5、ドラゴンとお話し!
好奇心の赴くまま歩いていると、偶然見つけた洞窟に入った。そんな僕を待ち受けていたのはドラゴンだった。どうりで、洞窟の前にAランクのプテラがポツポツと死んでいたわけだ。
僕の想像していたのとは少し違うが、ドラゴンということにかわりは変わりは無い。
よく見てみると違和感の元が分かったかもしれない、勘だが。
あのドラゴンは威厳が足りない気がする。何となく、想像していたよりも弱っている、疲れている、または心配しているような感じだ。分かりやすく言うと、何か悩みがあるのだろう。喋るくらいだから知性は高いのだろう。
「もう一度問う。何ゆえ、我の前まで来た」
ドラゴン相手に嘘をついて、もしバレたら、絶対に戦闘になる。僕だって、勝ち目の戦闘はしたくない。いくら威厳が足りなさそうでも、力はドラゴンのままであろう。
だから、せめて正直に言わなくてはならない。
「好奇心がここに来い、と言っていまして。」
「では、我の気が変わらないうちに帰れ」
「分かり......ん?」
「どうした」
何か、別の魔力を感じる。あそこには1匹しかいないと思っていたが、そうでは無いみたいだ。
あのドラゴンの魔力と似ているが、少し違う波長の魔力を持った別の何かがいる。おそらく、別のドラゴンだろう。スキルで姿を消しているか、あのドラゴンの陰に隠れているのか、まさか気のせいということは無いだろう。
あのドラゴン、何を隠している。まあ、面倒ごとに首を突っ込むつもりは無い。僕にメリットは無さそうだし、フィリアさんに怒られそうだし。
実際のところ怒られるのはまだ怖くない、本当に怖いのはその日の夕食と翌朝の朝食だ。訓練だかと称して、食べれるのか怪しいゲテ物を食べさせられるのだ。父さんと母さんも僕のためと信じ、何も言わないからますます質が悪い。
はぁ、もう遅いかな。ここ、ドラゴンの巣だもんなぁ。
「いえ、何でもありません。それより、何か悩みごとがあったりしますか?」
「何ゆえ、そう問う」
「何か、悩んでいるように見えたので」
間違っても、あなたには威厳が足りない気がします、などと言ってはいけない。そんなこと言ったら地獄まで連れていかれる。
ここはテキトーに言ってみました感を出しつつ、どうにか良い感じの状況を作らなければ。ずっと警戒されたままなのも疲れるし。
やっぱり、何も聞かない方が良かったかな。でも、ドラゴンの悩みとか、ちょっと面白そうだ。
「1つ教えてやろう。世の中には知らなくても良いことがあるのだよ」
ゴホッ、ゴホッ
「っ!」
「しょ、少年よ、早く帰るが良い。我も忙しいのだ、色々とな。我はこう見えても、赤竜王といって四竜王の1角なのだよ。分かるか、死にたくなければ今すぐ帰れ!」
「あの、少し聞いても」
「我の言うことが聞けぬか!」
ちっ、頑固親父が。もう分かってるんだよ、その後ろにいるのが子供だってことは。そして、さっきの咳はただの咳では無い気がする。何かを吐き出しているような感じだ。
さっき咳をした時に全て見えた。あの魔力の波長と尻尾、そして極め付きは赤い鱗。この一致は遺伝的に考えるのが一番説明が通るだろう、もちろん最後は勘に頼らざるを得ないが。
でも、病気の子を前に帰れない。
別に同情心とか哀れみとかじゃない。ただ、後味が悪いのはイヤなだけだ。言うなれば、わがままだ。
「ちょっと失礼しますよ」
「それ以上近付くな。子供でも、ドラゴンの強さは知っているだろう。かの勇者でも苦戦するほどの実力、さらに我は四竜王ぞ」
大見得を切ってもらったところ申し訳ないが、四竜王って何だ?それに子供の近くで攻撃などできまい。
まあいい、あのドラゴンの後ろくらいなら、スキルを使えば行けそうだ。あとは子供の状況だが、あいにくポーションの持ち合わせが少ない。ドラゴンへの効果なんて、どの本にも載ってなかったな。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「音足」
「おい聞いて......ど、どこだ!」
「!」
「後ろか。今すぐ、そこをどけ!......おい少年、聞いているのか」
僕がさっき洞窟で走った時に獲得したスキル『音足』のおかげで、上手くドラゴンの後ろに回り込めた。やっぱりドラゴンは大きい。魔力を感知されないように離れつつ走ってきたといえども、スキル時間ぎりぎりだった。
目線を落とすと、僕の目には少女が映っていた。赤い髪、端正で可愛い顔、程よくふくよかな胸。頭の上にある角ときらりと黒光りする尻尾があるところを見ると、完全な人間では無いのだろう。
『心臓の高鳴り(初)を達成しました』
うるさい!ていうか(初)って何だよ。
石竜王だか、赤竜王だかが何か言っているがそれどころではない。僕には彼女しか見えない、周りの音も遠のいてきた。だって、僕の目の前にいるのは鬼でも蛇でもないのだから。
しかし、彼女の服は赤く染まっている。洞窟の地面に付いていた血が彼女のところまで続いている。竜の血を引いているとはいえ、出血が酷い気がする。どうりで、竜王の元気が無かったわけだ。
「竜人?」
「見てしまったか、我が娘のレベッカだ。どうだ驚いたか、我の自慢の娘だから隠さなくても良いぞ。今も鮮明に思い出せる、この子が生まれたのは━━」
「はい、ストップ。今はこの子の治療を」
「お前を信用しろと?」
「ではこれを」
「何だ、これは?」
そんなに胡散臭さそうな顔しなくても良いじゃないか。由緒正しき品なんだよ、多分。まあ、そこまで大事じゃないから、人質みたいには使えないんだけどね。
この何とか竜王の質問にまともに答えていたら、目の前の子は助けられないだろう。竜の力か何かで治るかもしれないが、絶対治るという保証はどこにも無い。それなら、僕はできることをしたい。後味が悪いのはイヤだからね。
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
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