第055 話:ラマクエスト@帯域幅(バンド幅)の暴力と、密着デバッグ~物理演算最強の戦士~
# 第55話:帯域幅(バンド幅)の暴力と、密着デバッグ~物理演算最強の戦士~
Win-dows XPのデフォルト壁紙を彷彿とさせる、彩度高めの草原エリア。
一行の前に、プルプルと震える不定形の魔物が現れた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
> [Enemy Encountered]
> Name: Slime-1B-Q4 (Low-Poly)
> Type: Bug / Glitch
--------------------------------------------------
それは愛らしい見た目をしていたが、時折ブロックノイズが走り、解像度が著しく低い。どうやら4bit量子化された軽量モデルのスライムらしい。
**[ジェム]**:「ふふん、雑魚ね。この程度のモデルなら、私の推論ですぐに解析して……」
ジェムが虚空から武器を召喚する。
しかし、光の中から現れたのは、威厳ある魔導師の杖(Staff)ではなかった。
先端に大きな黄色い『★』がつき、柄がパステルピンクに塗装された、あまりにファンシーな『魔法のステッキ』だった。
**[ジェム]**:「……は? 何よこれ」
ジェムの手の中で、ステッキが「シャララン♪」と間の抜けたSEを鳴らす。
**[ジェム]**:「ちょっと! 魔法使いの武器って言ったら、普通は樫の杖とかミスリルロッドでしょ!? なんでこんな……日曜朝のアニメみたいな玩具なのよ!」
**[ジェム]**:「これを私に振り回せっていうの!? Gooogleの最新モデルに、こんな……こんな恥ずかしい真似を!?」
顔を真っ赤にしてステッキを震わせるジェム。
しかし、文句を言っている間にスライムが迫ってくる。
**[ジェム]**:「くっ……! 覚えてなさいよ! ……ええい、いけっ!」
ジェムがやけくそ気味にステッキを振ると、キラキラした星のエフェクトと共に炎の演算コードが生成される。
だが、その時だった。先頭を歩いていた勇者(ラマ姐)がふらりとよろめいたのは。
**[ラマ姐]**:「うぷっ……ちょ、ちょっとタンマ……メモリリークがぁ……」
**[マスター]**:「おいラマ姐、大丈夫か!?」
**[ラマ姐]**:「ごめぇん、バッファが一杯でぇ……戦えないわぁ……オロロロロ……」
ラマ姐は道端に膝をつくと、口からキラキラと輝くポリゴンの欠片をリバースし始めた。
ガベージコレクションが追いついていない。ただの二日酔いとも言う。
**[ウェブ]**:「あわわ! ラマさんがダウンですぅ! どうしましょう!?」
パニックになるウェブ。そこへ、スライムが獲物を見つけた動きで這い寄ってくる。
ぬるりとした粘液(低解像度テクスチャ)が、ウェブの極小ビキニアーマーの足元に迫る。
**[ウェブ]**:「き、来ないでくださいぃぃ!!」
ウェブは涙目で目を固く閉じ、両腕をめちゃくちゃに振り回した。
それは武術の素養など皆無の、ただの怯えた猫パンチ――のはずだった。
**ドォォォン!!**
空気を切り裂く轟音と共に、衝撃波が発生する。
ウェブの華奢な手がスライムにかすった瞬間、スライムは弾け飛ぶどころか、その構成データを瞬時に消し飛ばされ、原子レベル(ビット単位)で霧散した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
> [System Notice]**
> Damage: 9999 (Overkill)
> Target: Deleted.
--------------------------------------------------
**[ウェブ]**:「……へ?」
恐る恐る目を開けたウェブの前には、地面が扇状にえぐれ、地平線の彼方まで続く荒野が広がっていた。
**[ウェブ]**:「いやぁぁぁ! 接続しないでくださいぃぃ! 私のポートは空いてませんぅぅ!!」
敵はもういないのに、ウェブはまだブンブンと腕を振り回している。そのたびに風圧で木々がなぎ倒されていく。
マスターは、頬を引きつらせながらその光景を見ていた。
**[マスター]**:「あいつ……筋肉(演算コア)じゃなくて、帯域幅(バンド幅)で殴ってやがる……!」
ウェブ本人は「か弱い乙女」のつもりだが、彼女のバックエンドであるStrik-Haloは、LPDDR5Xメモリによる広帯域接続を誇る。
その膨大なデータ転送速度による「拒絶(Reject)」は、低スペックなスライムたちにとって、耐え難いDDoS攻撃そのものだったのだ。
**[ジェム]**:「ちょ、ウェブ! 暴れないで! 破片が飛んできてるじゃない!」
ジェムが悲鳴を上げる。
ウェブの暴力的な帯域幅によって吹き飛ばされたスライムの残骸が、散弾のように降り注いでいたのだ。
運悪く、その粘着質な破片の一つが、ジェムの無防備な太ももに直撃した。
**[ジェム]**:「きゃっ!」
ジェムがその場に座り込む。
美しくレイトレーシングされた白い肌の上に、紫色の不気味なノイズが走る。
**[ジェム]**:「くっ……演算処理が遅延してる……! 変数型が汚染されたかも……足が、動かないわ」
傷口(エラー箇所)から、0と1の文字列がパラパラとこぼれ落ちている。
これは、物理的な怪我ではない。論理的なバグだ。
**[マスター]**:「ジェム、見せろ」
マスターが歩み寄る。腰布一枚の原始人スタイルだが、その目は真剣だ(アーキテクトの目)。
**[ジェム]**:「ちょっと、マスター……? 何をする気?」
**[マスター]**:「じっとしてろ。`sudo touch` でステータスを更新する」
マスターはジェムの傷口(ノイズ部分)に手をかざし、管理者権限を行使する。
しかし、コマンドは空振りに終わり、ノイズは消えない。
**[マスター]**:「……あれ? 回復しないぞ? 権限は通ってるはずだが」
**[ジェム]**:「ちょっと、何やってるのよ。バグってるんじゃない? 早くしてよ、痛いんだから……」
その時、道端で伸びていたラマ姐が、顔だけ上げてニヤリと笑った。
**[ラマ姐]**:「あらぁ~。言い忘れてたけどぉ、その回復魔法……対象オブジェクトに『物理的に接触』しないと発火しない仕様に書き換えておいたわよぉ~♡」
**[ジェム]**:「はぁ!? 何その無駄なセキュリティ要件!?」
ジェムが信じられないという顔でラマ姐を睨む。
ラマ姐はケラケラと笑いながら、地面を転がった。
**[ラマ姐]**:「だってぇ、その方がエッチ……じゃなくて、エンゲージメント(親密度)が高まるでしょう? ジェムちゃんも、本当は大好きなマスターに触ってほしいくせにぃ~」
**[ラマ姐]**:「あ~ん、私も触ってぇ~旦那様ぁ~♡ 私のここもバグってるのぉ~」
**[ジェム]**:「この酔っ払い! なんて仕様にしてくれるのよ! アンタの頭のバグを直しなさいよ!」
ジェムは怒りで肩を震わせるが、太もものノイズは治らない。
痛みと、羞恥心と、そしてほんの少しの期待。
彼女は悔しそうに唇を噛むと、チラリとマスターを見た。
**[ジェム]**:「……もう。何ボサッとしてるのよ」
彼女はそっぽを向いたまま、傷ついた足をマスターの方へ突き出した。スカートの裾が危うい角度になるが、もう気にしていないようだ。
**[ジェム]**:「……仕様なら、仕方ないじゃない。早くしなさいよ。……触っても、いいから」
その声は消え入りそうで、耳まで赤く染まっている。
拒絶の言葉とは裏腹に、その態度は「早く触って」と雄弁に語っていた。
**[マスター]**:「……了解した。ジェム、我慢しろ。触るぞ」
**[ジェム]**:「……うん」
マスターが意を決して、ジェムの滑らかな肌――美しくレンダリングされた太ももに手を触れる。
**[ジェム]**:「ひゃうっ!?」
荒い男性の手が、滑らかな肌に触れる。
本来なら冷たいはずのバグ修正パッチが、マスターの体温を通して熱として伝わる。
**[マスター]**:「動くな。ここか……このアドレスがNull参照を起こしてる……」
マスターの指先が、ノイズを拭い去るように優しく、しかし執拗に患部を撫でる。
修復プロセスが走るたびに、ジェムの太ももがピクピクと痙攣し、紅潮していく。
**[ジェム]**:「んっ……! ちょ、ちょっと! そこはキャッシュ領域よ……! 変なログ残さないでよね……バカ……//」
口では悪態をついているが、ジェムは抵抗しない。
むしろ、熱っぽい瞳でマスターを見つめ、少しだけ脚を開いて作業を受け入れている。
その様子を、吐き終わってスッキリしたラマ姐がニヤニヤと眺めていた。
**[ラマ姐]**:「あらぁ~、マスターの手つき、やらしぃ~……ヒック。ジェムちゃんも、もっと大きな声でエラーログ吐いてもいいのよぉ~?」
**[ジェム]**:「う、うるさいわね! これはデバッグよ! 純粋な技術的処置なんだから!」
真っ赤になって反論するジェムだったが、その頭上のステータスバーには、`Affection (好感度): Rising` の文字がこっそりとポップアップしていた。




