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color~色の異世界冒険記 第10話 死神の誘惑

境内にある洞窟につれて来られた三人。なんとそこには石に変えられた朱莉の姿があった。困惑する彼女達の前に突然現れた悪魔ホーラーの攻撃により、絶対絶滅の伽耶であったが…。

 神主の叫び声とともに伽耶が身を伏せた瞬間だった。突然、何者かが現れて紫の光線をはじき飛ばすと、それがホーラーに直撃し、苦しそうな叫び声をあげながら地面に倒れこんだ。大きな盾を構えた男は、なんと伽耶が以前に書店で見かけたあの青年であった。彼が一郎の画集を購入した時のことを、彼女は鮮明に覚えていたのである。


「間にあって良かった。怪我はないかい?」


「はい、なんとか大丈夫そうです」


「それは良かった…おや?なんだ、ホーラーじゃないか」


「ブ、ブルーか…久しぶりだな。なんでここに…そうか、お前も選ばれし者達を探して…」


「そうよ、私なんか何年も前からこの町に住んで待ち続けていたのよ。まあ、でも運良く早々に彼女を見つけていたんだけどね」


 青年の後ろから現れた謎の女性は、腰に手を当てながら黒いロングヘアーをかき上げた。真っ赤なその口紅は、端整な顔立ちによく似合っており、黒いブーツとショートパンツに赤いジャケットを着た姿が、どこか妖艶な雰囲気を醸し出している。


「あなた、もしかして美咲さん?」


「あら、紗央里も一緒だったのね、それに琉花まで」


 なんと、その女性は高校時代の同級生、美咲であった。彼女の見違えるほど艶やかに変貌した姿に、クラスメイトだった伽耶でさえ、すぐには気付かなかったのである。


「なんだ、あなた方は美咲のご友人でしたか。僕の名はレンブラント・ブルー、ブルーと呼んで下さい」


 青く美しい瞳に太く凛々しい眉をした彼は、伽耶達に向かって深くお辞儀をしてみせた。


「まあ、ブルーったら、いつになく仰々しいのね」


「何だよ、この国流のあいさつじゃないか。一度やってみたかっただけさ」


 ブルーが少し照れくさそうにして目を背けると、美咲がすぐ横にいた悪魔に突然こう尋ねた。


「ところであんたさ、この子を石に変えたのは誰なのか知ってるわよね。はやく本当の事を言った方が身のためよ」


 大火傷を負った悪魔はとても苦しそである。恐らく、美咲に殴られでもすれば直ぐにでもあの世行きかもしれない。


「確かに俺じゃねえ…でもな…森の奥深くに眠っておられたお方を、封印から解いたのは結局あの子なんだからな…」


 確かに、この悪魔が例の本から呼び出されたとしても、朱莉が居なくなったのはそれ以前のことである。そのため、もしホーラーが犯人だとしても明らかにつじつま合わない。どうやら美咲は最初から奴が真犯人ではないと知っていたようである。


「フッフッフようやく気がついたのか…」


 突然、神主が不敵な笑い声をあげた。すると彼の体から青白い煙のようなものがじわじわと立ち込め、その場に気を失って倒れたのである。そして、皆の目の前に現れたのは、黒い姿をした奇妙な化け物であった。


「我は死神、神宮寺家の先祖により、森に封印されていたものだ。それにしても、まさかその子孫である娘に助けられるとはな…」


 暗がりでフードをかぶり、やや下を向いているため、その表情さえ伺い知ることができないが、怪しく光る眼球だけは皆に向けられているのである。


「旦那…あとはよろしく頼みますぜ。それで約束通り、手柄は俺に…」


「ふふ、お安い御用だ。長年の恨みついでに他の奴らにも死んでもらうとするか」


 死神が手をかざすと、琉花が気を失って倒れ、続いて伽耶までもがその場に倒れ込んでしまった。途方に暮れる紗央里は、その場に固まって動くことすら出来ない。      


「紗央里、気をしっかり持つのよ!弱みを見せれば奴につけ込まれるわ」


 美咲の声を聞いた彼女は一瞬だけ我に返ったが、すぐさまその脳裏に死神が入り込んでくるような感覚に襲われた。すると、たちまち自分の身勝手な本性が急に現れ、 気付けば皆を犠牲にしてでも、助かりたいと考えていたのである。


「貴方はどうしたら私を見逃してくれるの?お願い教えて」


「そうだな…ならば、俺に代わって死神となり、世界を征服するといい。そして、世の全てを我がものとするのだ」


「紗央里、騙されちゃだめよ。死神はあんたの心につけこんでいるんだ」


 友人の説得も虚しく、既に心の大半が支配されてしまうと、彼女は氷のような冷たい視線を向けて皆の方を振り返った。このままではいけない、でもどうすれば…。誰か紗央里を助けて、お願い。美咲は心の中で必死に祈るより他はなかった。


「くそう、奴は実体のない亡霊だ。いったいどうすれば…」


「ブルー、貴方の呪文はどうなの?奴の動きを封じればどうにかなるんじゃ」


「だから、あの魔法は実体がない奴には通用しないんだよ。それに、こんな強力な化け物には歯が立たないさ」


 紗央里……紗央里!!


 二人の脳裏に突然声が聞こえたかと思うと、辺りは光り輝き、死神は思わず目を背けた。


「くそう、何事だ!」


 ゆっくりと立ち上がるその姿はまるで別人であった。金色(こんじき)に輝く長い髪は風になびき、落ち着いた表情からは恐怖など微塵(みじん)も感じられない。


「伽耶!?いったいどうしたっていうの?」


「これは驚いた。覚醒したのさ、彼女は光の戦士だったんだよ!」


「…伽耶、貴方はこれ程までの力を隠し持っていたのね」


 伽耶の変貌したその姿にただ驚きを隠せない二人をよそに、スカイブルーの瞳は死神をとらえていた。


「邪悪な亡霊よ、彼女を元に戻すのだ!そして、朱莉にかけられた石化の呪いを直ぐに解き放て!」


「フッフッフこざかしい奴め。貴様こそ、ここで死んでもらおうか」


 死神が青白い光を放つと、伽耶は目にも止まらぬ速さでそれを避けた。すると、彼女は両手を天にかざして一言こう呟いた。


「The end」


 その瞬間、死神の体は砂のように砕け散り、恐ろしい叫び声をあげながら消え去ったのである。程なくして伽耶は元の姿へと戻り、再びその場に倒れ込んだのであった。





 

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