color~色の異世界冒険記 第12話 選ばれし者達
翌日、午後に書店へとやって来た伽耶は、さっそく紗央里から預かっていた記憶の破片を一郎に手渡した。先に来ていたブルー達も見守るなか、そのガラスのような破片は彼の手の中であっという間に消えてゆき、跡形もなくなってしまった。
「ああ、助かった。記憶が戻っぞ!」
「よかったな。一応心配してたんだからな」
「本当にすまなかったねブルー。しかし、君が僕の画集を買ってくれたというのに全く気が付かなかったなんてなぁ」
「仕方がないでしょ。あのアホな悪魔に記憶を奪われていたんだから。とりあえず伽耶達に感謝することね」
美咲のきつい言葉に彼は何も言い返すことができない。恐らく、記憶を失っていたのには何か深い訳があるのだろう。
「ところで小林さん、神社に行ったのなら、何か情報は掴めたかい?」
「ええっと…神社の古い言い伝えについては聞きましたけど。選ばれしものがどうとか…」
伽耶は短い髪を軽くかき分けて視線をそらした。彼女はあの占いが現実になることを恐れているのだ。
「なるほど、もうこうなったら小林さんには全て話すしか無さそうだな。きっと君がここで働くことになったのは運命だったんだろうね」
一郎は急に気持ちの悪い事を言ったかと思うと、店の入り口まで行ってすぐさま扉に鍵をかけた。どうやら今日はもう閉店にするようである。
「ところで、あの時、紗央里とかいうやつが死神に心を奪われかけていたよな。もし彼女が普通の人間だったら、奴は利用しようとまで思うか」
「確かにブルーの言う通りだわ、彼女にはきっと秘められた力があるのかもね」
「なんと、そんな事があったのか。それならお友達にも来てもらわなくてはな…。小林さん、とりあえず、連絡をとってくれないかい?」
そこで伽耶は渋々友人達に連絡し、書店に来てもらうように伝えたのであった。
それから三時間程度が経ち、急いで書店に駆けつけた紗央里は、少々イライラしているようだった。
「ねえ、店長さん。突然呼び出すなんていったいどういう事なんですか?こっちは休み明けの勤務で疲れてるんですけどね」
「まあ、紗央里とにかく落ち着いて、きっと何か訳があるのよ」
琉花は友人をなだめながらも、不安な表情を浮かべていた。無理もない、あれだけ危険な目にあった後なのだから。
「とりあえず、皆さんに集まってもらったのは、ある重大な問題について話すためです。」
一郎の案内で伽耶達が地下の小部屋へとやって来ると、相変わらず中はほこりっぽく、汚れた黒い本が無造作に置いてあるだけであった。そして彼が本棚に手をかざすと、突然それは扉のようにスライドし、目の前には薄暗い通路が現れたのである。
「さあ皆さん、中に入って下さい」
一郎の案内で皆がその細い通路を進んで行くと、程なくして円形状の狭い部屋に出たのであった。
ドクドクドク…
伽耶達の目の前にあったのは、小さな音を立て怪しげに光る謎のオブジェであった。中央の台座の上に置かれたその不思議な物体を見た伽耶は、驚きのあまり言葉を失ってしまった。なんと、それは彼女がSNS上で見たあのオブジェだったのである。
「まったく、君はcolorをこんなところに隠していたのか。だから僕がこっちの世界に来た時、本屋の前にいたんだな」
「すまなかった。とにかく、誰かにこれを悪用されたら大変だろ?だから厳重に保管していたのさ。」
「とりあえずあの日、私が偶然あなたに気付いて良かったわね」
「分かってるって、美咲には感謝しているさ」
ブルーは少し照れ臭そうに頭をかいていた。どうやら彼は美咲には逆らえないようである。
「皆さん初めまして。ようやくお会い出来ましたね」
突然、目の前のオブジェが暖かい光を放った瞬間、どこからか聞き覚えのある声がしたのであった。
「いったい誰なの?どこにいるのよ」
「すまないね、八百屋の娘さん。今聞こえたのは、ここにあるオブジェcolorの声なんだよ。なんというか、彼女は世界そのものであり、歴史の証人なのさ」
「それはそうと店長、私達に話っていったいなんでしょうか?」
伽耶の不安そうなその視線の先にいる店長は、緊張した様子であった。これから彼女達にとても重大な事を言わなければならないからである。
「実は今、colorの世界でちょっとした災いが起こっているんだ。そして、それを予言していたあるお方により、美咲さん達がつかわされたんだよ。選ばれしもの達を探し出すためにね」
「そうだよ。まあ、そのついでに君のことも探していたって訳さ」
「なんだよブルー、僕はついでだったのか…でも、一応見つけてくれたことには感謝するよ」
「とりあえず、言い伝えについては神社であの取りつかれた神主からも聞いたわ。でも、それと私たちに何の関係があるっていうの?」
紗央里は動揺していた。訳も分からず呼び出されたかと思えば、突然、聞いたこともない世界の話をされているからである。
すると青白く光る不思議なオブジェは、皆に向かって優しく語り始めたのであった。