真実の愛のためならば
悪役令嬢と、その婚約者と、男爵令嬢と、それから王太子。あるいは真実の愛の話。
公爵令嬢エミリア・スカーレットは乙女ゲームの世界に生まれた。
この中世ヨーロッパに似た世界の記憶しか持たないものたちにとっては、何の話だと思われるだろう。けれど、事実である。
エミリアは文明の進んだ現代日本の記憶を持っていた。これは生まれたときからずっとだ。けれどここが乙女ゲームの世界であることに気づいたのは、十五歳になって正しく乙女ゲームの舞台となる王立学園を前にしたときだった。
そして学園には案の定、ピンク色の髪を靡かせた可愛らしい男爵令嬢が通っていた。役満だ、と思ったのは当然のことだろう。
当たり前のように、エミリアは警戒した。もっともエミリアは乙女ゲームの悪役令嬢のように誰かを苛めるような真似などしないし、婚約者である侯爵令息エドワード・アシュクロフトとの仲も良好だ。何も問題はない、はずだった。
けれど学園に入学するなり、問題は表面化した。男爵令嬢オーレリア・カーティスとエドワードはあっという間に親しくなったのだ。
王国の王太子は慎重に選定しているのかそろそろ二十歳近くにしていまだに婚約者が決まっていないが、すでに学園を卒業していて男爵令嬢に関わるタイミングがないのが幸いだろう。他のよくある乙女ゲームのように、王太子まで誑かされては堪らない。
エミリアに動く気はなかった。それこそ乙女ゲームのように、男爵令嬢を苛めたからなどと難癖をつけて断罪をされては堪ったものではないからだ。
ただ高位貴族令嬢の責務として、マナーが苦手である様子の男爵令嬢に注意を促しただけだ。婚約者のいる男性と親しくするべきではない、当たり前のことだった。
けれど、オーレリアがエドワードから離れる気配はなかった。それどころかわざとらしく苛めの被害を訴えて、エドワードや他の生徒たちから守って貰っている始末だ。
エミリアはエドワードを愛している。エドワードだって、学園に入学するまでは確かにエミリアを愛してくれていた。だというのに、あっという間にオーレリアに夢中になり、侍るようになったのだ。
エミリアは公爵令嬢で、オーレリアは男爵令嬢である。公爵令嬢の婚約者を奪い取ろうとするなどと、身分の低い女性というのはどれほど面の皮が厚ければ気が済むのだろう。
断罪などされるわけにはいかない。ただ、遠回しに注意を促し続けるだけだ。周囲の友人たちに思わず現状の嘆きを漏らしてしまうくらいは大目に見て欲しい。
そうしている間にも、オーレリアとエドワードはともに時間を過ごしている。
このままでは、エミリアはそれこそ乙女ゲームよろしく悪役令嬢として断罪されてしまうかも知れない。エミリアが少しずつ危機感を募らせていた、そんなときだった。
エミリアは、王家から呼び出された。
***
「スカーレット公爵家エミリア、ご挨拶させて頂きます」
言ってから、エミリアは非の打ちどころのない、美しいカーテシーを披露した。
眼の前には王太子とその両親である国王夫妻にエドワードとその両親であるアシュクロフト侯爵夫妻、そしてエミリア自身の両親であるスカーレット公爵夫妻が並んでいる。
エミリアには、呼び出される心当たりはなかった。ただ現在のエドワードの様子と王太子に婚約者が決まっていないことから、もしかして自分が王太子の婚約者にスライドするのかも知れない、とは考えた。
エドワードのことを愛している。けれど公爵令嬢として生まれたからには、婚姻は仕事の一つだ。王太子妃の打診を受けたときには潔く受諾しよう、とエミリアは心づもりを調える。
国王夫妻と王太子に許可を取ってから口を開いたのは、エドワードだった。
「私たちの婚約を破棄しよう、スカーレット公爵令嬢」
やはり、とエミリアはひっそりと息を飲んだ。けれど毅然として、エドワードに問うた。
「理由をお聞かせ願えますでしょうか、エドワード様」
「名前を呼ばないでくれるかな。婚約を破棄する以上は、私たちはもう他人だよ。スカーレット公爵令嬢」
吐き捨てるのを我慢しているような調子で、エドワードは言った。ついで、エミリアからの問いに答える。
「それから、婚約破棄の理由だね。それはあなたが、オーレリア様への悪意を扇動し、周囲の取り巻きたちに苛めさせるどころか暗殺まで企てさせたからだ」
エミリアは唖然とした。一から百まで、全く覚えのないことだった。
「そんなことはしておりませんわ」
「していたんだよ。あなたは昔からそうだった。自覚がないのが気持ち悪い」
王太子は沈黙して、エミリアとエドワードのやり取りを見守っていた。ちょっと嘆息してから、口を挟む。
「あなたはオーレリア嬢に関して、随分と悪意のある流言を流していたそうだね。男を侍らせているだとか、夜な夜な寝所に引き込んでいるだとか、聞くに堪えない噂が王家にまで聞こえてきたよ」
「それは、……」
咄嗟に反駁しようとして、エミリアは言いよどんだ。王太子に万が一にでも偽りは答えられない。
あまり覚えはない。覚えはないが、友人たちと会話をするときに少しばかり口が過ぎてしまった可能性は、ある。
「確かに、友人たちとの噂話で尾びれ背びれがついてしまった可能性は否定できませんわ。けれど、それが何だというのですか。所詮は男爵令嬢の噂ですし、カーティス男爵令嬢がエドワード様と不適切な距離感にあったことは事実ですもの」
「アシュクロフト侯爵令息だ、スカーレット公爵令嬢」
温度のない声で口を挟まれて、エミリアは口を噤んだ。やはり温度のない視線で、エドワードがエミリアを見やる。
そして、言った。
「護衛だよ」
「……何の話でしょうか」
「わたしは王太子殿下に頼まれたオーレリア様の護衛であり世話係だった、と言ったんだ。学園でぞろぞろと護衛を引き連れるわけにはいかないし、わたしは王立学園に在籍している学生の中では最も腕が立つからね。もちろん私以外にも数人護衛として立ち回っていた生徒はいるし、わたしはただの一度もオーレリア様と二人きりで過ごしたことなどない。あなたは何を見ていたのかな、スカーレット公爵令嬢」
ぞわっ、とエミリアの肌が粟立った。何か、致命的な思い違いをしている気がした。
ここでまた、王太子が口を挟んだ。諦めたような、呆れたような声だった。
「オーレリア嬢はね、帝国の元第二皇女で皇妹殿下のお孫様だよ。公爵家に嫁がれて現在の公爵夫人が皇妹殿下、その長男夫婦が男爵夫妻、オーレリア嬢はその娘だ。いずれオーレリア嬢は現在の皇帝に養子入りして皇女として私に嫁いでくる予定だった。王太子妃としてね」
王太子は嘆息した。
「王国に嫁がれる前準備として王立学園に留学して頂いたが、男爵令嬢としてご入学されたのはオーレリア嬢の希望だ。高い位置からしか見えないものがあるのと同じように、低い位置からしか見えないものもあるから、と仰られてね。結果は散々だったようだけれど」
「オーレリア様は既に帝国にお戻りになられたよ。当然、我が国との縁組みの話はなかったことになった。当たり前だけど、王国の有責でね。帝国の皇族に対する名誉毀損に傷害、殺害未遂に対する慰謝料もかかる。これがあなたの望んだことかな」
「あなたは友人たちと、オーレリア嬢のピンク色の髪を随分と蔑んでいたようだね。あの髪色は将来は公爵夫人になる現在の男爵夫人である母君から受け継いだものだそうだよ。オーレリア嬢からは、髪色一つで差別意識が随分とお盛んなようで、この調子では砂漠国からでも留学生がきたときには猿か何かと呼ばれかねないとまで言われたよ。ここまで国の恥を晒して何がしたかったんだ、スカーレット公爵令嬢」
王太子がそう結んだ。真っ白になりかけた頭で、エミリアは逃げ道を探した。
「それは、それは、……カーティス男爵令嬢が皇族に連なるお方だと存じ上げませんでしたので」
「つまりそれは、彼女が全く同じ行動をしていても、何一つ事情を考慮せずに調べもしないまま身分だけで態度を変えるという理解で合っているかな? もちろんある程度は身分を考慮するべきだけれど、それにしたって随分な選民主義だね。この場を設けるにあたって、もちろんエドワード以外でオーレリア嬢の護衛についていた者たちにも事情を確認している。学園の教員や、職員たちにもね。生徒たちは学園の用務員や清掃員の前でこそ最も本性を見せるものだから、あの手の職員たちには実のところそれなりに王家の息がかかっているんだよ。彼らの証言からは、オーレリア嬢に風紀やその他の点で問題ある行動は見られなかったと報告が上がっている。スカーレット公爵令嬢の友人たちが熱心に悪意のある流言を触れ回った挙げ句に、オーレリア嬢に直接的な嫌がらせまでしていたこともね」
「わたくしは嫌がらせなどしたことも指示をしたこともありません」
「公爵家のご令嬢に対して、周りが忖度するとは考えなかったのかな。学園なんて狭くて風通しの悪い小さな社会で、公爵令嬢の言ったことであれば白でも黒になってしまうとは考えなかったかい」
「わ、わたくしにも事情をお伝え頂ければこんなことは致しませんでしたわ!」
王太子に言いつのられて、ついにエミリアは声を荒らげた。そんなエミリアを見て、王太子も、エドワードも、周りの大人たちも、ちょっとだけ眉を下げた。
出来の悪い子どもを前にしたような反応だった。
「王族の婚約は慎重に決められるものだよ。まだ完全には決まっていないことを、あることないこと言いふらされても困る。あなたは王家から、機密を教えられるほど信頼を得ていた自信があるということ? 正しくオーレリア嬢に関して、あることないこと言いふらしていた君が?」
「……」
ついに、エミリアは沈黙した。話は終わったと見たのか、今まで見守っていた国王が一堂を見回して一つ頷いた。
「嫌がらせや直接的な危害を加えられたことに関しては他の貴族令嬢たちによるものであり、スカーレット公爵令嬢には責任はないにしろ、名誉毀損や悪感情の流布に関わっていたことは事実。無罪放免とはいかないから、処分が決まるまでは謹慎をしているように」
***
終わった、と思った。終わった、全て。
婚約破棄の場が終わって、エドワードは一人、自室で深く嘆息した。
終わった、と思った。達成感はなく、ただ疲れていた。
本当はエミリアを処刑にまで持って行きたかった。オーレリアに傷一つでもつけていたらあり得ただろうが、残念ながらエミリアはそこまでは動かなかった。そのぶん、仲良くしていたお取り巻きたちはまとめて断罪されるだろうけれど。
エミリアは別に死にはしない。けれど貴族令嬢としてはほとんど死んだも同然だから、エドワードに出来ることはここまでだ。
殺そうと思えば殺せる。けれど彼女を可哀想な被害者にするわけにはいかなかった。彼女に同情する善意の第三者を生み出すわけにはいかなかった。
エミリアは、愚かな加害者であるべきだった。楽に死ぬのではなく、惨めに生きるべきだった。少なくともエドワードにとって、エミリアとはそういう女性だった。
終わった、と思った。けれど、大切なものは返ってこない。
エドワードにとって、大切なものはただ一つだった。
男爵令嬢クレア・ストーン。エドワードの幼馴染みにして、今は亡き最愛の女性。
エドワードの父とクレアの父は、身分差は大きいけれど強い友情で結ばれていた。クレアの父は非常に優秀で、エドワードの父の側近として働いていた男だった。
エドワードとクレアは同い年だった。幼い頃は身分差など気にせず、当たり前に一緒に遊んでいた。
クレアは素朴な少女だった。風の匂いを、花の手触りを、川のきらめきを愛した。
それでいて、クレアは聡明な少女だった。幼い頃は女性の方が早熟だと言うけれど、いつも明るい笑顔を浮かべているのにときおり驚くほど静かな顔つきをする少女だった。
エドワードはクレアを愛していた。身分差を気にして決して口に出してはくれなかったけれど、クレアもエドワードを愛してくれていただろう。
エドワードはクレアを愛していた。本当に本当に愛していた。だからエドワードは、本気でクレアを自分の婚約者にするつもりだった。
父親にも相談した。父親が呆れながらも認めたのは、クレアの父親への信頼があったからだろう。
母親にも相談した。ならば教育は早いほうが良いと言って、エドワードの心が決まった二人が十歳の歳からクレアに侯爵夫人になることを見据えた教育を施してくれた。
身分差が問題になることは判っていた。だから父親の妹で伯爵夫人である叔母に相談した。叔母は伯爵にかけあって、クレアの教育がある程度まで進めば伯爵家の養子として迎え入れることを約束してくれた。
クレアにも相談した。彼女は未来の侯爵夫人という重責を理解していた。けれど頷いて、エドワードの母親である侯爵夫人から積極的に学び始めた。
クレアの両親にも相談した。クレアが重い立場になることに二人は難色を示したけれど、エドワードが何度も頭を下げて最終的には根負けするように頷いてくれた。
これでもなお、難癖をつけてくるものはいるだろうとエドワードは判っていた。エドワードの足を引っ張りたいものも、エドワードの婚約者という立場を妬むものも、うんざりするほどいるだろうと理解していた。
だからエドワードは、クレアのためならば身分を捨てることだって考えていた。いざというときにどうなっても良いように、子どもの頃から父親の政務や事業を手伝ったし手に入ったお金の一部は投資に回した。エドワードはただの一つも掛け値なしに、ただクレアだけを愛していたしクレアのためならば何でも出来た。
エドワードの想いも根回しも努力も何もかも踏みにじってぶち壊してクレアを追い詰めて殺したのが、エミリア・スカーレットという女だった。
彼女は高位貴族のお茶会でエドワードを見初めたらしい。ある日、エドワードにあてて釣書が届いた。
当然、エドワードは断った。エドワードの父も無理強いしなかった。スカーレット公爵家もあっさりと引き下がった。
けれどエミリアだけが、納得しなかった。
彼女はあらゆる相手にクレアの悪評を広めた。同年代の子どもたちの中ではエミリアの身分が最も高かったから、彼女が黒といえば白でも黒だ。あっという間にクレアは、侯爵夫人という身分欲しさにエドワードに言い寄る阿婆擦れに仕立て上げられた。
厄介なのは、最悪なのは、エミリアに全く自覚がないことだった。クレアが亡くなって数年経った今でも、エミリアは自分が悪いことをしたなどとは全く考えていないだろう。
エミリアは気に入らない相手のことを、全く自分の悪意に無自覚に、面白おかしく悪評を広めた。エミリアが黒といえば白でも黒だ。彼女のせいで何人もが追い詰められ、貴族社会から脱落した。クレアもその一人だった。
あぁ、けれど、とエドワードは今でも思う。
死ななくたって良かったじゃないか、と。
クレアが自死を選んだのは、クレアがとある子爵令息に無理やり襲われたことが原因だった。子爵令息はエミリアの広めていたクレアの誰とでも寝るという悪評を信じ込んでいて、ならば自分も良いだろうと思い込んだのだった。
クレアが亡くなったのはクレアが十三歳のときだ。事件が起きて、それからはあっという間だった。ものを食べられなくなり、見る見る様子がおかしくなり、ほんの一瞬だけ周囲が目を離した隙に窓から飛び降りた。
きっと苦しかったのだろう。辛かったのだろう。エドワードには想像することしかできないけれど、死ぬことしか考えられなくなるくらいに。
クレアは家族にもエドワードにもエドワードの家族にも愛されていることを自覚できていたのに、正しく愛情を受け取れていたはずなのに、それすらどうでもよくなるくらいに。何も見えなくなるくらいに。嘆き悲しむ周囲を置き去りにするくらいに。
判っている。きっとエドワードのエゴだ。エドワードにはクレアの苦しみは判らない。それでも、それでも。
エドワードは、クレアに生きていて欲しかった。
貴族として生きていくのが難しいのであれば、本当に、身分になんて何の未練もなかった。クレアと二人で商売をしたり、何なら畑を耕したって、エドワードは幸せだっただろう。彼女がいればそれだけで良かった。
クレアは死んだ。エドワードの幸せはクレアの形をしていた。エドワードの幸せはぶち壊されて、踏みにじられて、もう戻ってこない。
だからエドワードは、エミリアと婚約することにしたのだ。
いつかどこかで地獄にたたき落としてやろうと決めていた。地獄にたたき落とすためには、近くで隙をうかがっているのが一番都合が良かった。
エドワードの両親は諦めた顔をしていた。あれは、息子の幸せを諦めた顔だった。何もかも諦めた顔だった。両親にあんな顔をさせたことを、ほんの少しだけ申し訳なく思う。
エミリアの両親は、恐らく何も気づいていなかっただろう。エミリアの悪辣さは風通しの悪い同年代の間でこそ最も効力を発揮したし、案外大人たちは子どもたちの空気感というのに気づいていないものだ。
エドワードは、エミリアを地獄にたたき落としてやるつもりだった。その好機は、案外時間を置かずに訪れた。
帝国の高貴な女性が、留学してくるのだという。しかも男爵令嬢という立場で、おあつらえ向きにピンク色の髪を靡かせて。
誰にも言ったことはないけれど、エドワードには異世界の記憶がある。今世よりも随分と文明の進んだ世界の、日本という国の記憶だ。
エミリアもまた同じく転生者なのだろうというのは、エミリアを観察していればすぐに知れた。習慣にまで根付いた記憶を隠すのはとても難しいことだし、そもそもエミリアはそれほど賢い女性ではなかった。
エドワードがエミリアに仕掛けたのは、たった一つだけだ。たった一つ、けれど馬鹿みたいな大嘘。
つまり、この世界は、乙女ゲームの世界である。
この大嘘をエミリアに信じ込ませるためだけに、エドワードは残りの寿命の何割かを削った。別に構わなかった。クレアを失ったエドワードに、惜しむ命はなかった。
エドワードの大勝負は、笑ってしまうほど上手くいった。まるで乙女ゲームのヒロインみたいな可愛らしい少女をエミリアはただの男爵令嬢だと疑わなかったし、エドワードが護衛の名目でオーレリアに侍れば、エミリアはいつものようにオーレリアに関してあることないこと吹聴して回った。
オーレリアは完全に巻き込まれただけなので、そこは申し訳なかった。そのぶん、命に代えてでもオーレリアは守るつもりだった。
そうしてエミリアの取り巻きがいつものように暴走してオーレリアを害するようになれば、もうエドワードの目的は達成されたも同然だった。クレアを失って以来ずっと虚しく風の音が鳴り響いていた胸の内が、少しだけ満たされた気がした。
そうして、今日。無事にエミリアの名誉と信頼は地に落ちた。エミリアは貴族令嬢としては完全に死んだ。あの無意識な選民意識の塊が貴族の立場を失ってどう生きるのかは、もうエドワードには関係のないことだった。
恐らく、とエドワードは思う。恐らくエミリアは、前世の現代日本でもそれなりに恵まれた家庭で、苦労のない人生を送ったのだろう。彼女の言動には、恵まれた人間に特有の無意識な傲慢さが垣間見えた。
本当はエドワードは、エミリアを殺したかった。本当に本当に殺したかった。実際にエドワードがエミリアを殺そうとしたって、完遂するだけであればそれほど難しくないだろう。
けれどそれでは周囲はエミリアに同情してしまうだろうし、評価が持ち直してしまうかも知れない。他人の評価など裏表が簡単にひっくり返るものだ。
エミリアを処刑まで持ち込めなかったことが、エドワードは惜しくてならなかった。
でも、ここまでだ。本当はもっと追い詰めてやりたかったけれど、これ以上エミリアにエドワードの時間を使うほうが勿体なかった。
これ以上は無意味だ。ここまでだ、とエドワードは頷いた。自分の中で、一区切りがついた気がした。
「待たせてごめんね、クレア」
エドワードは言った。愛するような、愛するような、愛するような声だった。
「君を愛しているよ、クレア。出会ってからずっと、君が亡くなってからもずっと、ずっとずっと愛している。俺の最愛、俺の唯一、……俺の、真実の愛」
エドワードは、笑った。
「来世でまた出会ったら、今度こそ結婚しようね」
エドワードは、笑った。
笑って、笑いながら、右手に握っていた短剣で自分の喉元を勢いよく切り裂いた。
勢いあまったので書き上げました。最後の一文を書くためだけに9000文字近く書いてしまった。
私は二十年以上前にとある小説で性癖をねじ曲げられたので最後の一文で自分の喉を切り裂いたり瓦礫に押し潰されて死んだりすると興奮します。業の深い人生になってしまったぜ。
悪役令嬢アンチテーゼ第三弾です。いま思いついてるのはひとまずこれで終わり。もはや悪役令嬢とはって感じですけれども。悪役令嬢のガワだけ借りて書きたいこと書いてる。そういえばこの小説には実はピンク髪の男爵令嬢が全く出ていないのですよ。名前しか出てない
なろう小説ではオモチャにされがちですが私は真実の愛という言葉が好きですよ。真実の愛のキス上等じゃないかっていう、、私は身分差恋愛も大好きだし少女漫画脳なので、、、少女漫画脳、、??(自作を眺めながら)
もう一つのテーマとして、「乙女ゲーム転生とは何ぞや?」ってのがありました。皆さん軽率に乙女ゲームに転生していらっしゃるけど、それは、、、どういう理屈で、、、??というのがいつも疑問で。今回は「全部嘘でーす!」ってやって貰いました
ほんと、ほんと、、勢いだけで書いたし見直してないのでめっちゃ誤字ありそう誤字あったら申し訳ない、、特に爵位とか名前とかごちゃごちゃになってそう。「ん?」ってなったら各自脳内補完をお願い致します
後で見直しにきます、後で。力つきました。ひとまず上げるだけ上げにきた
【追記20241222】
とりあえず活動報告だけ紐付けにきました。見直しはあとで
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