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寵愛のゆくえ

 メリアの変化とその表情にアビゲイルもまた微笑みを返せば、それを見ていたウェンディがやけに冷めた目を向けてくる。


「メリアはアビゲイルのおかげで陛下から恩情をいただけてよかったですわね? やっと侍女もついてまともな暮らしができるようになったんですものねぇ」


「侍女が一人も付かないなんて、前代未聞だって話ですよ。それを陛下のご命令でやっとだなんて……」


 アビゲイルは今の話に目を見開いた。

 いくら敗戦国の姫であろうとも、王女でありイスカリの妃なのに、一人も侍女をつけずにいたなんてありえない。

 アビゲイルがメリアを見れば、彼女はそっと顔を伏せた。


「まともな暮らしはどうかしら? それでも陛下からお声がかかることはなさそうですけれど」


「当たり前です。陛下からしてみればただの戦利品ですから。メリアよりもウェンディ様を優先するのは当たり前です」


 ミンメイの言葉に満足したのか、ウェンディは紅茶をそっと口に含んだ。


「それにしてもアビゲイル。あなたずいぶんと陛下と親しげですわね……?」


「……そんなことないわ」


 ウェンディの矛先がメリアからアビゲイルへと変わった。

 顔色の悪いメリアにこれ以上負担をかけずに済んで良かったと思いながらも、めんどくさいことになりそうだとアビゲイルもまた紅茶を口に含んだ。


「あなたはわからないかもしれないけれど、陛下が誰かの意見を聞くなんてこと、そうそうないのよ。普段は意見なんてしようものなら、すぐに剣を抜かれてしまうもの」


「私も抜かれたわ。頰の傷がその証よ」


「でも首が繋がっている。……そこに驚いていますわ」


 ウェンディは軽く目元に力を入れると、じっとアビゲイルを見つめてくる。


「陛下が不愉快と感じた相手を生かすなんてありえませんわ。……あなた、なにをしたの?」


「殺すに値しない相手だと思ったんじゃないかしら?」


 詳しい話なんてできるはずがない。

 だからのらりくらりと交わしていこうとしているのだが、もちろんウェンディが納得した様子はない。

 彼女が改めて食ってかかろうとしたその時、ミンメイが納得したように手を叩いた。


「そうですよ! アビゲイルはエレンディーレの王女。一応同盟国の王族ですから、殺せないだけですよ」


「…………本当にそうかしら?」


「もちろんです。その証拠に陛下と夜を共にしたことはないんですよ? 寵愛なんてもの、夢のまた夢ですよ」


 ミンメイの言葉に、ウェンディは親指の爪を噛みながら考えるようにしばし沈黙した。

 どうも今の内容的に、ウェンディは自身に与えられている寵愛が他に向くことを嫌がっているらしい。

 ランカがここではイスカリの寵愛が全てだと言っていたなと思い出す。

 だとすれば、イスカリがアビゲイルに寵愛を与えることはありえないと伝えるほうが、この場を楽にやり過ごせるかもしれない。


「なるほど。ウェンディは私が寵愛を受けるかもしれないと思っているのね?」


「――はい? まさかそんなわけありませんわ。陛下はあなたみたいな貧相な女、相手にするわけないですもの」


 まあ確かにと、ウェンディを見る。

 彼女はドレスの上からでもわかるほど、肉付きのいい体をしている。

 引き締まるところは引き締まっていて、出るところは出ているその体は、女のアビゲイルから見ても魅力的だ。

 ここ最近食事もしっかりして、肉がついてきたとはいえアビゲイルがその体型になるのはほぼ不可能だろう。

 選ばれしものの証であるその肉体は、思わず拝んでしまいそうになるほど美しい。


「本当にその通りだと思うわ。こんなに美しい女性がいるのに、私なんて相手にするわけがないわ。……自分に噛み付いてくる女が珍しいだけよ」


「…………あなた、寵愛に興味がないの?」


「ないわ。……私はここで静かに暮らしていられればいいの」


 寵愛なんて得てしまえば最後、面倒ごとに巻き込まれるに決まっている。

 ならアビゲイルは静かに部屋に篭り、長い余生を過ごしたいのだ。

 アビゲイルの答えを聞いたウェンディは、またしても考えるように爪を噛んだあとニヤリと笑う。


「――そう。まあそういうことなら、一旦信じてさしあげますわ」


「…………どうも」


 気分でもよくなったのか、ウェンディは鼻歌でも歌いそうな様子でクッキーを口に含む。


「あなたたちナッツはお好きかしら? 美味しいクッキーがあるのだけれど」


「いただきたいです!」


「……いただくわ」


 まあこれで下手に敵意剥き出しにされることもないだろうと安心したその時だ。


「――ウェンディ様! 国王陛下がお越しでございます」


「陛下が!? すぐにお通しして!」


 ウェンディはぱあっと顔を明るくすると、急ぎ侍女に身支度を済ませるよう伝える。

 命じられるがまま、彼女の髪を整えたりする侍女を眺めていると、視界の端に同じように身支度をするミンメイも映った。

 その姿を見て、なるほど、いくらウェンディに擦り寄っているとはいえ彼女も妃。

 あわよくばイスカリからの寵愛を得たいとは思っているようだ。


「――陛下! ようこそお越しくださいました」


 妃たちが忙しく身支度をしていると、すぐに部屋にイスカリがやってきた。

 彼は出迎えたウェンディをチラ見すると、すぐにテーブルのほうへとやってくる。


「――妃たちが集まる……か。なるほど、面白そうな催しだな」


 ニヤリと笑うイスカリに、アビゲイルは思わずため息をついてしまった。

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