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妃たちのパーティー

 パーティーは一旦、無事に終わりを迎えたといってもいいだろう。

 この首が繋がっているのだから、無事という言葉を使ってもいいはずだ。

 顔合わせもしたのだからもう用はないだろうと部屋にこもる気満々だったアビゲイルは、予期しないお誘いになんとも言えない顔をした。


「行かねばなりません。ウェンディ様からのお誘いですから」


 そう力説してくるランカに、アビゲイルはむすっと唇をへの字に曲げる。

 第一妃ウェンディから届けられた、妃だけのお茶会へ招待状。

 もちろん無視しようとしたアビゲイルの前に、それが突きつけられた。


「顔あわせをしたから終わりではありません。次は交流をしなくては……! パーティーの時まともに会話もなさらなかったではないですか!」


「する必要ないもの」


「アビゲイル様!」


 ランカは人差し指をまっすぐ伸ばすと、アビゲイルに鋭い視線を向ける。


「陛下からの寵愛に慢心してはいけません! ここは寵愛を受けているからと安心していい場所ではありません!」


「寵愛なんて受けてないわ」


「ほかの妃様がたと仲良くすることは、必須事項だとお思いください!」


 ランカはそういうとテキパキと手を動かして、アビゲイルの身支度を済ませていく。

 実際あのパーティー以降、アビゲイル付きの侍女になりたいという人が増えたらしい。

 イスカリが無礼な態度をとられても許した、新たな寵愛を得る妃だと噂されているようだ。

 実際は殺されるくらいなら殺すという、お互いが脅し合っている状態なのに……。


「さあ! 次はドレスです。お立ちください」


「……大変そうなら他の侍女を入れることもできるけれど?」


「いいえ。アビゲイル様さえよろしければ、最低限のほうがよろしいかと思います。あとからくるものたちに他の妃様がたの手がついている可能性がありますので」


 ランカは先の先まで見通しているようだ。

 侍女の追加をどうするか聞いた時から、彼女の答えは変わっていない。

 アビゲイルが懐妊した時、一番危険なのは他の妃たちだ。

 懐妊なんてこと天地がひっくり返ったってありえないのだが、ランカは期待をしているのだろう。

 まあ一番忙しいであろう彼女が不要だというのなら、下手に人を入れて騒がしくする必要はないと納得した。


「――完璧です! さあ、お時間ですから向かいましょう」


「…………わかったわ」


 身支度まで済んでしまったならば仕方ない。

 アビゲイルは住む建物を出て、橋を渡る。

 妃たちの建物もまた橋でつながっており、アビゲイルが住む建物の隣は空室だ。

 そしてその向こう側に第一妃、ウェンディが住む建物がある。

 橋の両側には常に警備が立っており、簡単に行き来することはできない。

 だがアビゲイルは一応妃という立場なので、特に申請もなく向かうことができる。

 ウェンディが住む建物へと入れば、すぐに彼女付きの侍女が案内してくれた。


「こちらでございます」


 ウェンディの住む建物に入ってすぐに、格の違いというものを思い知らされた。

 チャリオルト王国宰相の娘、ウェンディはこの王宮でその立場を盤石なものとしている。

 父からの膨大な金銭面の支援に、イスカリからの寵愛。

 その二つを持つ彼女に、叶うものなどここにはいない。

 そんなウェンディに仕えたいと思う侍女も多いらしく、アビゲイル付きの侍女の三倍はいるだろう。

 室内もどこをとっても豪華絢爛。

 金銀煌びやかな装飾が、ウェンディの地位を知らしめている。


「失礼致します。アビゲイル第四妃様、おつきでございます」


「お入りなさいな」


 中から声がかけられ扉が開かれる。

 そしてアビゲイルの目に入ってきた光景に、思わず瞼を限界まで上げてしまう。


「――」


「いらっしゃい。どうぞこちらへ」


 部屋の中のはずだ。

 建物の構造はそこまで違わないはずなので、ここはただ少しだけ広い部屋の中なはずなのに……。

 足元にあるのは芝だ。

 ふわふわの芝を踏みしめながら向かえば、右には白い薔薇、左には黄色い薔薇が美しく咲き誇っている。

 他にも種類も色も違う薔薇がたくさん咲き誇っており、部屋の中央には木製のテーブルと真っ白な椅子が置かれており、そこにウェンディ、ミンメイ、メリアが座っていた。


「ご招待ありがとうございます。……すごい部屋ですね」


「そうかしら? お父様にお願いして作っていただいたの。季節が変われば顔ぶれも変わりますから、その時はまたご招待しますわ」


 返事はしなかった。

 可能なら招待は遠慮したかったからだ。

 アビゲイルは空いている席に腰を下ろし、改めてその場にいる人たちを見る。

 相変わらずウェンディは美しく、そして豪華だった。

 装飾一つも相当値が張るのがわかる。

 そしてそんなウェンディの隣にいるのがミンメイだ。

 ウェンディほどではないものの、彼女もまた美しい装いをしている。

 だがアビゲイルの目を引いたのは、その二人ではなかった。

 明らかにこの間会った時よりも見た目が変わっている人がいるのだ。


「…………」


 アビゲイルを見つめるメリアは髪の色も元に戻り、なにより頰のこけなどもなくなってきている。

 明らかに健康的になってきているメリアは、アビゲイルを見るとにこりと微笑んだ。

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