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頭痛

 ボートがゆっくりと動き出し、パーティー会場の方へと向かう。

 その間も、二人は話を続けた。


「アビゲイル王女の話を聞いて、わたしの考えをまとめました。一意見として聞いていただければと思います」


「もちろんです。オルフェウス陛下の意見を聞いてみたかったので、とてもありがたいです」


 オルフェウスはアビゲイルよりもいろいろなことを知っている。

 特にフェンツェルの歴史については、ギーヴより詳しいところがあるかもしれない。

 そんな彼の意見が聞けるというのは、ありがたいものだ。


「まず先ほども言いましたが、終焉の神があなたの敵だとは思えない。彼のことは信用していいかと思います」


「ええ」


「そしてそんな彼が言っている思い出せという言葉。これはアビゲイル王女に深く関係していると思います」


 こくりと頷く。

 彼の言っていることはアビゲイルも思っていたことだ。

 聡明なオルフェウスから同じ意見をもらえると、自分の考えが間違っていなかったのだと思える。


「その内容ですが……。先ほどのアビゲイル王女の言葉を聞いて、本当にただの仮説ですが一つ思い浮かんだことがあります」


「――なんですか?」


 アビゲイルたちでは想像すらできなかったのに。

 オルフェウスはこれだけの情報で一つの仮説を立てることができたらしい。

 やはりすごい人だなと、アビゲイルは思わず前のめりになってしまう。


「本当にただの仮説ですので、期待はしすぎないでくださいね」


「……はい。そうですね、すいません」


「いえ。それで仮説の話ですが……」


 アビゲイルの圧に少しだけ苦笑いを浮かべたオルフェウスは、それでも話を続けてくれた。


「アビゲイル王女は昔、終焉の神と出会ったことがあるのでは?」


「むかし……?」


「そうです。幼いころから……それとも生まれる前か」


「…………生まれる、前?」


 そんな摩訶不思議な話があるものか、と疑ったがそもそも今の状態がもう摩訶不思議たったことに気づく。

 神との接触もそうだが、グレイアムのいうゲームの話もそうだ。

 アリシアが女神の生まれ変わりとして死の神を封印する。

 そんな話、もはや夢物語だ。

 なんて思った時だ。


「――っ!」


「アビゲイル王女!?」


 耳がキーンっと音を立てる。

 頭の一番深いところがまるで締め付けられるように痛くて、アビゲイルは思わず両手で頭を抱えた。


「どうしたんですか!?」


「――っ、あ、あたまが……っ!」


 頭が割れるように痛い。

 急にどうしたんだと思考を巡らそうとするが、それを痛みが邪魔してくる。

 一体なんなんだ、と目元に涙が浮かんだ時だ。

 なんだか、優しい声がした……。


『――愛してるわ。あなたをずっと……。だからどうか……』


「――アビゲイル!」


「――!」


 聞きなれた声に、アビゲイルの意識は一気に浮上した。

 頭の痛みも瞬時に消え去り、冷や汗だけが背中をたどる。

 アビゲイルが顔を上げれば、そこにはグレイアムがいた。


「……グレイアム?」


「大丈夫か? 顔が真っ青だ」


「誰か! 医者を連れてこい!」


「はい!」


 いつのまにかボートは岸に戻っていたらしい。

 アビゲイルの肩を支えるグレイアムと、近くの従者に医者を呼んでくるよう叫ぶヒューバートがいる。


「アビゲイル王女。……大丈夫ですか?」


「申し訳ございません、オルフェウス陛下。急に頭痛が……」


 あの頭の痛みはなんだったのだろうか?

 冷や汗が出るほどの痛みに、アビゲイルは眉を寄せた。


 ――それに、あの声。


 優しい女性の声。

 あの声も、また懐かしさを感じた。


「ひとまず上がりましょう。医師に見てもらったほうがいい」


「…………はい」


 グレイアムに支えられてボートを降りると、すぐに医師がやってきた。

 一言二言話をして、日陰にある椅子へと案内される。

 腰を下ろせばすぐに脈を診られた。


「…………」


 その間も考えてしまう。

 聞き覚えのある女性の声。

 まるで終焉の神と同じだ。

 彼に感じた懐かしさを、同じように感じた。

 それはつまり、あれもアビゲイルの過去に関係しているのか……?


「……生まれる、前」


「――なにか?」


「あ、いえ。それで……?」


「ご安心ください。特におかしなところはございません。日を浴びて、少しお体に熱がこもってしまったのかもしれませんね。冷たいお飲み物をお持ちいたします」


「ありがとうございます」


 医者はそれだけいうと頭を下げ、その場を後にした。

 すぐに医師の指示のもと、使用人が冷たい飲み物を持ってきたので、ありがたく受け取る。


「アビゲイル、大丈夫か?」


「グレイアム……。ごめんなさい、私急に……」


「疲れているんだろう。少し休んでおくといい」


「ありがとうございます。お兄様」


 グレイアムとヒューバートから声をかけられ、アビゲイルは頷くと大人しく飲み物を飲む。

 冷たいレモネードで喉を潤していると、心配そうな顔をしたオルフェウスもやってくる。


「大丈夫ですか? ご気分は?」


「もう平気です。ご迷惑をおかけしました」


「迷惑なんてそんなこと……。どうぞご自愛なさってください。またゆっくりお話ししましょう」


「ありがとうございます」


 ひとまず今日はこのまま休ませてもらおう。

 まだまだ話をしなくてはならないことが多いのだから。

 ふう、と息をつくアビゲイルは気づかなかった。






「どうして、アビゲイルばかり――っ!」


 自分を睨みつける、嫉妬の視線に。

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