color~色の異世界冒険記 第8話 鍵と本
琉花の提案で、神社へと向かった三人。必死で紗央里達の機嫌をとろうとする彼女の気持ちに反して、二人は憂鬱な気持ちである。一方の一郎は晶子の夫サブローから電話があり、地下での出来事について弁解をしていたのであった。
石の階段を登る三人は、それぞれの思いを巡らせながら境内へと向かっていた。街中は初夏の陽気であったが、山の中腹は涼しげで、時折吹く風は彼女達の心さえも冷やすかのようだ。いったい、どれだけの人々が自然に対する畏敬の念を抱き、この場所を訪れたのだろうか。そんな事を考えながら歩みを進めていると、視線の先には大きなブナの大木が現れ、青々とした新緑の葉を揺らしながら訪れる者達を出迎えるのである。
「神主様は、ただ今お取込み中で御座います。マスコミの方達も何度かいらっしゃいましたが、朱莉さんの件は何もお話しすることは出来ません」
伽耶達に事情を聞いた受付の巫女は、やや面倒くさそうな顔をしていた。日暮れ前にもかかわらず、突然押しかける客などそうはいないのであろう。
「じゃあ待たせていただきます。ついでに参拝しますんでお構いなく」
紗央里の投げやりな態度に、巫女はやや気分を害したようであった。
「あなた方は神社をなんだと思っているんですか?だいたい神主様は朱莉さんがいなくなって、大変落ち込んでおられるのですよ。この期に及んでいったい何を聞きたいと言うのですか?」
「実は、友達が働くバイト先の店長が、この一件で疑いをかけられているんです。そこで、彼の身の潔白を証明しようとやって来たのですが…」
琉花がなんとか情報を得ようと必死に説得していると、その様子に気づいてやって来たのは、神主である神宮寺智彦であった。
「皆さん、どうかされましたか?出来れば参拝の方は午前中になさってほしいんですが…おや、あなたはもしかして、山百合書店の方では…」
「はい、バイトの伽耶と申します。」
「ちょうどよかった。実は、あなたの店にあった不思議な書物について調べているところなんですよ。よかったらお入り下さい」
こうして敷地内にある資料館へと連れて来られた三人は、そのまま奥にある保管室へと案内された。神主は引き出しの中から縦長の箱を出すと、麻紐をほどいて中に入っていた古い巻物を机の上に広げた。
「ご覧下さい。これは、神社に伝わる古い伝説が描かれたものなのですが…」
好奇心旺盛な琉花は、前のめりになって巻物に顔を近づけた。彼女は昔からファンタジーが大好きなのである。すると神主が、絵巻を指差しながらこう説明した。
「白い装束を着た男そしてそれに続く三本の光る道、これらは三人の選ばれし者達をcolorという世界へと導く様子が描かれております。言い伝えによりますと、選ばれし者たちは、鍵の持つ力により、異世界へと導かれるのだとか…」
神主は部屋の片隅に重ねられた小さな箱を持って来て机の上に置くと、その中に入っていたのは、金色に輝く不思議な形をした鍵であった。
「これは、周辺の遺跡から発掘された鍵です。この鍵はどうやら全部で三つあるようですが、見つかっているのはこの二つのみです」
「あの、私それとそっくりな鍵を持っています」
伽耶は例の鍵を自分のショルダーバッグから取り出した。あの一件の後すぐ一郎に返すつもりだったのだが、結局忘れていたのである。
「なんと!それをどこで手に入れたのですか?」
「店にある黒い本に貼り付けてあったんです。バイト中に偶然見つけたんですけど。」
「なるほど、確かに書店へお邪魔した際、あの本から怪しいオーラを感じました。そこで詳しく調べるために、店長さんに頼んで一冊お借りしたのです」
後ろにある本棚から彼が取り出したのは、書店にあるものと同じ、例の黒い本であった。
「実を言うと、朱莉はこの本と関わったせいで大変なことになったのです。なんせ、何者かが本を開いて悪魔を召喚したのですから。」
三人は耳を疑った。もしそれが本当なら、朱莉は悪魔に拐われたとでも言うのだろうか。もはや黙っている訳にいかなくなった伽耶は、書店でおきた出来事について洗いざらい話したのであった。
「私の知らないところでそんなことが…。それで本はどうしたんですか?」
「ああ、その…ページが折れ曲がってしまって、あれはもう売り物にはなりませんよね…あはは」
もう笑うしかない。故意では無いにしても、彼女のしてしまった事で何やら大変な事が起こっているようである。
「なるほど…。そこまで関わっているのでしたら、事情をお教えするしか無さそうですね」
神主はそう言うと、三人を再び外へと案内するのであった。






