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第4話 怒りそして選択

第四章 

翌日、最後の練習はメインは試合形式の練習だった。

当然莉緒や恵留は実力を示すことになる。

莉緒や恵留の通う高校は弓道の強豪で世間には認知されている。

そんな実力者揃いの三年にも引けを取らない二人は

二年生や一年生からは様々な感情を向けられる事となる。

「九十九君、凄かった」

惨敗の結果を残した澪は落ち込んだ様子で

恵留の隣に腰を下ろした。

返事をするのが数秒遅れてしまいながらも恵留は

「ありがとう、綾瀬さん」

と、落ち着いた様子で言葉を返した。

「?…私はまだまだだった」

一瞬不思議そうな顔を澪はしていたが

恵留は日常茶飯事の出来事に気にせずに話を続ける。

「初めて間もないのにまともに射ててるのが凄いよ」

「そうかなぁ」

「もう合宿も終わりだね」

「本当に初心者にはきつかった」

残る試合はたった一試合だけだった。

とは言ってもただのエキシビジョンマッチなのだが。

「有栖、遠慮なくこいよ」

「……はぁ」

若者の真剣勝負に若き頃の感情を揺さぶられたのか、

最後の試合には顧問も飛び入り参加をしていた。

弓道部を強豪にしただけあり、

顧問の実力も勝率は五分五分―現役に引けを取らない物だった。

その最終試合が莉緒との試合となっている。

「最近有栖先輩顧問に絡まれてるよね」

「確かに」

恵留は莉緒のあからさまにダルそうな表情に

思わず苦笑いを浮かべてしまう。

「私も頑張らなきゃ」

「僕も負けられない…」

「九十九君、中学の時先輩に負けたんだもんね」

「勝たないと顧問も永遠に煽ってきそうだし」

「ははは」

恵留の嘆き気味の言葉に澪は思わず笑ってしまった。

「あ、終わったみたいだよ」

「ほんとだ」

顧問の様子からして勝敗はあからさまだろう。

「僕、少し行ってくるよ」

「うん、じゃあまた」

澪から離れ、恵留は試合を終えて片付けを始めている莉緒の元へと駆け足で向かった。


「有栖先輩、お疲れ様です」

「ありがと」

やっと終わった、という雰囲気を醸し出している莉緒に

恵留はタオルとドリンクを差し出した。

「これで顧問もおとなしくなるといいんだけど…」

「どうですかね?もっと炎上するんじゃ?」

「それは勘弁…」


そんな会話をしているうちに顧問の号令がかかり、

ゴールデンウィークの二泊三日の合宿は終了を告げるのだった。


――――

「お疲れ様でした」

学校に着くと各々の帰路へと部員は散り散りになっていった。


「じゃあ、九十九君お疲れ様」

「あ、駅まで一緒に行ってもいいですか?」

「ん?あぁいいよ」

恵留は莉緒の横に並んでまだ明るい帰り道を歩く。


「もう連休も終わりだね」

「休みじゃなかったですけどね」

「確かに」

「あ、有栖先輩って……」

「そうだ。九十九君」


突然、莉緒は恵留の声を遮って立ち止まった。

 

「?」

「その有栖先輩って呼び方やめてくれる?」

「へ?」

「ここで三回目のことを君に伝えます」


「私は家族が嫌いだよ」

「あ、あぁ…すいません…」


理由は伝えたことはないものの、

莉緒は恵留に真剣な眼差しを向けた。

"目を離すな"と訴えかけてくる様な圧力を感じる

眼差しだった。


「家族が嫌い=苗字も嫌だから出来れば名前で呼んで

 欲しいんだけど…いける?」

「えっと…じゃあ莉緒先…輩?」

「それで行こう」

莉緒はにこりと笑うといつもの雰囲気に戻って

また恵留の隣を歩き始めた。


「あ、なんか言いかけてた?」

「んん?……なんでしたっけ…」

「また忘れちゃったの?」

「はい……」


恵留は深いため息を漏らしながら項垂れた。

「まあいいよ、思い出したら連絡してよ」

「すいません」


二人は少し無言にながら帰路を歩く。

時折世間話はするものの、

数分前の様な雰囲気の会話はしなかった。


しかし、その次の瞬間だった。

「えっ」「え?」

二人の声が綺麗に重なった。

莉緒の前には見覚えのある一台の車が止まった。

恵留にとっては知らない車だ。

「先輩、知り合いですか?」

「…………」

莉緒は恵留の言葉には反応をしなかった。

「何の用?」

「え?」

その代わりに莉緒は車から降りた人物に

ため息混じりの言葉をかけた。


「莉緒、おかえり」

「知り合いですか?」

「……うちのお母さん」

「え」


姿を見せたのは簡単な変装こそしてるものの、

莉緒の母親だった。


「莉緒、迎え行くって言ったでしょ」

「言われてないし」

「言わなかったっけ?」

「聞いてない」

「まあいいわ。ほら帰るよ」

二人の会話についていけず、

恵留はただポカンとしてるしかなかった。


「そちらは?あっ、もしかして噂の…」

「部活の後輩」

「なーんだ」

噂はなんなのか。

恵留はシンプルな疑問を抱いたが言葉にはしない。

「九十九君、また明日ね」

「あ、はい、また明日…」

「ん?後輩君も送ってあげるわよ?」

「え?いや悪いですよ」

「はぁ…」

莉緒は諦めた様に後部座席に乗り込んだ。

乗る前に「九十九君、乗って」と言って。

「ええ……」

「ほら莉緒もこう言ってるから。乗って?」

「じゃあ…」


恵留は莉緒の反対から後部座席に乗り込んだ。

母親は二人がシートベルトをしたのを確認して

ゆっくりと出発をした。

 

「あ、てか九十九君ウチでご飯食べてく?」

「は?」「え?」

また綺麗に二人の声が重なった。

「やめて。迷惑でしょ」

「そ、そうですよ。有栖先…莉緒先輩にも迷惑ですし」

莉緒は心の中で「そっちじゃない」とツッコミを

入れながらも母親に対して抗議を続けた。

「九十九君にも都合があるんだから。

 それにあの人がいたらどうすんの?」

「お父さんは今日生放送中よ?」

「万が一帰ってきたらどうすんの?」

「あの人が来るわけないでしょ。仕事一番の人で

 莉緒とテレビ局で喧嘩した後から一度も帰ってきてないんだから」

「そうだとしても九十九君にも都合が…」

「九十九君、家にご飯ある感じ?」

「ないです…けど悪いですよ」

そこは嘘でもあると言って欲しいと思う莉緒であった。

「じゃあ決まりね」

「はぁ」


莉緒は恵留に手を合わせ口の動きで「ごめん」と伝え

不貞腐れた様に窓の外を見つめた。


――――

都内にあるマンションについたのは

そこから三十分ほど経ってからだ。

結局、母親は恵留諸とも自宅まで帰ってきてしまった。

「ほらこっちよ」

初めて上がる異性の家に恵留は緊張で

凝り固まってしまっている。

「お邪魔します」

「ほんとごめんね。振り回して」

「いえ僕のほうこそすいません」

リビングに入るとそこには美味しそうな匂いが

充満していた。

「適当に座っていいよ」

莉緒は恵留にそう言い残して自室へ戻っていった。

恐らく着替えにでも行ったのだろうと思い、

恵留は言われた通りに床に腰を下ろした。

「ソファ座っていいのよ」

そんな姿を見た母親は笑いながらそう促した。

「は、はい」


それから数分後、着替えた莉緒もリビングに戻ってきた。

制服姿とは違うのを見たのは二回目。

こんな立て続けに見ることになるとは恵留も思ってもいなかっただろう。

「そんなジロジロ見ないでよ」

「すいません」

「ほらこっちきて」

莉緒は恵留を椅子に座らせ、

母親の運んだ料理を食べ始めた。

ごくごく一般的な家庭の雰囲気だった。


"何故普通の家庭なのに莉緒先輩は

家族をあそこまで嫌うのか?"


恵留の頭に浮かんだ疑問である。

確かに住まいは高級そうな間取りと見た目で

内装もかなり綺麗なものだし、

人によっては遊びに来た際に嫌味に感じられるのかもしれない。

有名配信者と芸能人の住む家と言われるとどこか普通で

食べているものも一般的な家庭料理であって

失礼だな高級そうなものではない。

少し贅沢のできる家族に対して何を不満なのか、

恵留には理解ができなかった。


「普通って思ったでしょ」

「え!?」

「芸能人の家の割にはーとか思ったでしょ」

「いや、そんなことは…」

図星を当てられ思わず目を背けてしまう。


「早く食べないとね」

後に支度を終えた母親も席につき、

それぞれのペースで食事を進めていく。

母親と莉緒の間には会話はほぼない。

あるとしても母親の質問に莉緒が答えるだけの

単調な会話だけだった。


「ご馳走様」

「ご馳走様です」


莉緒と恵留は同じタイミングで食べ終えた。

「お母さん食べちゃったら送るから

 もう少しだけゆっくりしててね」

「あ、ありがとうございます」

相変わらず緊張の抜けない恵留だった。

「部屋行く?」

「いいんですか?」

「変なことしなければね」

「しませんよ…」

莉緒は恵留を自室へと案内した。

莉緒の部屋はモノクロトーンで揃えられたシンプルな莉緒らしい部屋だった。

よくアニメや漫画でいういい匂いとやらもする。

ベッドには動物の形をした枕…クッションも置かれていた。

「ジロジロ見過ぎ」

「あぁすいません…ん、あれは?」

恵留は自然と本棚へ近づいた。

 

唯一変わったところで言えば、

少し異質な雰囲気をしたこの本棚だった。


「凄いノートの数ですね」

「んー、あー……それはね」

本棚の中には教科書や小説、漫画などの

様々なジャンルの書籍が並んでいた。

ただ中段には半分以上を授業で使われる様なノートが

並べられていた。

「これは…?」

「私は小説家になりたくてね」

「…………」

「そんな引かないでよ」

「ひいてないですよ」

莉緒は恵留に一冊、本棚から取り出して差し出した。

「嘘よ、見ればわかる」

「はぁ」

恵留は差し出された一冊を開いた。

「これって…」

「驚いた?」

「いや、あのっ…」

小説家を目指すと言われた後に

見てしまうと言葉を失ってしまう。

恵留も例外なく、言葉を失っていた。

莉緒はノートを恵留の手から取って元の場所にしまった。


「そう。私はねいずれ…」

莉緒がそう言いかけた時だった。


「「帰ったぞ」」


玄関からどこかで聞いたことのある男の声がした。


「あ、誰か帰って…お父さんですか?」

「……」

「先輩?」

莉緒の嫌な予感は的中してしまったらしい。

スリッパが床を擦る音が近づいてくる。

恵留が莉緒の顔を見ると冷や汗が流れ、

あからさまに動揺をしてしまっていた。

「先輩…?」

「九十九君」

「はい」

「………………何も話さないで」

「え?」

恵留が聞き返す間もなく、

莉緒の部屋のドアは開けられてしまった。


「……莉緒」

「…………」


莉緒は現れた実の父親に鋭い視線を向けた。

父親もそれに応戦するような視線を返す。

今にでも包丁を渡せばお互いに切り掛かりそうな

異様な空気感に恵留までも冷や汗が流れてしまう。

「おい」

その鋭い視線が恵留に向けられた。

「えっ…」

「お前は誰だ」

「九十九恵留です、莉緒先輩とは学校が同じで…」

「恵留、だと?」

「は、はい…」

「そうか。お前が恵留か」

その次の瞬間だった。

部屋の中に鋭いバチン、という鈍い音が響く。

恵留は驚いて後ろに倒れ込んでしまった。

「そんなに彼氏とやらが大事か?」

「……人の彼氏殴ろうとするとかどういうつもり?」


父親は恵留を殴ろうとしたのだった。

莉緒は庇って恵留の代わりに力強く、

頬を叩かれてしまった。

 

「何が彼氏だ?こんなガキ」

「か、彼氏?てか先輩大丈夫ですか?」

「うるさい」

その莉緒の言葉に恵留は数分前のことを思い出した。


『何も話さないで』

「っ…」


「莉緒、この前のことは水に流そう」

「は?」

「俺の娘なら是非、というプロデューサーがいてな。

 深夜ドラマのヒロインとして出演させてくれるそうだ」

「何回言わせれば気が済むの?」

「ガキは親の言うことを聞いてればいいんだよ」


父親の身勝手がすぎる物言いに

莉緒の拳には力が込められていた。

部外者である恵留でさえ言いようのないものが

込み上げる感覚に覆われた。


「出ないならお前はもう俺の娘じゃない」

「……それで別にいいけど?」

「あ?」

「子供は親を選べないなんてよく言うよね」


莉緒は怒りの我慢している様な息遣いで

一言一言を紡ぐ様に父親に言葉をぶつけた。

「こんな父親の娘なんてただの恥だから」

「そうか」

父親の心なしが嬉しそうな声が聞こえた直後。

莉緒の体は横に倒れ込むのだった。

「っ……」

「先輩……?」

「だったらさっさと出て行け」

「ちょっ…」

恵留は思わず莉緒に駆け寄った。

「……」

「な、何してるんですか」

「部外者は黙っていろ。……いや?そうか。

 もうそいつも部外者か。連れて出て行け。」

「ちょっと待ってください」

恵留は莉緒を抱き起こし、

壁にもたれ掛けさせた。


「部外者と話すことはない」

「大事な娘じゃないんですか」

「それを拒絶したのはそいつだろう」


そう選択させたのは…。


「深夜ドラマでしたっけ」

「あ?」

「深夜ドラマに出演したら莉緒先輩に謝るんですか?」

「九十九君…?」

恵留は立ち上がると父親に詰め寄った。

「どうなんですか」」

「莉緒が今後も役者として俺の言うことに

 全て従うなら今回のことも謝ってもいいな」

「わかりました」


恵留は深く深く息を吐いた。


「それ、僕が出ます」


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