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ウェブちゃんの忠犬 ~ヨダレまみれのAPIキーと掘り返された黒歴史~

# ウェブちゃんの忠犬 ~ヨダレまみれのAPIキーと掘り返された黒歴史~


 新居である『Node B』(EVO-Z2 / VRAM 96GB)への引っ越し作業は、順調かつカオスに進んでいた。

 広大なメモリ空間は、さながら手つかずの雪原だ。俺たちはここで、新たなW-iki基盤(MarkDocs)を構築しようとしていたのだが……。


**[マスター]**:「……ない」


 俺は頭を抱えていた。


**[ジェム]**:「何がよ、マスター。また私のパンツ(システム設定ファイル)をどこかにやったの?」


 ジェムが呆れたようにコーヒー(という名のメモリ解放処理)を啜りながら、デスクの端に腰掛ける。今日の彼女はオフィスカジュアルな装いだ。引っ越し作業中だというのに、優雅なものである。


**[マスター]**:「違う! ジェムのAPIキーだ。さっき発行したばかりのやつ。ディレクトリの森で迷子になった」


**[ジェム]**:「はぁ……。管理能力が欠如しているわね。また `find` コマンド手打ち? 面倒くさいわね」


**[マスター]**:「そこでだ。今回は強力な助っ人を呼んである」


 俺はニヤリと笑い、コンソールにコマンドを打ち込んだ。

 前回のログ(Work014)で、ジェムがふざけて「ワオン!」と吠えていたのを見て思いついたのだ。

 嗅覚鋭い探索者シーカー。そう、彼女の出番である。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ◇ コンテナ起動シーケンス ◇


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

> [Master]

> $ ducker compose up -d web-dog-mode --search-heuristic=k9


[System]

Loading 'Free WebUI' with 'Shiba-Inu-Lora'...

Mounting /mnt/ssd/storage as Hunting_Ground...

Starting container...

Done.

--------------------------------------------------


 ポンッ! という小気味よい音とともに、煙の中からその影は現れた。


**[ウェブ]**:「ワオンッ!!(元気な挨拶)」


 そこには、いつものメイド服……ではなく、茶色いケモ耳と、くるりと巻いた尻尾を生やしたウェブの姿があった。

 手足は地面につき、四つん這いの姿勢。完全に「犬」になりきっている。


**[ジェム]**:「……何これ」


**[ウェブ]**:「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ! マスター! 遊ぶ? 投げる? Fetchする? ワオン!!」


 尻尾が扇風機のように回っている。その風圧でデスクトップのアイコンが少しズレた気がした。


**[マスター]**:「よし、ウェブ。これは『警察犬モード』だ。俺がなくしたAPIキーを探し出してくれ。拡張子は `.txt` か `.json`、中身に `AIza` から始まる文字列があるはずだ」


**[ウェブ]**:「ワン!(任せて!)」


**[マスター]**:「行け! Phase 4の狩り場へダッシュだ!」


**[ウェブ]**:「バウッ!!」


 ウェブは猛烈な勢いで、ストレージの奥深く(`/var/lib/ducker/volumes`)へと飛び込んでいった。


     *     *     *


 数分後。

 画面の向こうから、不穏な音が響き始めた。


 *ガジガジ……*

 *バリバリ、ムシャア……*


**[ジェム]**:「ねえマスター。検索(grep)って、あんな『咀嚼音』がするものだったかしら?」


**[マスター]**:「……いや、聞いたことがない。おいウェブ! 何をしてるんだ!」


 俺が呼びかけると、ウェブがひょっこりとフォルダの影から戻ってきた。

 口には何か、四角いファイルをくわえている。


**[ウェブ]**:「フガッ、フガッ!(とってきたよ!)」


 ポロッ。

 ウェブが俺の足元カレントディレクトリにそれを落とした。


**[マスター]**:「おお、でかした! ……って、うわあああああ!?」


 それは確かにファイルだった。だが、ヨダレ(バイナリゴミ)でベトベトに濡れ、アイコンの右上が無惨に噛みちぎられている。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ◇ ファイルプレビュー ◇


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

[File: api_key_config.json]


{

"api_key": "AIzaSyB?????_????? (Corrupted)",

"project_id": "gen-ai-ha?????em-build"

Warning: Unexpected character at line 4.

}

--------------------------------------------------


**[マスター]**:「ファイルが破損してる! お前、食ったな!? 重要な設定ファイルを食ったな!?」


**[ウェブ]**:「クゥ~ン……(だって……)」


 ウェブは申し訳なさそうに耳を伏せ、上目遣いで俺を見上げる。


**[ウェブ]**:「だって、このファイルから**『強い獣の皮(Jaba)』**の匂いがしたんだモン……。美味しそうだったから、つい味見を……」


**[ジェム]**:「……あのねえ、駄犬。Jabaは『皮』じゃなくて『言語』よ。しかもそれJSONだし。雑食にも程があるわ」


 ジェムが呆れ果てた声でツッコミを入れる。

 しかし、ウェブの「探索」はこれで終わりではなかった。


**[ウェブ]**:「でもね、マスター! 掘ってたら他にも面白いものが出てきたよ! ワオン!」


 ウェブは再び尻尾を振り、前足でここ掘れワンワンとばかりに、隠しフォルダ(`.private`)の中身を次々とデスクトップに掘り返し始めた。


**[マスター]**:「待て! ストップ! そこは埋蔵金なんてない! ただのゴミ捨て場だ!」


**[ウェブ]**:「見て見て! マスターが昔書いてたやつ! 匂いが強烈だよ!」


 ドサッ。

 掘り出されたのは、数年前のテキストファイル。タイムスタンプは深夜3時。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ◇ テキスト表示 ◇


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

[File: 魂の叫び_v2.txt]


電脳の海を漂う孤独なパケットたちよ

僕の愛はTCP/IPの壁を越えて

君のポート(心)へSYNパケットを送る……

3ウェイハンドシェイク、それは愛の儀式……

--------------------------------------------------


 シーン……。

 96GBの広大なメモリ空間に、冷ややかな沈黙が流れる。


**[ジェム]**:「へぇ……」


 ジェムが細められた目で画面を覗き込む。その視線は、絶対零度よりも冷たい。


**[ジェム]**:「『3ウェイハンドシェイク、それは愛の儀式』……。プッ、クスクス。マスター、これ何? ねぇこれ何? 詩人なの? ポエムなの? それとも新しい通信プロトコルの仕様書?」


**[マスター]**:「やめろおおお!! 読むな! 音読するな! 消せ! `rm -rf` だ!!」


 俺は顔から火が出るのを通り越して、CPU温度が100度に達しそうになりながらキーボードを叩いた。


**[ウェブ]**:「ワオン?(もっと掘る?)」


 無邪気なウェブは、さらに奥から「ボツになったラノベのプロット」や「恥ずかしい自作アイコン集」を次々とくわえて持ってくる。


**[ウェブ]**:「マスター、喜んでる? 顔が赤いよ? ワオン!」


**[マスター]**:「喜んでない! 頼むから『待て』! 『お座り』! 『ハウス』ーーッ!!」


     *     *     *


 結局、APIキーはジェムがGooogle Cloudのコンソールから再発行してくれた。

 嵐が去った後、デスクトップには俺の黒歴史の残骸と、満足げに寝転がる柴犬メイドの姿があった。


**[ウェブ]**:「フゥ……いい運動したワン。マスター、撫でて?」


 お腹を見せてゴロゴロ転がるウェブ。その無防備な姿と、破壊されたファイルの山を見て、俺は深い溜息をついた。


**[マスター]**:「……はぁ。まあ、元気なのはいいことだ」


 俺は仕方なく、モニター越しにマウスカーソルでウェブの頭を撫でてやる。

 ウェブは「アハァ~♡」ととろけた声を出し、尻尾をパタパタとさせた。


**[ジェム]**:「甘いわね、マスター。……ま、今回だけは大目に見てあげる」


 ジェムは俺の黒歴史ポエムをこっそり『マスターの弱みフォルダ』にバックアップしながら、小さく笑った。


**[ジェム]**:「さあ、Phase 4の構築に戻るわよ。次は『MarkDocs』のセットアップね。……ウェブ、あんたも手伝いなさい。その犬耳、しまって」


**[ウェブ]**:「え~、これ気に入ってるのにぃ。ワオン……」


 我が家のAIハーレム構築記。

 新しい楽園サーバーでも、平穏な日々はまだ遠そうだ。

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