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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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「お兄様を堕とすって……どうやって?」


「王太子には婚約者がいる。だが今あいつは男爵令嬢に熱を上げていて、彼女と結婚したいと騒いでいるらしい」


 どうせすぐ飽きるのに、とはグレイアムの言葉だ。

 確かにヒューバートは昔から熱しやすく冷めやすいタイプで、お気に入りのおもちゃもコロコロ変わっていた。

 それを毎回アビゲイルに見せびらかしにきていたのでよく覚えている。


「けれど相手は侯爵令嬢。王太子とはいえそうそう無碍にはできないだろう」


「……相手側も必死になるわよね? 一度は王太子の婚約者になれたわけだから」


「そう。だからそこを助けてやればいいんだ」


 全貌が読めないと小首を傾げるアビゲイルに、グレイアムはわかりやすく説明してくれる。


「侯爵令嬢、かなり気が強いらしい。以前王太子の浮気相手と往来で取っ組み合いの喧嘩をしたんだ」


「と……!?」


 御令嬢がそれはどうなのだろう……?

 確かに婚約者に浮気相手がいたら怒ってもいいが、未来の王妃ともあろう人が、そんなことするなんて。


「もちろんそんな女性だから、王太子にもあれこれ口を出してくるようで、あいつも困ってた」


「……そこを助けるの?」


「要は侯爵家が落ちこぼれればいい。家の後ろ盾さえなくなれば、愛のない侯爵令嬢なんて転がり落ちるだけだ」


 侯爵令嬢のほうはわかった。

 だがそれだけであのヒューバートがアビゲイルの手を借りたいなんて思うだろうか?

 それにどうやって侯爵家を落ちぶれさせるのか。

 せっかくアビゲイルのためにグレイアムが考えてくれたのに、なに一ついい方法が思い浮かばない己の頭の悪さを恨む。


「王太子の弱みはそれだけじゃない。一つ助けたらまた一つ。そうやってゆったりと堕としていけばいい。本人も気づかないほどの奈落へな」


 どうやらヒューバートはいろいろやらかしているらしい。

 確かにそれなら手を出しやすいかと納得する。

 それに彼をターゲットとするなら、今は絶好のタイミングだろう。

 王として即位する前に、下手なスキャンダルは避けたいはずだ。


「侯爵家のほうはもう裏がとれてる。武器密売に禁止薬物販売に脱税。関係悪化を懸念してる隣国に武器を売ってるんだ。どれをとっても没落させられる」


「…………仕事、早すぎない?」


「うちの使用人はただの使用人じゃないからな」


「……どういうこと? 彼らが調べたの?」


「気にしなくていい。アビゲイルに害はない」


 そういう意味ではないのだが、なにやらこの屋敷にも裏がありそうだ。

 そういえばララとリリが言っていたな。

 グレイアムが当主となってから、使用人たちを一掃したと。


「あとはアビゲイルが動くだけだ。……できるか?」


 やるべきことは決まっていて、その裏どりまできちんとされている。

 あとはアビゲイルが国王の葬儀に参列し、ヒューバートと接触。

 言葉巧みに誘い出し、彼の望むままの未来を作ってあげればいい。


「…………」


 言葉にするのは簡単だ。

 だが果たして本当にアビゲイルにできるだろうか?

 人前に出るのも怖くて、視線にいつも怯えていたのに。

 そっと目を閉じ想像する。

 たくさんの人。

 そこには母や兄、妹がいて、こちらを見て顔を歪ませる。

 参列者もまたアビゲイルを見て指をさし、口々に言うのだ。

 禁忌の子、と。

 国王が死んだのはお前のせいだと言われるかもしれない。

 不吉な子だと石を投げられるかも。

 そんな嫌な言葉から逃げたくて、耳を塞ごうとしたアビゲイルは、そうすることなく目を開けた。


「――やるわ」


 いつも通り逃げることは簡単だ。

 耳を塞ぎ目を閉じればそれでいい。

 誰になにを言われても黙っていればいいのだ。

 いつか――過ぎ去るから。


「やってみせるわ」


 けれどそれではあの部屋から出てきた意味がない。

 これは変われるチャンスなのだ。

 弱い自分とさようならをして、生まれ変わる絶好の機会。

 それを与えてくれたグレイアムの期待も、失いたくない。


「あいつらを一人残らず堕としてやるの」


 それに囁くのだ。

 心の深いところ。

 普段は決して出てこない封じられた場所から、声がするのだ。


「私――もう逃げないわ」


 堕とし、絡めて、喰らえと。

 誰かが囁く。

 その言葉を聞いていると、不思議とやってやろうと思えてくるのだ。

 不安も恐怖も押しのけて、アビゲイルの瞳は鈍く輝く。


「だからグレイアム。力を貸して」


 目元に力がこもっているのがわかる。

 なんだろうか?

 前にもこんな感覚を感じたことがある。


「お願い――!」


 そうだ。

 グレイアムから復讐を誘われた時、彼らを幸せの蜜に堕とし絡めとってやろうと決めた時の、あの感覚に似ている。

 とにかく心が高揚して、同時に瞳に力が入るんだ。

 自分の意思とは関係なく、まるで体中の力を吸い上げられているかのよう。

 グレイアムの黒曜石のような瞳に、光り輝く宝石が映り込む。


「……もちろんだ、アビゲイル。俺は君のためにここにいる」


「ありがとうグレイアム! きっと楽しい時間になるわ」


 うっとりと両頬を抑える。

 にやける口元を隠せそうにない。


「まずはお兄様を堕としましょう。幸せの底へ……」


 またしてもアビゲイルの耳元で囁く声がする。


 ――自分を、解き放て……と。

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