空を見上げる理由 6
「――はい! 本日より三日間! ギルド公式企画《鳥グッズ大放出祭》を開催するニャ!!」
受付前の祭壇――もといカウンターの上で、リファは満面の笑みを浮かべながら、腕を広げて宣言した。
「鳥の羽根、鳥のぬいぐるみ、鳥のマント、そして鳥の箸置きまで全部出すニャー!」
「なんで箸置き!?」
セラが素っ頓狂な声を上げた。
彼女はシラノスの影に隠れるようにして、その場からじりじりと後退している。
「おいおい、セラ。克服したんじゃなかったのか?」
シラノスが少し笑って問いかけると、セラは涙目で首を振った。
「違うの! 戦場の鳥と、ぬいぐるみの鳥はカテゴリが違うの! あの瞳がリアルすぎて怖いの!」
「ふふっ」
思わず吹き出すシラノスの横で、リファは黒耳をぴこぴこと揺らしながら、巨大な段ボールを引きずってきた。
「じゃーん! これは“特賞”の『等身大コカトリス抱き枕』ニャ!」
「ぎゃあああああああああああああああっ!!」
セラが叫びながら後ずさる。
その姿に、周囲の冒険者たちは盛大に吹き出して笑った。
「やめてぇ! それだけはやめてぇ!」
「ほらほらぁ、セラちゃーん。完全克服記念に一個どうニャ? ぐるぐるお目目も可愛いニャ?」
「どこが可愛いのよおおお!!」
シラノスが申し訳なさそうに頭を下げる一方、バルドは一番後ろの席で書類を読みながらぼそりと呟いた。
「⋯⋯またギルドの空気がうるせぇ季節になったな」
それでも目元には、小さな笑みが浮かんでいた。
祭の賑わいの中、ギルドの中庭では、もう一つの静かな物語が始まろうとしていた。
木陰の下、深緑の髪を揺らすヴェスパーが、無言で空を見上げていた。
「⋯⋯やっぱり、晴れてる方がいいわね」
声をかけたのはハイネだった。
今日の彼女はいつになく柔らかい雰囲気で、いつもの武器袋は携えていなかった。
「⋯⋯ああ。空を見ると、今は⋯⋯安心する」
ヴェスパーが少しだけ顔を向けたその瞬間、ハイネが一歩近づく。
「ヴェスパー」
「⋯⋯ん?」
「手、つないでいい?」
その言葉に、ヴェスパーの目が見開かれる。
けれど、すぐに――彼は笑った。
「⋯⋯ああ」
大きくて硬い手が、ハイネの指を包むように絡めとる。
「お前が冷たくしなくなったのは、初めて会った日以来かもしれないな」
「ふふ、それだけ、あんたが変わったってことでしょ」
そっと手を握り返すハイネの頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
日が暮れる頃。
ギルドのメンバーたちは思い思いに鳥グッズを手に、笑い合いながら祭を楽しんでいた。
セラはというと、ようやく恐怖の特賞から逃れ、シラノスの隣でホッと一息ついていた。
「⋯⋯まったく、リファさんったら。もう、“お疲れ様ニャ”じゃ済まないっていうか⋯⋯!」
「でも、笑ってたじゃないか」
「⋯⋯うん、そうだけど⋯⋯」
言いかけて、セラは自分でも気づいた。
――あの悲鳴の中に、確かに自分の“笑い声”が混じっていたことを。
「⋯⋯怖いけど、もう“全部”が怖いわけじゃないんだって、やっと思えるようになったかも」
「それが、君が選んだ“空”なんだろうな」
シラノスが優しく笑う。
その隣で、セラもまた、ふわりと微笑みを返した。
ギルドに灯る灯りは、まるで祝福のようだった。
それぞれが乗り越えてきた痛みと、今を照らす希望の光。
祭の喧騒の中で、誰もが心のどこかで――
“ああ、この場所があって良かった”
そう思っていた。
そして、リファは誰にも見えない場所でこっそり独り言を呟いた。
「⋯⋯セラさん、ちゃんと笑えてて良かったニャ」
そう言って、そっと鳥グッズ特賞の段ボールに布をかけ、満足そうに小さく伸びをした。
「――受付嬢、今日も任務完了ニャ!」




