表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空を見上げる理由  作者: 桜鬼
59/74

空を見上げる理由 14


 


 「えーと、ギルドの紋章は⋯⋯これが“牙”で、これが“薔薇”の――と、げっ、トゲ刺さった!」


 


 セラは思わず吹き出した。目の前で慌てる少年――新しくギルドに加入したばかりの見習い、“野良犬”ランカは、手を振り回して痛がっている。


 


 「大丈夫。ちゃんと刺さるってことは、もう“仲間”って証だから」


 


 そう言って、セラは彼の指を取って、小さな傷に薬を塗ってやる。

 昔なら、絶対にこんなことできなかった。けれど今の自分には、“守りたい”と思えるものが、ちゃんとある。


 


 「先輩って、やっぱすごいな⋯⋯」


 


 ポツリとこぼしたランカの言葉に、セラは少し照れたように笑った。


 


 「すごくなんかないよ。私もずっと逃げてばっかりだったし⋯⋯でも、それでも隣に立ってくれる人がいて、少しずつ進んでこれただけ」


 


 「それって⋯⋯もしかして、あの“銀の翼”の――」


 


 ランカが何か言いかけた瞬間、


 


 「おーい、セラ」


 


 いつもの、優しくも低い声が背後からかけられた。振り返ると、シラノスが片手を上げて近づいてくる。


 


 風に揺れる銀と黒の羽根。ギルドの誰もが一目置くその姿に、ランカは一瞬で背筋を伸ばす。


 


 「よっ、銀の死神さん! い、いや、“元”死神⋯⋯あれ? なんて呼べば――」


 


 「“シラノス”でいい。俺はもうただの一隊員だ。⋯⋯それに、“彼女のバディ”だからな」


 


 さらりと告げる彼に、セラは思わず咳き込んだ。


 


 「ちょっ、いきなり何を⋯⋯!」


 


 「事実だろう?」


 


 シラノスはいつものように淡々としているが、その口元にはほんのり笑みが宿っていた。

 セラの顔がじわじわ赤く染まっていく。


 


 「⋯⋯とにかく! ランカくん、この後は武器庫の案内ね。気をつけて、ギルマスの私物と間違えて持っていくとすっごく怒られるから!」


 


 「ええ!? 私物なんてあるんですか!? あのガラクタ山脈みたいな棚の中に!?」


 


 「声がでかい! 聞こえるでしょ!」


 


 セラがランカをひっぱっていこうとしたその時、不意に後ろからシラノスに手を取られた。

 そっと、その場に引き寄せられる。


 


 「⋯⋯セラ」


 


 「⋯⋯なに?」


 


 彼の目は真剣だった。笑いも、からかいもない。ただ一途に、まっすぐに。


 


 「俺は、もう君を離さない」


 


 セラの心臓が、跳ねる音を立てた。


 


 「⋯⋯今さら?」


 


 言いながらも、目尻が少し潤んでいた。

 その言葉を、どれほど待っていたのだろう。


 


 「ううん、ありがとう。⋯⋯私も、離れないから」


 


 そっと、指先が重なる。温かくて、確かで、今度こそ、誰にも引き裂けない絆だった。


 


 背後でランカが「わっ、なに!? なんか今、尊いの見た!?」と騒いでいるのを無視して、二人はそのまま微笑み合った。


 


 ギルドの建物の上には、今日も空が広がっている。

 あの日のように、もう誰かを置いていくことはない。

 共に飛び、共に笑い、共に未来を選び取る。そんな日々が、これからも続いていくのだ。


 


 


 その空を、セラはもう――怖くない。


 


 誰かと見上げた空は、いつでも未来へつながっている。

 その空の下で、今日も新たな物語が始まっていく。


 


 


 未来へ続く羽ばたきは、もう止まらない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ