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不安を払拭したい

 同盟式は滞りなくすみ、アビゲイルたちは一旦学院へと戻った。

 その間にもいろいろなことを話した。

 チャリオルトとの同盟の件をメインに、特に時間を割いたのはピストルの件だ。

 オルフェウスはピストルの件を知っており、エレンディーレとの同盟に伴い、シリルにストップをかけている状態らしい。

 改造自体はかなり進んでいて、もう間もなく小型連写型のピストルができる予定だったようだ。


『いざとなれば、こちらを大量生産し戦争に臨よりほかにないでしょうね』


 オルフェウスは戦争が始まった時のことも想定し、動いているようだ。

 これに関してはヒューバートもだった。


『我が国でも軍事力強化を進めている最中だが……。果たしてそれでチャリオルトに勝てるだろうか?』


『正直な話、ピストル一つで戦場が大きく変わるとは思っていません。あれは一対一の際はかなり有効ですが、複数を相手にするのはいかに連射できるとて不向きですから』


『ということは……目下の目的は今までどおりチャリオルトと同盟を結ぶこと、か』


『そうです。戦争を回避する。……そこに、代わりはありません』


 目的はわからないが、その先も見通していなくてはならない。

 同盟がなされなかった場合、即座に戦争となる可能性もあるのだ。


『そもそもチャリオルトの王は話し合いに応じるのか?』


『そこは大丈夫かと。"面白いこと"が好きな人なので、むしろ喜んでこられるかと』


 エレンディーレもフェンツェルも、この同盟話に並々ならぬ覚悟を持ってくるというのに。

 その相手のチャリオルト王は"面白い話"だと思うようだ。

 強者ゆえのことだろうが……気に食わなかった。


『不愉快だな。こちらばかりが必死か』


『ですがその慢心ゆえに、足元を掬われることもあるでしょう。話し合いすらできないのでは、こちらに打つ手はありませんから』


『……そうだな』


 チャリオルト王との話し合いの件は、オルフェウスに一任することとなった。

 早急に動くとのことなので、すぐにでも動きがあるだろう。

 本当はそのまま王宮に留まろうかとも思ったが、学院での勉強もある。

 せっかく入ったのだからきちんと勉強したいと、戻ることにしたのだ。

 そんなわけで戻ってすぐ、遅れをとっている部分をまとめ知識として頭に叩き込んでいた。


「――そういえばアリシアは……?」


「学院には戻ってないようだな。王宮にもいなかったようだが……?」


 学院に戻ってくる前からアリシアを見ていない。

 思えばあのボートの時以来だ。

 王宮にいる間は連日、オルフェウス、ヒューバートとの話し合いをしていたからそこまで気が回らなかった。


「大丈夫なのかしら? お兄様からも勉学に勤しめと言われていたのに……」


「さあな。……だがアリシアが勉強を放置したから、こちらはギーヴと仲を深めることができた。転生者ゆえのバグだろうが、努力を怠るとこうなるんだな」


「バグ?」


「ゲームのシステムにおいての欠点だな。起きるはずがない不具合だ」


 また知らない言葉が出てきたなと、アビゲイルは頭にその言葉を入れる。

 また一つ学んだなと思っていると、そんな二人の元にアリシアの攻略対象の一人、ジョージがやってきた。


「アビゲイル殿下、ブラックローズ公爵。王宮でのお話は聞いております。オルフェウス国王陛下も有意義な対談だったとおっしゃっていたと新聞で読みました」


「お久しぶり、ジョージ。ありがとう」


 ジョージは二人に頭を下げた後、なにやら物思いにふけた。


「………………戦争の件、伝わってきております。我が国でも国民たちは恐怖を感じているようです」


 ぎゅっと強く握られた拳がアビゲイルの瞳に映る。


「私も……なにかできればいいのですが」


 一貴族、一学生ができることなんて限られている。

 アビゲイルはジョージのその姿を見て、そのことを思い知らされた。

 どれほど志が高かろうとも、ただの人間ではできることがほとんどない。

 王族に生まれたことを誇らしく思ったことはないけれど、この点だけは良かったと思える。

 当事者として、できることがあるというのは。


「――大丈夫よ。オルフェウス陛下もエレンディーレ国王陛下も、戦争を回避するために尽力なさっているわ」


「……アビゲイル殿下」


「微力ながら私も話をさせてもらっているわ。……不安だと思うけれど、自国の……そしてこの国の国王陛下を信じなさい」


 ジョージは不安に揺れる瞳を徐々に落ち着かせると、力強く握っていた手から力を抜く。

 ふぅ、と息を吐くといつもの笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。――アビゲイル殿下がそうおっしゃってくださると……とても安心いたします」


 ジョージはそれだけいうと頭を下げ、この場を後にした。

 本当に不安だったのだろう。

 それが少しでも溶けたのならよかったと、本を読もうとして気がつく。

 目の前にいるグレイアムが、なにやら複雑そうな顔をしていることに。


「どうしたの?」


「…………アビゲイルと俺の間に、明確に婚約者という関係性があってよかったと思っている」


「なにそれ?」


「嫉妬もそこまで深くしないで済むからな」

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