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color~色の異世界冒険記 第13話 旅立ち

 「colorの世界では長い間、悪魔と人間が平和に暮らしていました。しかし、最近になって悪魔の長たちが争いを始めたのです」

 

 これが伝説通りに訪れた災いだというのだろうか。だとすると、もはや一般女性に対処出来るような問題では到底ない訳である。


 「まったく、もうこれ以上厄介なことに関わるのはごめんよ。私は無理だから帰らせてもらいます」


 「帰る事なんて出来ないよ。もう君達はこの問題に足を踏み入れたんだからね」


 ブルーの言葉通り、既に部屋の通路は塞がれていて、紗央里がいくら目の前にある扉を叩いても、引き返すことは出来ないのであった。


 「店長お願いです。こんなことはやめて下さい。いったい私達にどうしろって言うんですか?」


 涙ながらに訴える伽耶に対して、彼は淡々とこう述べた。


 「簡単な事さ。君達にはcolorの世界に行き、二人の長の争いを止めて欲しいんだよ。小林さんは神社であの死神を倒したんだから、きっと出来るはずだよ」


 身勝手な考えである。どうして自分の故郷でもないところまで行って、人助けなどしなくてはならないのだろうか。だいたい、そんな内輪もめにわざわざ首を突っ込むなんて、普通は有り得ないのだから。


 「とりあえず、あなた達は三人ともcolorへと行く運命なのは間違いないわ。母さんにも占いでそう言われたはずよ」


 なんと、あの占い師が美咲の母親だったとは。しかも、それを知らなかったのは伽耶一人だけなのである。はめられたのだろうか?彼女はとっさにそう思ったのだった。


 「やれやれ、君たちが行かないなら、僕が何とかするしかないんだぜ。僕は預言者様の正式な使いなんだから」


 苛立ちを隠せないブルーの様子からしても事の重大性が伺えるのだが、紗央里にとって結局それはどうでも良いことなのである。


 「そうですか。それならご勝手にどうぞ。私はホーラーさんから頂いた、贈り物の価値がはやく知りたいのよ。分かる?」


 「あの金貨のことか?colorに行けばあんなものいくらでもあるさ。それに妖精なんかはあっちじゃ割と高く売れるぜ」


 「妖精?あれなら琉花に渡したわよ。私はあんなものを売ってまで、お金が欲しい訳じゃないからね。それより、異世界の人は金を作ることが出来るの?」


 欲深い彼女の視線は期待に満ちていた。全ては青年の思惑通りである。

  

 「colorには、魔法の力で金を作り出すことが出来る錬金術師がいるのさ。けれど、あまりにも沢山作ったもんだから、今はほとんど価値がなくなってしまったけどね。とにかく、君達が世界を救ったとなれば、それなりのお礼ってやつがあるはずだよ」


 未知の世界には魔法などが本当に存在するのであろうか。普通なら信じられないことであっても、光輝く伽耶の姿や悪魔を見たとなれば、それも真実のように思えてくる。


 「まあ、とりあえずそのお偉いさん二人を私達の力で仲直りさせるって訳でしょう?それなら女の武器を利用して、早々に解決してやろうじゃないの。それからお礼の品やお宝がもらえれば一生安泰(あんたい)ね」


 金の話を聞いて急に態度を変えた友人を見て、伽耶の不安は一層増していった。このままでは、嫌でも未知の世界へと行くはめになってしまう。


 「ちょっと待って。あのさ、急に私達がいなくなったとすると、家族や周りの人達が騒ぎ立てると思うんですけど、店長はどう説明するつもりですか?」

 

 彼女の言う通りである。もし三人の若い女性が同時に失踪したとなれば、家族が心配するだけではすまない訳だし、真っ先に疑われるのは彼なのだから。そんな事も考えずに、いきなり異世界などに行けと言うのだろうか。


 「それは大丈夫です」


 colorオブジェは自信満々にそう答えた。

 

 「これから魔法の力を使い、三人のご両親には、海外留学をしているという記憶を埋め込むことにしましょう。そうすれば、失踪した事などにはならないはずです」


 「()()って何よ!そんな嘘は調べればすぐにわかっちゃうでしょう」


 黒いポニーテールを揺らし、興奮気味に話す紗央里の表情はやや不安げであった。いくらお金好きで貪欲(どんよく)な性格であっても、むやみに自分の親を騙したりはしたくないのであろう。

 

 「大丈夫です。私が魔法AIの力を使って、皆さんに変わりご家族にメールや電話をします。科学と魔法の融合したこの力ならば、誰にもばれる事はないでしょう」

 

 どうやら異世界には不思議な科学力があるようだ。未知なるテクノロジーの話に触れたことで、琉花の好奇心は一層高くなっていった。


 「とりあえず、これで店長さんは無実って事ですね。それはそうと、さっき言っていた二人の長はいったいどんな人物なんですか?」


 「実は今、悪魔の社会は魔王アリス率いる魔王派と魔大帝エレナを筆頭にした魔大帝派の二つに分かれているんだ。恐らく今回は、その二人による権力争いがおきているらしいけど、事の詳細は不明のままなんだ。なんせ、部下の悪魔達でさえ事情を知るものは、あまりいないらしいからね」

 

 「てか、魔王って女性な訳ね?それじゃあ女の利点を全く活かせないわ。諦めましょう」


 どうやら、紗央里は諦めてくれたようだ。しかし、伽耶がほっとするのもつかの間、おせっかいな友人が突然こう言ったのである。


 「ちょっと待って紗央里。逆に同じ女だからこそ相手の気持ちに寄り添う事が出来るんじゃない?きっと喧嘩の原因なんてちっぽけなものなのよ。私達だっていつもそうでしょう。もしかすると、魔王さん達とお友達になれるかもしれないわ」


 「まったく琉花はお気楽だな。でも、どうやら説得する余地はありそうだから、とりあえずさっさと用事を片付けて、後はお土産もらって帰るだけだね」


 そんなに上手くいくのだろうか。伽耶の不安をよそにして、二人の友人は俄然やる気になってる。そうなると、もはや断ることなど出来やしないのだった。  

 いつも二人には振り回されてばかり、結局それが自分の宿命なのだろうか…。伽耶は暗い表情を浮かべながら一人そんな事を思っていた。


 「さて、そうと決まったら早速行きましょう。とりあえず鍵は神主さんからもらってきたからね」

 

 美咲がそう言って二人の友人に手渡したのは神社の資料館で見たあの鍵であった。


 「じゃあ、小林さんは既に鍵を持っているはずだから、あとの事はよろしく頼んだよ」


 「ちょっと待って下さいよ。なんで店長は行かないんですか?」


 「すまないが、僕には本屋の運営という大事な使命があるからね。まあ、幸運を祈るよ」


 どうやらこの卑怯(ひきょう)なおじさんは、一人だけ安全な場所で高見の見物らしい。彼女達は結局、この男にはめられたのかもしれない。


  ガタガタガタ…


 突然辺りが揺れ始めたかと思うと、何も見えなくなるほどの強い光に包まれた。ほどなくして全てがおさまると、伽耶達の姿はどこにもなかったのである。


 「これで良かったんだよな。あっちの世界には、もう僕の居場所なんてないんだし。」


 「一郎さん、あなたは卑怯ですね」


 「君には言われたくないな。だってそうだろう。僕は君の世界で生まれたんだから」



 

 

 




 



 





 

 




  


 

 

 

 


 

 

 

 




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