6、さっきの人間だ!
私の名前はレベッカ、赤竜王の娘である。突然だが、私のお父様はとても強い。かの勇者と何度戦っても引き分けているらしい。あと、私はお母様に会ったことがない。それにお父様も話したがらないから、よく分からないままである。
そして今、私は自分の無力さを痛感している。今思い出しても、私を襲った人間たちへの怒りではなく、自分の弱さへの悔しさしか感じない。
「レベッカ!」
私がこの洞窟から出て稽古をしていた時、お父様の鋭い声が飛んできた。
え、何?
いつもの優しく厳しいお父様から発せられたとは思えない声に、何か自分に迫る危険を感じ取れた。でも、少しの気の迷いが私にはあった。それが竜族であることからの慢心なのか、お父様がいることからの安心なのか、どうしてか瞬時に体が動かなかった。
それがあの失敗の原因なのだろう。あの時、後ろに飛び去るなり、洞窟に逃げ込むなりしていたら......。
私の周りの地面がうっすらと暗くなった。頭上に魔力を感じた時には、もうすでに遅かった。
次の瞬間、私のお腹の辺りが熱くなってきた。お父様が火魔法を撃って山火事を起こした時とは違って、熱が体の中から染み出してくるような感じだ。ちょっと息が荒くなってきた。
「レベッカ!」
「レベ......」
だんだんと視界が遠のいていく。足元を見ると、赤い海が少しずつ広がっている。
これって......
目を閉じる前に見えたのは魔物だろうか、お父様だろうか。お父様だったら良いな。私の意識が遠のく寸前にふわっと体が浮いた。
あ、お父様だ。
「しっかりしなさい、竜族ならば強く生きなさい」
「ファイアーレイン、ファイアーキャノン、ファイアーウェイブ」
お父様ったら、張り切り過ぎですよ。そんなにバンバン撃ったら、森が焼け野原になっちゃうよ。
ちょっと涼しくなったし、洞窟の中に入ったのかな。
「レベッカ、もう敵は倒したぞ」
「お......父、様」
やっぱり声は出ないのか。私もお父様みたいに冒険したかったな。色んな場所に行って、色んな景色を見て、色んなものを食べて。
あ、竜族なんだから、弱気になっちゃダメだ!それに、お父様ならどうにかしてくれるはず。してくれるよね......?
体中に痛みが回り始めてきた。さっきまで動いていた指先はもう動かない。相変わらず視界は真っ暗。息苦しさも通り越し、もはや自分が息をしているのかも分からない。しっかり動いているのは頭だけ。すごくもどかしい。
「もう一度問う。何ゆえ、我の前まで来た」
あれ、誰か来たのかな。
普段、誰かが来たら殺気と魔力を全開にしているお父様から、不思議と今日は何の力も感じない。相手に警戒心を抱いていないのだろうか、私への影響を心配しているのだろうか?
体の中にどれだけ残っているか分からない空気を吐き出し、お腹に力を入れて息を吸ってみた。色んな匂いがする。お父様によると、一人前の竜族は匂いだけで全てを判別できるらしい。
「好奇心がここに来い、と言っていまして」
「では、我の気が変わらないうちに帰れ」
「それより、何か悩みごとがあったりしますか?」
「何ゆえ、そう問う」
変な人間だ。お父様に帰れと言われているのに帰らないなんて。それに、たまにこの洞窟に来る人間たちとは違う匂いがする。
ゴホッ、ゴホッ
しまった、私の存在がバレてしまう。逃げようにも体は動かないし。本当に、今日は失敗続きだ。
私の存在がバレないように、キュッと体を縮こめながらギュッと目をつむった。まあ、私の体が動いてくれているのかは不明だが。サッと風が吹いたかと思うと、急に私の真横に魔力が現れた。つまり、何かが来たのだろう。
「大丈夫ですか?」
さっきの人間だ!
それに私が大丈夫かどうか分かるでしょ。もちろん私は......竜族だから大丈夫、なはず。でも、私を心配して声をかけた人間は始めてだ。
ぽわぁと体がほんのり暖かくなってきた。おそらく回復魔法だろう。お父様は使えないから、回復魔法を使われるのは初めてだ。火山に行った時とは違う暖かさだ。火山のは激しい感じで、魔法のは染み渡る感じで少し違う。
「大丈夫ですか?」
「だから、大丈夫だってば!」
まったく、私は竜族なんだからこの程度なら問題無いわ。人間と同じ杓子で測らないで欲しいわ。
「もう喋れるんだ、さすがだね」
まさかと思って、目を少しずつ開けていくと、ぼんやりと周りの様子が見えた。右に見える大きい影がお父様で、左にいるのが私に回復魔法をかけた人間だろう。
だんだんと視力も回復してきた。この薄暗さはやっぱり私とお父様が住んでいる洞窟だ。それで、視界の半分くらいに映っているのが私を助けた人間か。たまに来る人間と違って、怖い顔をしていないし、剣を持っているように見えないし、装備もただの服である。
それにしても幼い気がする。声が前来た大きい人間と違ってダミ声じゃない。髪の毛や服がきれいだし、それなりの家の出身なのだろう。
どうよ、お父様。ここまで分析できるんだから、もう子供扱いさせないわよ。
「あなた、何者?」
「通りすがりの子供だよ」
「少年!」
「分かってますよ、竜王様。またね、お嬢さん」
お父様の鋭い声に促されるかのように、少年はすくっと立って、洞窟の入口の方へと歩いていった。2、3歩進んでから、何かを思い出したかのように後ろを向いて、私に手を振ってから。
な、竜族の私に手を振るなんて!
もちろん、イヤじゃないけど、なんか慣れない......。
あの人間は洞窟の外からの魔力に気付いているのだろうか。気付いているんだったら、相当おかしな人間だ。あんなに強力な魔力がひしひしと漂ってきているのに、笑っているなんて。よっぽど強いのか、馬鹿なのか、まあ私の知るところでは無いけど。
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
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