エピローグ
――これは、誰かに宛てた、私からの手紙。
もし、あなたが今、どこかでひとりきりで、
立ち止まっているのなら。
うまく笑えずに、俯いているのなら。
この空を、ほんの少しだけ見上げてほしい。
私も、かつてはそうでした。
空が怖くて、鳥が怖くて、世界のどこにも居場所なんてないと思っていた。
左腕の傷が痛むたびに、あの日の羽音を思い出す。
逃げ続けた道の先に、私は何も見つけられなかった。
でも――
あの人が、私を見つけてくれた。
鳥の翼を持つ彼が、私の恐怖に、優しく寄り添ってくれた。
戦う理由も、涙の意味も、失った記憶も、そして恋も。
一つずつ、時間をかけて紐解いていくうちに、私はようやく、自分を赦せるようになったんです。
⋯⋯信じられないことですよね。
“鳥恐怖症”だった私が、今では空を見上げて笑っているんだから。
このギルドで、たくさんの仲間に出会いました。
リファさんは今日も忙しそうに書類を片付けながら、「カップルは受付前でいちゃつくなニャ!」って叫んでました。
ギルマスはというと、相変わらずの不機嫌顔で「めんどくせぇ」を連発しながらも、結局みんなのことをちゃんと見てくれています。
ヴェスパーとハイネも、隣にいることが自然になって。
どこか、昔の私たちみたいだなって、思ったりもするんです。
ギルドは今日もにぎやかで、少しだけ騒がしくて。
でも、あの日とは違うんです。
もう誰も、独りじゃない。
――ねぇ、あなたにも、そんな場所がありますように。
逃げてもいい。立ち止まってもいい。
ただ、どうか忘れないで。
いつか、風が背中を押してくれる日が来るってことを。
それが、“誰か”の手でも、“自分”の勇気でも。
あなたが、もう一度前を向けたその日こそが、新しい物語の始まりなんだって。
そして私の物語は、ここでひと区切り。
でも、終わりじゃありません。
今日も私は、シラノスと一緒に歩いているから。
泣いて、笑って、抱きしめて、飛んで。
とても不器用だけど、確かに繋がったこの毎日を、大切にしていこうと思います。
ねぇ――
怖かった空が、今では一番好きになりました。
この気持ちが、風に乗ってあなたに届きますように。
今、私は幸せです。
ありがとう。
出会ってくれて、
読んでくれて、
ここまで来てくれて。
また、いつか空の下で。
――セラより
その手紙が風に乗るように、
一枚の羽根が舞い上がった。
黒と銀が混ざったその羽根は、
誰かの空へと、音もなく羽ばたいていく。
どこまでも、遠く、どこまでも、優しく。
――空を見上げる理由は、今、ここにある。




