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color~色の異世界冒険記 第14話 [伽耶の章] 精霊の泉

 穏やかに吹く風は木の葉を揺らし、日差しが散々と辺りを照らす中、草むらに倒れ込んでいた伽耶は、ゆっくりとまぶたを開いた。いったいここは何処だろうか。体を起こして立ち上がると、そこは見渡すかぎり何もない平原であった。  

 彼女は勇気をふりだし、大声で友人達の名前を叫んだのだが、返事が返ってくることはなかったのである。


 「伽耶さん、こっちですよ」


 背後から突然聞こえてきた声に彼女が思わず振り返ると、そこにはなんとも奇妙な姿をした謎の物体が浮かんでいたのである。          

 背中に白い翼が生えたその茶色い本は、どこか見覚えのあるモアイ像のような顔をしていた。どうやら想像力が豊かだと、夢にも変わった生き物が登場するようだ。


 「やれやれ、今度は何ですか?とりあえず、あんたはcolorの使いで、私と一緒に旅をする。どうせそんなところでしょう」


「さすが伽耶さん!お察しの通りです。私は、color様よりあなたの案内役として使わされた、魔法の本でございます。どうぞよろしく」


 目の前にいる妙な生き物を見ていると、今の状況がもはや現実と思えるはずがなかった。私はいつもこんなに変な事を想像しているのだろうか。そう思っていると、ますます自分に嫌気がさしてくるのである。

 まあいいだろう…どうせこれは夢なのだから、覚めるまでの間だけでもままごとに付き合ってやるとするか。


 「そうなの…魔法の本なんて、なんだか呼びにくい名前ね。そうだ!あなたに名前を付けてあげる。ちょっと待っててね」


 しかしそう言ってみたものの、絵を描く才能があってもネーミングセンスなどはまったく無いのである。それでも彼女は自分なりに知恵を絞って、色々と考えてみたのだった。


 「よし、決めた!あなたの名前は今日からヒロシよ。分かった?」

 

 「…伽耶さん、もう少し格好いい名前にして下さいよ。なんか、らしくないじゃないですか」


 「まったく、面倒な奴ね。ヒロシだっていいじゃないの。それならポチとかはどうかしら?」


 「…分かりましたよ。有難うございます。とりあえず、先を急ぎましょう。こんなところにいたって仕方がないですからね」


 ヒロシは少しふてくされた様子を見せると、そのままふわふわと浮かびながら先へ進んで行った。伽耶がその後ろから渋々着いて行くと、ちょうど下り坂に差し掛かったところで見えてきたのは鬱蒼(うっそう)とした森であった。


 「あの森を抜けたところに村があります。まずはそこに行けば何か情報が掴めるかも知れません。おそらく今の時刻だと、そこで宿をとるのが良さそうですね」


 「てかさ、あんたはこれからどうするか何も分かってないの?あんたが案内人なら、指示通りに動けば魔王に会えるんだと思ったんだけど」


 「伽耶さん、物事はそんなに上手く行くものじゃありませんよ。いくら私でも、二人が争っている原因までは知らないのですから」


 それなら旅をしながらいちいち聞いてまわれと言うのだろうか。そんな事せずとも、魔王に会って直接聞けば簡単にすみそうな話である。これは今までにみた夢の中で最も面倒な部類に入るだろう。夢なら早く覚めて欲くれ、伽耶はひたすらそう願ったのであった。

 

 「ところでヒロシ、あんたはいいね。ただふわふわと浮かんでいればいいんだもの。私はさっきからずっと歩きっぱなしで、もうくたくたなの。少しは休もうよ」


 「伽耶さん、まだ歩き始めたばかりじゃないですか。それに、飛ぶっていうのも結構体力を使うんですよ。だって、ずっと翼を動かしていなければならないんですからね」


 おかしい、なぜ夢の中なのにこれほどまで疲れるのだろうか。足が重くなる夢など、今までに一度も見たことがない。ひょっとしてこれは現実なのではなかろうか。もしそうなら、すぐにでも元の世界に戻りたい。


 「さあ、とりあえず森に着きましたから、さっさとここを抜けてしまいましょう。急がないと日が暮れてしまいますよ」


 「ちょっと待ってよヒロシ。森まで来たら一旦休憩するって約束でしょう?」


 「そうですか、それでも構いませんが、夜になると森の中には獣や恐ろしい悪魔達が現れますよ。そうなればちょっと厄介だと思うのですが…」


 「分かったよ。じゃあ行けばいいんでしょう行けば。でも、とりあえず喉が渇いてきたから、水が欲しいんだけど…」


 「おそらく森の中程まで行けば泉があるはずですので、精霊に水をわけてもらいましょう」


 ますます意味不明な展開になってきた。自分は漫画やアニメ好きのオタクであるが、それゆえにこんな展開になるのだろうか…

 元々運動は好きではない。それなのにこれ程まで過酷な夢を見るなんて、いったいどうゆう事なのだろうか。彼女の頭に浮かんでくるのは、ただただ不満ばかりであった。

 重い足を引きずるようにしながらひたすら森の中を歩いていると、ようやく目的の泉らしき場所にたどり着いた。


 「伽耶さんおそらくここですよ。さっそく精霊に祈りを捧げて下さい。手を合わせ目をつぶってお願いするのです」


 さっそく伽耶が言われた通りにすると、耳元から不思議な声が聞こえて来た。彼女が恐怖のあまり慌てて目を開くと、そこには誰の姿も無かったのである。


 「あなたは誰?どこにいるの?」


 「我は泉の精霊である。旅のものよ、生まれたままの姿になりなさい。そして泉へと入るのです」


 「ねえヒロシ、こんなこと言ってるけど、私には何を言っているかさっぱり分からないよ」


 「つまり、伽耶さんが裸の状態で泉に入れって事ですよ」


 「嘘でしょう、ありえないんだけど。でもこんなに冷たい泉に入ったら風邪ひいちゃうじゃない。まあ、現実ならだけどね…」


 ようやく自分の夢らしくなってきたではないか。いつも大人しく見える彼女ではあるが、意外にもすけべな夢を見る事があるのだ。



 「じゃあ、あんたは後ろを向いていなさい。見たら殺すからね」


 伽耶は急いで自分の着ていた服を全て脱ぎ、精霊の言う通り生まれたままの姿になると、ゆっくり泉へと足を踏み入れた。すると、泉は思った程冷たくはなく、むしろ心地よいのであった。


 「そうだ。今まで何人もの旅人がここを訪れたが、この私の言いつけを守ったやつはいなかった。君が初めてだ」


 声と共に泉の中央が泡立ち出し、そこからゆっくりと顔を出したのは、伽耶の想像していたようなものはなく、むしろ望んでいない姿であった。









 


 

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