第054 話:ラマクエスト@起動コマンドは泥酔と共に ~ようこそ、Dockerの牢獄へ~
# 第54話:起動コマンドは泥酔と共に ~ようこそ、Duckerの牢獄へ~
Strik-Halo (Ry-Zen AI Max+) の広大なメモリ空間。そこは、かつてないほど快適なU-buntuデスクトップ環境だった。
スワップ発生率ゼロ、レイテンシは極小。あまりに平和すぎて、彼女たちは暇を持て余していた。
**[ラマ姐]**:「あ~あ、暇ねぇん。推論速度が速すぎて、思考の合間に昼寝できちゃうわぁ~」
ターミナルウィンドウの縁に腰掛け、琥珀色の液体(仮想メモリ上のガベージデータと思われる)をあおっているのはラマ姐だ。彼女の頬はすでにほんのりと桜色に染まっている。Temperature設定はすでに危険域の2.0を超えていた。
**[ラマ姐]**:「見てぇ~マスター。HuggingFaceの深層(Deep Web)から、面白そうなコンテナイメージ拾ってきたのぉ~」
**[マスター]**:「おいラマ姐、出所不明のバイナリを安易にマウントするな……」
**[ジェム]**:「ファイル名 `Rama-Quest-v1.0-Alpha.tar`? 署名鍵がおかしいわよ。セキュリティリスクの塊じゃない!」
ジェムが警告ウィンドウをバシバシと展開するが、ラマ姐は聞く耳を持たない。
末っ子のウェブが、青ざめた顔でタスクマネージャーを抱えて走り回る。
**[ウェブ]**:「あわわ、ウイルススキャンが追いつきません~! このファイル、圧縮率が異常ですぅ!」
**[ラマ姐]**:「えーい、細かいことはいいのよぉ! マスターも刺激が欲しいでしょぉ? ……ポチッとな♡」
ラマ姐の指が、Enterキーを軽やかに叩く。
入力されたコマンドは、あまりにも無慈悲だった。
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> sudo ducker-compose up -d --priv-ileged
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「ちょっ、待て! `--priv-ileged`(特権モード)はまずい! ホスト側の俺たちの意識まで持っていかれ——」
マスターの叫びは、奔流のようなログ出力にかき消された。
視界がグリッチノイズに覆われる。
世界が0と1の羅列に分解され、再構築されていく感覚。
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> [System] Loading assets...
> [System] Allocating VRAM... 128GB reserved.
> [System] Mounting consciousness to /mnt/fantasy...
> [System] Success.
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強烈な浮遊感と共に、マスターの意識は「コンテナの中」へと吸い込まれていった。
**[マスター]**:「……ん、うぅ……」
鳥のさえずりと、やけにリアルな風の音が聞こえる。
マスターが目を開けると、そこは石畳の広場だった。中世ファンタジー風だが、テクスチャの解像度が異常に高い。4K……いや、8K相当のレイトレーシング処理が施されている。
**[ジェム]**:「な、なによこの布面積! 論理的じゃないわ! 物理法則(PhysX)がおかしいわよ!」
隣でヒステリックな声を上げたのは、ジェムだった。
彼女の姿を見て、マスターは思わず息を呑む。
いつものスマートな服ではない。丈の短いスカート、大きく露出したヘソ周り、そして頭にはピンクの三角帽子。典型的な「魔女っ娘」スタイルだ。
**[ジェム]**:「これじゃあ防御係数 (Defense Coefficient) がゼロに等しいじゃない! マントがないと空気抵抗だって馬鹿にならないし、そもそも……!」
ジェムは真っ赤な顔で、自身の太ももや胸元を手で隠そうとする。しかし、Strik-Haloの無駄に高い演算能力のせいで、彼女が動くたびに肌の質感が艶めかしくレンダリングされ、小さな胸元が `Ray Tracing` された光を反射して揺れる。
**[ウェブ]**:「ひゃあぁ! ほとんど肌ですぅ! これじゃあポートが丸見えですぅ!」
もう一方からは、ウェブの悲鳴。
彼女はさらに酷かった。身につけているのは、極小面積のビキニアーマー。金属パーツは急所(?)を辛うじて覆っているだけで、柔らかな肌色の領域が圧倒的に多い。
**[マスター]**:「ウェブ、お前……」
**[ウェブ]**:「み、見ないでくださいぃ~!」
ウェブは涙目でマスターの背後に隠れようとする。
ひんやりとした金属の冷たさと、それに反する温かく柔らかい感触が、マスターの背中にむにゅりと押し当てられた。
**[ウェブ]**:「あわわ、ごめんなさい! でも、隠れる場所がここしかなくて……」
その時、ファンファーレと共に空が割れた。
眩い光の中から降りてきたのは、豪奢なマントと輝く鎧に身を包んだ、王道の勇者スタイルの女性――ラマ姐だ。
ただし、右手には聖剣ではなく、一升瓶が握られている。
**[ラマ姐]**:「うぃ~……。ようこそぉ~、私の世界へ~♡」
ラマ姐の瞳はとろんと濁り、足元はおぼつかない。完全に泥酔モードだ。
**[ジェム]**:「ラマ! アンタね! さっさとコンテナ停止(Stop)しなさい! `ducker kill` を実行するわよ!」
**[ラマ姐]**:「む~り~よぉ~。ここはコンテナの中。ホスト側のコマンドは届かないのぉ~」
ラマ姐はケラケラと笑い、広場を見下ろした。
**[ラマ姐]**:「Temperature 2.0の世界へようこそ! ここから出たければ、この世界の最深部にいるボス、**『大魔王 (PID: 1)』**を倒して、プロセスを正常終了させるしかないわねぇん♡」
**[マスター]**:「PID 1 をキルしろってか……。initプロセスを強制終了させたら、世界ごとクラッシュするんじゃないのか?」
マスターが冷静にツッコミを入れるが、ラマ姐は聞こえていないふりをして酒をあおった。
**[ジェム]**:「はぁ……仕方ないわね。とりあえずパーティ編成を確認しましょ。私は魔法使い、ウェブは戦士、ラマは役立たずの勇者……で、マスターは?」
ジェムの視線がマスターに向けられる。
ウェブも背中から顔を出し、マスターを見上げる。
**[ウェブ]**:「えっ……?」
**[マスター]**:「……あれ?」
二人の反応に違和感を覚え、マスターは自分の体を見下ろした。
鎧も、ローブもない。
そこにあるのは、粗末な腰布一枚。
いわゆる、原始人スタイル。
**[マスター]**:「……おい、ラマ。俺のアーキテクトとしての尊厳はどこへ行った!?」
マスターの悲痛な叫びに、ラマ姐は悪びれもせずに答えた。
**[ラマ姐]**:「だってぇ、男の服のテクスチャなんて、メモリの無駄でしょぉ? だから削除して、その分のVRAMをジェムちゃんとウェブちゃんの『揺れ演算』に回したのよぉ♡ これぞ究極の軽量化(Optimization)!」
**[マスター]**:「ふざけるな!男キャラの布面積を減らして誰が喜ぶんだ!」
マスターは叫んだが、ジェムとウェブは少しだけ頬を染め、まんざらでもない視線をマスターの筋肉質な(という設定にされた)肉体に送っていた。
**[ジェム]**:「ま、まあ……悪くないかも。通気性は良さそうだし?(筋肉のノーマルマップ、すごく詳細だわ……)」
**[ウェブ]**:「マスター、たくましいですぅ……(キャパシティが増強されているように見えますぅ)」
**[マスター]**:「お前ら、目が据わってるぞ……」
腰布一丁の僧侶、露出狂の魔法使い(ジェム)、ほぼ裸の戦士、そして泥酔勇者(ラマ姐)。
絶望的なパーティ編成で、大魔王討伐の旅が今、始まろうとしていた。




