2、やった魔法だ!
メイドさんの後ろを歩いていくと、食堂に着いた。
さて、この世界の家族はどんな人たちだろうか?
期待する反面、すこし怖いが、リラックスしていこう。家族に対して緊張するのは不自然だからね。
「エドガー伯爵様、ルイ様をお連れしました」
「うむ。ルイ、最近魔法はどうだ?」
「え、まあ、いつも通りかな」
異世界だから魔法もあるのか。この世界の僕は魔法を使えるのかな?
やっぱり異世界に来たんだし、ちょっとくらいは使ってみたいな。
「そうか、まだダメか」
あ、僕は魔法使えないんだ。でも、父さんはまだって言ってたし、頑張ればきっと少しくらい使えるようになるはず。
やっぱり異世界に来たのだから、剣じゃなくて魔法がいい。
いや、剣も練習して、魔法剣士になるってのも夢がある。うーん、どうしようかな。
「ルイは三男だし、まだ12歳だ。焦らずゆっくりと学んでくれ」
「分かったよ、父さん」
初めて会った人を父さんと呼ぶのは、ちょっと違和感があるけど、優しそうな人で良かった。
「ルイ様、朝食が冷めてしまいますよ」
「そうだね。じゃあ、食べるよ」
食べ物が口に合うか心配だったが、普通に美味しい朝食だった。ここが伯爵家ということもあるのだろうが。
朝食を食べ終わると、さっきのメイドさんに庭に呼び出された。
呼び出されたってよりは、今回はさぼるな、みたいな感じの会話だった。昨日までのルイは何をしていたんだか。
まったく、僕に似て面倒臭がりなんだろうか。性格からは、僕が本当のルイってバレなさそうなので良かったが。
「ルイ様、今日は来ましたね」
さっきまでのメイドさんとは様子が違っていた。同じ人なのだが、服装はメイド服から、軽く防具のようなものが付いた服に変わっていた。
そして、一番気になるのが、さっきから涙目になっていることだ。
さっきから僕を見つめたままである。居心地が悪過ぎて仕方ない。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃありませんよ。昨日まで、あんなだったルイ様が今日は別人のようです。今まで頑張ってきた甲斐がありました」
「昨日までって、そんなに酷かったの?」
「失礼ながら、そうです。朝は起きない、好き嫌いはする、私との練習はさぼる、挙句の果てには、エドガー伯爵様に反抗する。とにかく大変だったんです」
アハハハハ......
苦笑いしかできない。僕がやってたなら謝るけど、昨日までのルイがやった訳だし。メイドさんの様子を見るに、相当酷かったようだ。
「では、練習しましょうか!」
「うん、よろしく!」
「お、気合十分ですね。では魔法の基本から」
「集中、想像、創造、使用だよね?」
魔法の基礎は今朝読んだ本に書いてあった。まずは集中して魔力を感じる。次にどんな魔法なのかを想像する。そして魔力を使ってそれを創造する。
魔導書にはそう書いてあったが、まあ何を言っているかはさっぱりだ。
でも魔法は使ってみたい。
「はい、そうです。お手本を見せますね」
メイドさんの右手の手のひらが光ったかと思うと、火の球が飛び出てきた。
おお、これが火魔法か。何か、こう、血がたぎる。
じゃあ、僕も練習するか。
『百聞は一見に如かず(火)を達成しました』
えっ、何で今?まだ何もしてないのに。
朝食の後、設定をいじってアチーブメントの名前が出てくるようにしたのだ。こっちの方が、ただアチーブメントと言われるよりは分かりやすい。
さて、どんなアチーブメントかな。
「アチーブメント一覧、オープン」
名前の通りのアチーブメントだ。条件は火魔法を実際に見ることだそうだ。
そんなことより、達成報酬がすごい。火魔法の習得だった。
なんて言ったって、魔法が使えるんだ。これで、ちょっとは異世界が楽しくなりそうだ。
さて、魔法を撃ちまくるぞ!
「ルイ様、どうなさいました?さっきのがファイアーボールですよ」
「いや、何でもない。じゃあ、やってみるね」
えーと、まずは集中。あ、これが魔力の流れか。体の中を何かが循環しているみたいだ。
たき火とかキャンプファイアーを想像しながら、体の中を循環している何かを意識すれば。
うーんと右手に力を入れると、手のひらにポンと火の玉が出てきた。
不思議な感じだ。自分が火を生み出したんだ。そう考えてみると、何かすごいことをした気がする。
きれいな火だ、赤く宝石みたいに輝いている。
「ルイ様、危ない!」
「え、熱っ!」
僕がハッと現実に戻っても、時すでに遅し。僕の左手の人指し指は、右手の手のひらの火の玉の中に入っている。
慌てて手をパッと引いても、人指し指が治るわけもなく、ヒリヒリと痛む。
生まれて初めて、自分の指を火の中に入れたよ。
『百聞は一体験に如かず(火)を達成しました』
えっ、またアチーブメント?僕は火傷しただけなんだが。
それに、達成条件が火魔法に当たるって......。良いことだったのか悪いことだったのか、分からなくなってきた。
「大丈夫ですか?」
そう言って、メイドさんが走り寄ってきた。笑って誤魔化そうとしたが、すぐに見破られてしまった。
色々言われるのは面倒くさいし、軽い火傷くらい放っておいても治る。
僕の左手首を両手で包み込んで、人指し指を見つめている。見つめても、治らないと思うんだが。
「あの?」
「あ、すみません。ルイ様にしては珍しいなと思いまして。」
「火傷したのがそんなに珍しい?」
前世では、軽い火傷くらいなら、よくしていたんだけどなぁ。
「いえ、火傷をすることではなく、した後のことですよ」
ん、どういうことだ?話が見えてこないな。
「いつもなら、火傷を理由に部屋に戻ってしまわれるのに、今日はむしろ隠していたので」
「ああ、そういうことね。今日からは頑張ろうかなって」
「はい、一緒に頑張りましょう!今、回復魔法をかけますね」
「うん、ありがと......」
えーと、この人の名前は何だっけ。むこうは何年もルイを見てきたかもしれないが、僕は今朝会ったばかりだ。
こういう時って、何て言うんだっけ?最近は人と、特に女の子とは話していないから、よく分からないな。
「今朝も言いましたが、私はフィリアです」
「今日から色々教えてね、フィリアさん」
「はい、次は水魔法を練習しましょう!」
よし、今日から魔法の練習だ。僕はどれだけ覚えられるのかな。
ちゃんと使えるようになったら、冒険者になるってのもいいな。
どんどん夢が広がっていく。僕が今ウォーターボールを撃ち上げているあの青空のように。
『百聞は一見に如かず(回復)を達成しました』
『百聞は一体験に如かず(回復)を達成しました』
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
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