番外編 箱詰め密室ロックオン♡編 1
「⋯⋯あれ、今、音したよね?」
「⋯⋯うん、したね。⋯⋯しかも、嫌な予感がする音」
ダンジョンの最奥部、古代の仕掛けが残る石造りの通路。
セラとシラノスが進んだその先、足元の床がカチリと音を立てたのと同時に、壁がスライドして閉じ始めた。
「ちょ、ちょっと待って!? なにこれ早くない!?」
「セラ、こっち!」
シラノスがセラの腕を掴んで咄嗟に引き寄せ、迫る壁の隙間へ飛び込む。
次の瞬間、ガシャン!!と重たい音が響き、視界がほんのり薄暗くなる。
「⋯⋯やっちゃった、かも⋯」
囲まれた空間は、ふたりが立つのがやっとの“箱サイズ”。
シラノスの腕が壁に触れれば、反対側の壁にセラの肩がぶつかる。距離? そんなものはとっくに消えていた。
「⋯⋯な、なにこの距離!? 狭っ⋯⋯!」
「いやほんと⋯⋯これは狭すぎる⋯⋯」
お互い、顔をそむけたまま会話をしているのに、呼吸が肌に触れる距離感。
ちょっと動けば、どこかがぶつかる。
「しかも魔力、通じない⋯⋯。これ、外と遮断されてるタイプの封印空間だね」
「えええぇ⋯⋯いつもの“出てこい爆発魔法”は!?」
「通じたら俺も今すぐやってるよ」
セラが嘆息しつつシラノスの顔を見ると、驚くほど近い。
息を呑む。瞳の奥まで見える。
「⋯⋯ご、ごめん、ちょっと⋯⋯っ!」
セラが身を捩ろうとした瞬間、
ぐらり、とバランスを崩してそのまま胸元に倒れ込んでしまった。
「――っ! セラ、大丈夫?」
「だ、だいじょぶ⋯⋯! ちょっとバランス崩しただけだからっ⋯⋯!」
思わず手をついたシラノスの体は温かく、硬く、鼓動が耳元で聞こえるほど近い。
そして、その腕の中でセラは気づいてしまった。
――彼の心音が、さっきより速くなっている。
(あ、やばい⋯⋯この状況、ほんとに、やばいかも⋯⋯)
体温。呼吸。鼓動。すべてが刺激になる。
そんな中、シラノスの声が、いつもより低く、掠れて響いた。
「⋯⋯ごめん。ちょっと、セラ⋯⋯距離、取ってもらえると⋯⋯」
「ご、ごめん! でもこれ以上は――」
「⋯⋯うん。⋯⋯だよね。これ以上は、動けない、か」
シラノスの表情に、かすかに理性と戦う色が滲んでいた。
金色の瞳が、いつもより深く、獣のように光を宿している。
「⋯⋯この空間、ちょっと⋯⋯危険かもしれないな。いろいろと」
「な、なにが!?」
「⋯⋯俺の方が、ちょっと自信なくなってきた。⋯⋯この距離、長時間は⋯⋯」
セラは思わず息をのんだ。
壁一枚の距離で、こんなにも意識するとは思わなかった。
けれど今、胸が高鳴って止まらない。
この狭さ。
この体温。
この表情。
ふたりの理性、ギリギリの攻防戦が始まろうとしていた――。




