color~色の異世界冒険記 第6話 占いの館
紗央里の父親が主催するマジックショーを観るために、占いの館へと向かった三人。琉花は楽しみで仕方がないのだが、一方の紗央里は気が進まないのであった。
紗央里は、ポニーテールの黒髪を揺らしながら、ただ無言で歩いていた。学生時代はバスケ部に所属しており、スポーツ万能な彼女だが、さすがに今日は足どりが重く、表情も曇り気味である。しかし、そんな気持ちをよそにして、なぜか琉花だけは、とても楽しそうなのだ。伽耶はそれを後ろから見ていると、少しだけ複雑な気持ちになるのであった。
マジックショーが行われる占いの館は、商店街の一番奥にある一風変わった店である。薄暗い店内には小さな劇場があって、そこでは地域住民による小さな催しが月に数回ほど行われていた。マジックショーが行われる前は、雑貨屋の主人によるバイオリン演奏会。その前は、歌好きの有志達による歌謡ショーなどなど…。一応、皆で商店街を盛り上げているのであった。
「いらっしゃい。まだ時間があるから、よかったら占ってあげようか」
占い師の女性かず子が店を訪れた三人を誘うと、琉花が真っ先に空いている席を陣取ったので、結局、三人で占ってもらう事になった。
「おや、琉花さんあなたは頭が良くて語学が堪能みたいだね。ただし、その性格は時として災いの元になるかも知れないよ」
「そんな、どういう事ですか?かず子さん」
「まあ、良くも悪くもってところだね」
紗央里がそう言って釘を刺すと、伽耶は思わずクスッと笑った。三人の中でも一際優秀な琉花は、伽耶達によく勉強を教えてくれた良き友である。特に、試験前ともなれば三人で近くの喫茶店に入り浸り、教科書片手に対策をしたものだった。
更に、国際教養部という部活に所属していたこともあって語学が堪能な彼女は、異国の文化に深く関心をよせていたのである。
結果として、かず子が琉花の頭脳や性格までみごとに言い当てたので、二人は占いを信じて期待に胸を膨らませたのだった。
しかし、彼女達はまだ何も知らなかった。これから背負う自らの使命について、そしてそれによって自分達の人生が大きく変わっていくことを…。
さて、次にみてもらうのは、伽耶である。彼女は、これからの人生と仕事運について相談をした。
「あなたには、何か宿命のようなものを感じるね。きっと近いうちにどこか遠い異国の地に行く事になるかもしれないよ」
「異国!?いったいそれは何処なんですか?」
「まあ、それはまだ確かではないけど、いずれ分かるはずだよ。それと仕事運だけどね。貴方が異国の地に行った時に、その特技がきっと活きるはずだから、とりあえずそれを頑張ることだね」
それを聞いた伽耶はとっさに思った。特技といえば絵を描くこと以外ないと。もしそれが本当ならば、ひょっとして海外で有名なアーティストにでもなるのだろうか。いや、そんなことはありえないだろう。第一に、自分は外国などに住みたくないし、ずっとこの町で暮らしたいのだから…。
そして、最後に占ってもらったのは紗央里なのだが、結局は伽耶の予想通り、お金のことしか聞かないのであった。まあ、彼女の金に貪欲なところは、今に始まったことでもない訳であるが…。
「それと、どこか遠い異国の地に行くって言うのはさ、どうやら三人とも共通のことみたいなんだよね。」
最後に占い師がこのように言ったところでちょうど時間切れとなり、伽耶達はいよいよ始まるマジックショーを見る為に、店内にある劇場へと向かった。
占いコーナーの奥にある扉を開けると、もう既に何人ものお客が席に着いており、ショーが始まるのを今か今かと待っていた。そこで、伽耶達もちょうど空いていた席にすわると、それから各々携帯をいじったり、軽く化粧直しをしたりしていた。
「あのさ紗央里、小学生の頃ここって映画館だったじゃない?よく一緒に来たよね」
「そうだね、懐かしいな。あの時は近くの駄菓子屋に寄ったんだっけ」
「あの駄菓子屋、伽耶達も行ってたんだ。もしかしたら会ってたのかもね、気付かなかっただけでさ」
伽耶と紗央里は小学校からの幼馴染なのだが、一方の琉花は高校時代からの友人だ。しかし、琉花は度々この商店街を訪れていたので、伽耶達と会っていたとしても不思議ではないのである。
三人が思い出話しに花を咲かせていると、館内アナウンスが流れていよいよ舞台の幕が上がり、拍手喝采のなか占い師の男性が現れて、皆に挨拶をした。
「Ladies and gentlemen…はちょっと古いかな」
完全に滑っている父親の姿を見ながら紗央里が深いため息をつくと、隣りにいた中年男性が大きな声で助け船を出したのだった。
「よっ!悟史さん」
すると、すかさず会場にいた客が彼に拍手を贈り、その場は和やかな空気に変わったのである。
さて、いよいよ始まった占いの館マジックショー。まず始めはカードを使ったマジックである。お客がトランプの中から好きなカードを選ぶと、それを見ずにまた戻してシャッフルし、カードを当てるという定番の手品であった。
次に行われたのは、帽子の中から様々なものが飛び出すという手品。定番の鳩からバネの人形まで、ありとあらゆる物が帽子から飛び出すのであった。
伽耶と琉花はその手品を興奮しながら見ていたのだが、紗央里に至ってはどこか不安げな様子であった。すると、彼女の予想通り、占い師の悟史が客席にいた若い女性に声をかけようとしたのである。しかし、彼はすぐ近くに座る娘の存在に気が付くと、慌てて後退りして微笑んでみせた。伽耶は、おそらくこの場に紗央里がいなければ、後でちょっと厄介な事が起こるのだと思った。
確かに、手品の腕こそ素晴らしいのだが、彼が時折繰り出すくだらないジョークによって、ややその場もしらけてしまう場合もあるようだ。そんな時は先程のように、中高年のお客が救いの手を差し伸べるのである。
その後は宙に浮くステッキや、手に握ったコインが消えるマジックなど定番のものばかりであったが、幸いにもマジックショーは、大盛況のなか幕を閉じたのであった。