color~色の異世界冒険記 第3話 晶子
カーテンの隙間から差し込む日の光。そしてけたたましく響き渡るカラスの鳴き声。
ベッドの上に倒れこむようにして眠っていた伽耶は目を覚ますと、ゆっくりと腕を伸ばして起き上がった。
昨日はおかしな夢をみてしまった。伽耶は無意識のうちに光り輝くパソコンの画面の中へ入って行き、細い道を先へと進んで行くと、見えて来たのは広い草原であった。そしてその草原に一人たたずむ謎の人物がじっと彼女にその視線を向けていた。伽耶は、不思議でたまらなかった。夢であるはずの出来事が、何故が鮮明に記憶として残っていたのだから。
伽耶は洗面所で顔を洗い、着替えを済ますと、ショートボブの短い髪をとかしてセットした。それからテーブルにつくと、パンをくわえながらテレビをつけて、朝のワイドショーを見始めた。
中年の司会者と、女性アナウンサーの二人組。司会者の軽快なトークと評論家達の鋭いツッコミが面白く、朝といえばいつも決まってこの番組である。
程なくすると、ニュースのコーナーが始まったのでそれを見ていると、テレビには馴染みの場所が映し出された。
「行方不明の少女はこの通りの角を曲がった先にある横断歩道を歩いてその先で、近くにある書店の辺りで消息を絶っており…」
伽耶は言葉を失った。テレビに映る中継先はまさしく、彼女がバイトをしている山百合書店だったのだ。
最近はこの国も物騒になったもので、凶悪事件などはよく報道されているが、それが自分の住む町、しかもバイト先の周辺で起こったらしいのである。伽耶は不安と恐怖にかられて心苦しくなってしまったが、どうにかその気持ちを胸にしまい込み、いつも通り部屋を出たのだった。
朝の開店準備をした後、用事で外出する一郎を見送ると、伽耶はレジ付近にいてお客の対応をしていた。近頃はこの変わった書店も、若者達が牽引するレトロブームによって関心が高まリ、地元でも人気の栄えスポットになっている。
そのため、朝から何人かのお客が携帯片手やって来ては画像を撮っていき、中には一郎の画集なども買って行く場合があるのだ。彼女はそんなお客に対応する為、朝はもっぱら店の入り口付近にいるのである。
きっかけは地元テレビ局の取材であった。テレビの関係者が店を訪れた際、この独特な雰囲気がある店内を一目で気に入り、取材を申し込んできたのである。その後、地元住民が訪れる機会が増え、ある時は地元の観光会社から声がかかった程であった。
こうした状況は、店にとって嬉しい悲鳴であるのだが、中には迷惑な人もいて、純粋に本を買いにきたお客の邪魔になったり、何も買うわけでもないのにいつまでも店に入り浸っていたりと、対応に頭を悩ませているのだった。
それかしばらくして、ようやくお客の入りも落ち着いたので一息ついていた伽耶であるが、彼女の予想通りある女性客が来店したのだった。
「伽耶さん久しぶりね。今日は一郎さんが居ないって聞いたから、心配になって来ちゃった」
「お久しぶりです晶子さん」
案の定それは、一郎の友人であり常連客の晶子であった。彼女は、美術の専門学校で講師として働く傍ら、画家としても活動していることもあり、アート関係の書籍を求めて度々店を訪れるのであった。
伽耶は元々画家を志していたこともあって、晶子を尊敬していたのだが、その一癖ある性格に頭を悩ませてもいた。ちなみ彼女の夫は、漫画家の山田サブローという人物で、伽耶は彼の出世作である、『お騒がせアキさんのふんとう記』のファンなのであった。
「ところで伽耶さん、そろそろお昼になるわよ。ご飯はたべないの?」
食べないのではなく、それが出来ないのである。なんせ、今日は一人きりな訳だし、さっきは一郎が居ないと晶子が自分で言っていたではないか。そう思った伽耶は徐々に阿呆らしくなり、早めに昼の休憩をとる事にしたのであった。
「そういえば最近、一郎さんは元気なの?」
休憩所で弁当を食べていると、晶子は突然そう尋ねてきた。
「ええ、でも時おり外をぼーっと眺めているとがあって。」
「ふーん、もしかすると寂しいのかもね。前に一郎さんから聞いたんたんだけど、彼の故郷ってどこか遠い異国の地らしいじゃない?」
「そうなんですか?なるほど、店長って外国人だったんだ。なんだか意外です。でも、いったいどこの国から来たんでしょうね」
「それが、分からないのよね。結局その話題になると、彼はいつも話をそらすんだもの…」
伽耶は偶然にも一郎の過去について知る事となったのだが、結局、謎は深まるばかりであった。
さて、休憩を終えた伽耶はバックヤードに置いてある脚立を手にすると、さっそく例の本が並んでいる場所へ行くことにした。今日こそはあの奇妙な本を、全て片付けてしまおうと思ったのである。すると、それを見ていた晶子が、心配そうにこう言ってきた。
「大変そうね、よかったらお手伝いしましょうか?ほら、落っこちたら大変でしょう」
悪かったな。自分はそんなにドジではないし、余計なお世話である。そう思った伽耶は、どうするか悩んだのだが、高い場所にある本を取るのが少し不安だった為、渋々手伝ってもらう事にしたのであった。
「面白かった!」
「また読みたい!」
「今後の展開は…」
などと思った方は、下の☆☆☆☆☆から評価していただけますと幸いです。
また、出来ましたらブックマークしていただけますとありがたいです。是非よろしくお願い致します。