番外編 赤い鈴と甘い果実 3
──あれは、夢だったんじゃないか。
朝の陽がカーテン越しに射し込む。やわらかな光に包まれながら、ハイネはシーツの中でまるくなっていた。体が熱い。いや、火照っている。
そして、何より。
「⋯⋯っ、ぅう⋯⋯動けないんだけど⋯⋯!?」
寝返りを打とうとして、腰に走る鈍痛に悶絶する。
まるで全身を優しく、けれど何度も何度も丁寧に、踏みにじられたかのような感覚。
身体の奥に残る、あの熱と重さ。
記憶のなかで交わした吐息が、耳元で再生されて赤面が爆発した。
──いやいや、あんなの、無理、無理⋯⋯あたし、何したのよ⋯⋯!!
顔面に枕を押しつけて悶えていると、扉の向こうからノックの音がした。
「起きてるか?」
低く落ち着いた声。それだけで、背中がビクリと跳ねる。
「ま、待って、まだ入ってこないでっ!」
焦った声を上げるも、ヴェスパーは当然のように扉を開けて入ってきた。ラフなシャツに上着を羽織っただけの姿。あの夜の爛れた気配はどこへやら、すっかり“いつもの”ヴェスパーに戻っている。
「水と朝食。体、動かないだろ。ほら、食え」
「くぅぅぅ⋯⋯やさしくしないでぇぇ⋯⋯!」
ハイネはシーツの中に頭からもぐりこみ、泣きそうな声を漏らす。
「なんであんなことに⋯⋯あたし、あんなに⋯⋯ぐいぐい⋯⋯ぅぅ⋯⋯」
「媚薬のせいだ。仕方ない」
「うっさい。ヴェスパーが悪い」
「どういう理屈だ、それ」
会話だけ聞けば平和だが、ハイネの顔はトマトどころか熟した林檎のように真っ赤だった。
ヴェスパーはそんな彼女を見下ろしながら、水の入ったカップを差し出す。手が震えて受け取れず、代わりにヴェスパーがカップを唇まで運んでやった。
「まるで子どもだな、お前。⋯⋯いや、仔猫か」
「それ以上言ったら本気で殴る」
「腰が立たないのにか?」
ずばり言われてハイネは顔までシーツに隠す。ヴェスパーは口元をわずかに歪め、楽しげに笑った。
「ついでに言ってやろうか? 昨夜、お前が言った台詞──」
「わぁぁぁああああっっ!! 黙ってぇぇぇ!!」
もはや床を転げ回る勢いで叫ぶハイネ。
そんな様子を見て、ヴェスパーはシーツごと彼女を抱え上げた。
「なっ⋯⋯!? ちょ、ちょっと!?」
「歩けないんだろ。運んでやるよ。⋯⋯次のつがいの儀式の場所までな?」
「~~~~~~~~ッ!!!」
火を噴きそうなほど真っ赤になったハイネが、腕の中でバタバタ暴れる。
それを抱えたヴェスパーは、まるで何事もないかのように静かに、けれどどこか満足げに微笑んでいた。
──こうして、ギルドのもう一組のバディも、正式に“つがい”になる日は、そう遠くなさそうだった。




