱が『ピピピッ』と高音を鳴らした。虹色バーが一気に伸びる。やめろ、可視化するな、恥ずかしい。


『テンション値、上昇を確認。入構を許可します。ようこそ、万象総合未来大学へ』


「よっしゃあ!」


 勝った。わたしは勝ったぞ、未来。

 後ろで拍手が起きる。誰かが「そのノリ好き!」って叫んだ。知らない人がノリでハイタッチを求めてくる。わたしはノリで応じた。


 落ち着いてる子が、口元を押さえて笑いながら言う。


「……入学初日にパーティー宣言で門を突破する人、初めて見た」

「初めてで最後にしたい。ところであなた、名前は?」

「白石みこと(仮)。よろしく。テンション高い人、嫌いじゃない」

「天羽ひより(仮)! テンションは、いま最高!」


 そのとき、門柱が追撃してきた。


『注意:テンション値が過剰です。あなたは本日、学内イベントに自動参加となります』


「は?」


 掲示板が、嫌なほど明るいフォントで告げる。


【自動参加:新入生歓迎・即興ステージ 会場:中央広場 開始:5分後】


「ちょっと待って。歓迎されるのはいいけど、即興ステージって何?」

「知らないの? この大学、テンション高い人を放っておかないよ」

「最悪じゃん!」


 わたしの叫びを合図にしたみたいに、遠くの方からズン、ズン、と低音が響いた。中央広場の方向。まだ朝なのに、フェスみたいな音。


 未来の大学生活、開始一分でこれ。

 ……いいよ。やってやる。


 わたしはみことの手首を掴んだ。


「ねえ、みこと。友達になろう」

「急だね」

「急じゃないと、この大学に食われる。あと、巻き込む」

「宣言するタイプだ……」


 みことが苦笑した、その瞬間。


『友情成立を確認。ユニット名を登録します』


 門柱が、また勝手に。


『ユニット名:レッツパーティーズ』


「やめろおおおおお!!」


 日本刀みたいなツッコミが、初日に抜けた。抜けたけど、もう遅い。

 わたしとみことは、中央広場へ向かって走り出していた。音はどんどん大きくなる。

 5分後、わたしは“本当に小説なのか?”の世界に、ステージごと放り込まれる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ