番外編 最強の受付嬢と無骨ギルマス、平和(?)な一日
──ギルドには、今日も朝が来る。
「おはようございますニャ〜〜!!」
ギルドの大扉を開け放ち、リファが元気よく声を上げた。 黒いしっぽがぴんと立ち、リボンの赤い鈴が軽快に鳴る。
「うるせぇ⋯⋯朝から元気すぎんだよ、お前は⋯⋯」
カウンター奥のソファで、片手にコーヒーを持ったままバルドが呻くように呟いた。 灰色のボサボサの髪に鋭い目、どこか獣じみた風貌。元冒険者のギルマスである。
「朝から張り切らないでどうするんですか、ギルマスぅ〜〜」
「張り切りすぎて声が裏返ってんだよ⋯⋯耳に刺さる」
「むぅ⋯⋯今日も機嫌悪いですニャ?」
「⋯⋯悪くねぇよ。いつもこんなだ」
「それが悪いって言ってるんですけど〜!」
そんな小競り合いが、ギルドの朝の日課。
リファがにゃんにゃん怒鳴り、バルドがぼそぼそ呟き、
そのやり取りに、ギルドのメンバーたちはほっこりする。
「今日も平和だなぁ⋯⋯」
と、若手冒険者がボヤくたびに、
リファがにっこりして言うのだ。
「それは私のおかげですニャ!」
「⋯あぁそうだな。お前がいると、まあ⋯⋯華はあるわな」
と、ギルマスもごく稀に、ボソリと呟いたりする。
昼下がり、ギルドは依頼対応でほどよく賑わっていた。
そんな中、突然――
「ぐぅるる⋯⋯きゅるるぅ〜⋯⋯!」
重たい足音とともに、扉がバァン!と開いた。
「ちょっ!? だ、ドラゴン!?!?!?!?」
若手冒険者たちがざわめく中、
現れたのは――まるまるとした、ドラゴンの幼体。
体長2メートル弱、つぶらな瞳のむにむにした赤ちゃんドラゴンだった。
「な⋯⋯なんでギルドにドラゴンベビーが来てるの!?!?」
冒険者たちが武器を抜こうとする中、
リファがすっとカウンターから飛び出し、すぐさまドラゴンの前にしゃがみ込んだ。
「ちょっとちょっと、武器抜かないで〜〜!この子、迷子ちゃんですニャ!」
「リファ! 近寄るな!」
バルドが立ち上がろうとしたが、その前に――
「にゃ〜〜ん⋯⋯にゃんにゃんにゃん♪」
⋯⋯謎の“にゃん語”で語りかけるリファ。
すると、赤ちゃんドラゴンは「きゅるる♪」と嬉しそうにリファに体をすり寄せた。
「⋯⋯え、懐いた!?」
「お前なに喋ったんだ今⋯⋯」
「“安心してニャ、お腹空いてるの?魚あるニャ?”です!」
バルドが思わずこめかみを押さえた。
「はぁ⋯⋯耳としっぽあったら、ほんと犬猫と変わんねぇな、お前ら⋯⋯」
「誰が犬ですか! 誰が猫ですか! ギルマス〜〜!!」
「いや、お前だよ」
リファのぷくっとしたほっぺと赤いリボンが、ぴくぴく揺れる。
⋯⋯結果、ドラゴンの子は無事保護され、ドラゴン族との仲介で返還されることに。
リファとバルドの絶妙な連携プレーに、ギルド員たちは拍手を送った。
「ギルマスとリファさん、ほんと⋯⋯夫婦感ありますよね⋯⋯」
「いやいや、あれはもうつがいでしょ」
「毎朝ケンカしてるし」
「お弁当とか作ってそう」
「⋯⋯聞こえてんぞ、お前ら」
ぼそっと呟いたバルドの声に、若手たちは一斉に散っていった。
日も暮れて、ギルドには静けさが戻る。
リファは帳簿整理を終え、片付けをしていた。 バルドは相変わらずソファに腰を下ろして、何か書類を見ている。
「⋯⋯ねぇ、ギルマス」
「ん」
「最近、ちゃんと笑ってますか?」
手が止まる。
リファは机に手を置き、静かに微笑んでいた。
「子供の頃⋯⋯ギルマスが笑ってたの、たまに思い出すんです」
「⋯⋯覚えてなくていいぞ、そんなもん」
「やーです。⋯⋯私の恩人なんだから、ちゃんと笑ってて欲しいんですニャ」
「⋯⋯」
バルドは、少しの間、視線を逸らした。
そしてぼそりと呟いた。
「⋯⋯お前が毎日騒いでるから、俺は⋯⋯それでいい」
「⋯⋯っ、な、なに⋯⋯急に、そんなの⋯⋯」
リファのしっぽがぶわっと膨らみ、耳がぴくぴく震える。
「え、えっ、いまの、それって、ほぼプロポーズじゃないですかニャーーッ!!?」
「誰が言ったよそんなこと」
「言ったニャ!! 私の耳はごまかせないニャ!!」
ギルドの夜は、まだまだにぎやかだった。
夕日が沈み夜の静けさを連れてくる時間。
ギルドの扉を閉め、リファが振り返る。
「ねぇギルマス、たまには2人で飲みにでも行きます?」
「⋯⋯俺の財布は痛まないか?」
「おごりです」
「じゃあ行く」
しっぽをふりふり歩くリファの後ろを、
苦笑しながらついていくバルド。
その後ろ姿を、ギルドの影から誰かがひそひそと見ていた。
「ねぇやっぱあれ、つがいじゃない?ねぇ?」
「確定だろ、もう」
「リファさんのしっぽ、めっちゃ楽しそうに揺れてる⋯⋯」
「バルドさんも、いつもより表情やわらかい⋯⋯」
「てか、あれ絶対つが⋯⋯」
「⋯⋯うるせぇよ、お前ら全員日誌書け」
バルドの声が、遠くに響いた。
──ギルドには、今日も平和が訪れる。
そしてきっと明日も、二人の漫才(?)は続いていく。




