color~色の異世界冒険記 第11話 記憶の破片
ようやく辺りに静寂が訪れると、我にかえった紗央里は、倒れ込む2人の友人達にすぐさま駆け寄った。
「伽耶!琉花!目を開けて。ごめんなさい、私のせいで…」
「大丈夫よ、2人は眠っているだけ。得に問題はないわ」
死神に奪われかけた彼女の心を癒すかのように、美咲は涙ぐむ友人の肩にそっと手をかけた。
「そうです、あなたのせいではありませんよ。こうして娘も元に戻った訳だし」
既に意識を取り戻していた神主は、娘の元気な姿に安堵の表情を浮かべていた。朱莉に関しては無事でなによりだが、父親には少し反省してほしいものである。
「まったく、ホーラーを怒らせたのはおっさんだろ!美咲、どうしようか?まずはこいつの息の根を止めて…」
ブルーが男の方をちらっと見ると、その表情は徐々に青ざめていった。ようやく自分のしてしまった事に気付いたのだろう。しかし、それでも彼はシラを切り、くだらない弁解をするのであった。
「ああ、どうかお助け下さい。あの時は伽耶さん達をかばおうとしてつい…それでもあなたは神主である私のことを殺すのですか?」
「ブルー、もうそのへんにしてあげて。彼は悪く無いわ。元はといえばこの身勝手な悪魔が…」
美咲の一言で命拾いした神主は、口は災いの元だと改めて学んだのであった。
「ハハハ、冗談さ、もちろん死んでもらうのは彼じゃなくてお前だよ」
そのまま、男は手にしていた剣の先を下へ向けると、今度は哀れな化け物が必死で命乞いをするのであった。
「や、やめてくれ、悪かった、もうこんなことはしないからよ…それに、俺は話し合いたかっただけなんだ。ほら、これをやるからよ」
ホーラーは、身につけていたショルダーバッグの中から手のひらサイズの瓶を取り出すと、それをそっと地面に置いたのである。
「これは妖精じゃないか!お前どうしてこんなものを…」
「そいつは偶然にも市場で見つけたのさ。これをやるから助けてくれ、頼むからよ」
「やれやれ、馬鹿な奴だなぁ。僕がそんな手に引っかかるとでも思ったのか?ところでこれ、高かっただろ。いったいいくらしたんだ?」
哀れみの表情を浮かべながら話す青年は、倒れ込む悪魔をただもてあそんでいるかのようであった。
「まあ、一応150万ラベルってところだな、割とお値打ち価格だろう?」
すると、それを聞いた紗央里は、たまらず会話に割って入った。
「ねえ、そのラベルっていうのはだいたい日本円でいくらになるのかしら」
「ああ、とりあえず、今の相場だと、1ラベル=1円だから…」
150万円!!その瞬間、紗央里の目の色が変わった。
「ねえみんな、やっぱり彼は悪気がなかったのよ。流石に気の毒だわ。助けてあげましょうよ。私、これ以上誰かが傷つくのを見ていられないのよ」
きっとまだ金目のものを持っているに違いない。あわよくば全ていただいてしまおうではないか。腹黒い彼女はそう考えていた。
青年が気まずくなって持っていた剣を鞘へとしまう一方で、神主は涙ながらに訴えるその姿に、どうやら胸を打たれたようである。
「紗央里さん…やはり私が間違っていたようだ。神主という身でありながら、私は君の死を望んでしまった。許せよ、ホーラーとやら」
結局、男は女の涙に弱いということなのだろう。紗央里の迫真の演技に惑わされた神主は、ポケットからハンカチを取り出して、瞼を軽くふいたのだった。
「やれやれ、分かったよ、助ければいいんだろ!」
ブルーは腰についているポーチから白い錠剤のようなものを一粒取り出すと、倒れ込むホーラーの前にぽとりと落とした。悪魔はそれを必死に手で掴み、口の中へ放り込むと、みるみる体の傷が癒えていき、どうにか立ち上がったのであった。
「やあ、助かったぜ、死神なんかと関わったせいで散々な目にあったな。とりあえず俺は帰るぜ。どうせ止めたって、あんたらはこっちの世界に来るだろうからな。結局そういう流れなんだしよ」
「は?誰も行くなんて言ってないじゃん…わけ分かんないんだけど」
「ああ、そうかい。それなら話はお終いだ。あばよ!」
「ねえ、ちょっと待ちなさいよ!」
悪魔が足を止めて面倒くさそうに振り返ると、紗央里がすかさずこう切り出した。
「あんたの事助けてやったんですからね。私には何も無いって言うの?」
するとホーラーは、渋々ポケットから何かを取り出して、彼女の方に放り投げた。
「そいつは、一郎ってやつから奪った記憶の断片、それと金貨だ。とりあえずこれで勘弁してくれ。じゃあな」
ホーラーはその場に手をかざすと、空間が裂けて青白い光が見え、彼はその中に入って姿を消したのであった。
「まったく失礼な奴ね。助けてやったのに、お礼の一言もないんだから」
「まあ、いいんじゃね?とりあえず金目のものは置いていったんだしさ」
彼女はどうやら学生時代と何も代わっていないようだ。まあ、金に貪欲な人間の性格はそう簡単に変わるものでもないのだろう。それでも美咲は、そんな友人の事を不思議と嫌いになれないのである。
そうこうしていると、友人達が目を覚ましたので、紗央里は2人を連れて山奥の神社を後にしたのであった。
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