番外編 君と、風に溶けて
──空の果てまで、きみと一緒に。
ギルドの一角、いつもの丘の上。
夜明け前の空には、ほんのりと茜が差し始めていた。
「⋯⋯セラ、こっちだ」
呼びかけに応じて振り返ると、そこには銀の髪が夜風に揺れるシラノスがいた。
深い青の上着に身を包み、胸元には小さな紋章。
その姿は、まるで星の騎士のように静かで気高い。
「そんなに遠出でもするの?」
セラが問いかけると、シラノスはふっと微笑んだ。
「⋯⋯空を、飛ぶんだよ。君と、朝日を見に」
「⋯⋯っ」
言葉が胸の奥に優しく落ちた。
「⋯⋯つかまって」
差し出された手に、ためらいなく指を絡める。
そして――シラノスの背から、淡く輝く銀の翼が、ふわりと広がった。
大空を舞うその翼は、ひとつの風となって。
冷たい夜の空気と、まだ眠っている街を見下ろして、
ふたりだけの世界が始まっていた。
「わ⋯⋯っ、すごい⋯こんなに高く⋯⋯!」
セラがシラノスの背にぴたりとしがみつきながら、目を輝かせた。
「怖くない?」
「⋯⋯全然。だって、シラノスがいるから」
「⋯⋯そっか。なら、もっと高く行こうか」
銀の翼が一層輝きを増す。
雲の上へと滑るように昇っていくふたり。
手を離さず、胸の鼓動を感じながら、
この空間がずっと続いて欲しいと思った。
「ねぇ、シラノス」
「⋯⋯ん?」
雲海の上、太陽が昇り始める直前。
世界が金に染まりゆくその瞬間。
セラは、ゆっくりと彼の胸に手を当てて言った。
「今まで、ありがとう。⋯⋯あなたに会えて、本当に良かった」
「⋯⋯俺の方こそだよ」
静かな声。
「君がいたから、俺はこの世界を、こんなにも美しく思えた」
セラの頬に、彼の指が触れる。
「セラ。⋯⋯これからも、ずっと一緒に」
「うん」
「飛ぼう。どこまでも、君と」
そして。
――朝日が、世界を照らし始めた。
空が、光に包まれる。
雲の上で、ふたりはそっと唇を重ねた。
音もなく、風にとけるように。
ゆっくりと、地上へと降り立つふたり。
ギルドの仲間たちが小さく見える中、
誰より先に、ハイネが手を振っていた。
「セラーー!! 朝帰り!? 朝帰りニャの!?」
「う、うるさいっ!! そ、そういうんじゃないからっ!!」
「ふーん? 顔まっかですよ〜? ほっぺふにふにしてあげます♡」
「やめろーーっ!!」
横では、ヴェスパーとバルドが腕を組んで無言の圧。
「⋯⋯まぁ。仲良きことは良きことかとニャ」
リファの声に、シラノスが微笑んだ。
「⋯⋯みんながいて、君がいて。俺は幸せだよ」
セラがその手を取り、そっと指を絡める。
「私も、ずっと⋯⋯あなたの隣にいる」
風が吹いた。
その風の中に、ふたりの未来が透けて見えた気がした。
──こうして、世界は今日も続いていく。
ときに激しく、ときに優しく、
誰かが誰かを想いながら。
そしてその空には、今日もふたりの翼が、静かに寄り添っている。
──Fin.




