揺れる想いと足跡 7
ギルドの裏庭は、いつになく賑やかだった。
セラが鳥恐怖症の克服に挑むと決めてから、ギルドメンバーの反応は意外なほど素早かった。
「──というわけで、本日より“鳥リハビリ訓練”を開始するニャ!」
張り切って声を張り上げたのは、受付嬢のリファだった。
黒耳をピンと立て、尻尾をぷるぷる震わせながらホワイトボードを掲げる。
「お手製プログラム、その名も『羽音克服五段階ニャ!』」
その横では、すでにハイネが鳥のぬいぐるみを大量に並べていた。
「これねー、全部セラのために買ってきたの!」
「こ、こんなに⋯⋯!? ひぃっ、この子リアルすぎ⋯⋯っ」
「えっへん。第一段階は『ぬいぐるみで慣れる』だよ」
「そんな段階、あるの⋯⋯?」
「あるの! リファ命名!」
セラはげっそりと肩を落としたが、それでも笑っていた。
ギルドの仲間たちは、茶化したり、真剣だったり、やり方はバラバラだ。
でも、みんなが本気で「手伝う」と言ってくれていることは、伝わっていた。
「⋯⋯ほんとに、ありがとう」
「おう、気ぃ抜くなよ」
背後から低い声がして、振り向くと、ギルマス・バルドが腕を組んで立っていた。
「この訓練、本人の意思がなきゃ成立しねぇ。やるって決めたなら、最後までやれ」
「⋯⋯はい」
「それと。お前が逃げても、そばに誰かが立ってやる。それだけは忘れんな」
そう言って、ギルマスはポケットから何かを取り出した。
白くて、小さな羽根飾り──いや、羽根そのものだ。
「これは、昔な。傷ついた鳥の鎧から抜けた羽だ。柔らかいくせに、しぶとい。お前の訓練の“お守り”にでもしとけ」
そっと渡されたそれを、セラは両手で受け取る。
──柔らかいのに、しぶとい。
──鎧のように、守ってくれる羽。
「⋯⋯ありがとう。ギルマス」
「礼はいい。終わったら、任務倍にして返せ」
「やっぱりそれ言うんですね」
小さく笑ったその瞬間、どこかから羽ばたきの音が響いた。
視線を上げれば、シラノスが屋根の上に降り立ったところだった。
彼の翼がゆっくりと収まり、羽の音だけが風に混ざって残る。
セラは──怯えなかった。
その事実に、自分がいちばん驚いていた。
(⋯⋯平気⋯⋯だった)
ほんの少し前なら、反射的に顔を背けていた。
でも今は、その羽音を“ただの音”として聞くことができている。
「セラさん、順調そうですね」
「うん⋯⋯驚くほど」
「じゃあ、第二段階に進むのも近いかも?」
「えっ、もう!? ちょ、リファさん!? まだぬいぐるみすら怖いのあるのに!?」
「ぬいぐるみを破壊した時点で“卒業”と認定ニャ」
「それは違う意味の克服じゃないですかーーっ!?」
ギルド裏庭に、笑い声が広がった。
仲間たちの支えの中で、セラは確かに一歩ずつ──
“恐怖”という名の鎧を、羽根で打ち破ろうとしていた。




