まだあの恋に焦がれている
[たかが初恋]
頬が赤く染まった。恋の歌が始まった。
彼のあの笑顔はクシャリとしている。
彼のあの声はハツラツとしている。
もう見れない彼の姿。
幼稚園の初恋なんてあってないような物。という人に出会ったことがある。
私は仲良くなかったし、どちらかといえば嫌いなタイプだった。だって私はあの時の初恋に今でも焦がれているのだから。
幼稚園の頃。転勤族の私は年少の頃に引っ越しをした。
青く高い空の日だった。
新しい幼稚園。私は幼稚園がそんな好きではなかった。その後の小学校も中学校も好きではなかったから向いてなかったのだろう。そんな中人見知りの私に話しかけてくれた子がいた。
向日葵のような綺麗な茶色の瞳を持った男の子だった。
その男の子は足が早くて、優しかった。なによりその笑顔が大好きだった。クシャリと笑うその笑顔が大好きだった。無邪気に笑うその顔が。
こちらからの一目惚れ。私の幼稚園は準備ができた人から並ぶ形式でその子の後ろに座りたくて早く準備をしたし、一緒に鬼ごっこをしたくて頑張って走った。
今思えばすごい純粋にその子の事が好きだった。
沢山の幼稚園の行事。工作にお泊まり会そして運動会に発表会。沢山の楽しい思い出には好きな男の子と仲の良かった女の子との思い出が詰まっている。もう決して味わえないあの景色にあの気持ち。
小学校は同じ所に行くことになったが凄く大きなところで、彼がどのクラスなのかもわからなかった。探したけど見つからなかった。軽く絶望した。けど二年生で私達は同じクラスになった。
神の悪戯か、それとも気まぐれか。
私は有頂天だった。そして彼は変わらずクシャリと笑ってくれた。その顔はかわいらしくでもカッコ良さも持ち合わせていた。
私はまだ彼に対しての熱は下がってはいなかった。彼を目で見て追う。そんな生活が楽しかった。
お弁当をどっちの方が早く配れるか、どっちの方が配り物を多くできるか、どっちの方が本をたくさん読んだか。 そんな何気ない勝負を私は毎日楽しみに待っていた。
小学生が使うパカっと開く筆箱に配り物をすると貰えるシールが貯まっていく。丸い小さいシールだったけどその頃の私にとっては宝物に等しかった。だって彼と競った
『印』なのだから。どんどん貯まるシールは彼と競争した数だ。
そんなある日、彼のお弁当に餃子が入っていてすごい強烈な臭いがしたのを覚えている。
だけど私は不登校になった。元々人と同じ場所にいるのが好きではなかった。だけど学校には行っていて時々顔を出していた。
私はそれで満足だった。
私は彼に私が好きだというのを嫌というほど伝えていた。何回告白した事だろう?
数えきれないほどの愛を伝えた。幼稚園の頃から二年生まで。
私はそれでも好かれなかった。だけど諦めるという言葉は私の辞書には乗っていなかった。だって彼は最初の頃は私のことを嫌いと言ったけど最後は普通にまで上がっていたのどから。その言葉を聞いて私とても嬉しくなった。
だけどある日私は転勤することになった。私は嬉しかった。だけど彼にもう会えないと思うと少し悲しかった。だけど涙は流れなかった。
神は遊戯に飽きたのだろう。
私は転校の直前まで彼に告白し続けた。だから最後の告白の返事を受け取れないまま転勤してしまった。
最後にクラスからもらったみんなの手紙が入っている青いファイル。そこには勿論初恋の彼の手紙も入っていた。
何度も消した後があるカード。
力一杯書いた鉛筆の後が残っているカード。
その手紙を見て私は好きになってよかったと思うことができた。
「おうえんしてるよ」拙い字で書かれたそんな何気ない言葉。だけど私の心には大きく刺さった。
その瞬間私の視界は濁り、頬に生暖かい水が自然とつたった。
あれから何年たっただろう。今年の七夕にもまた同じ願いをつる下げた。
『初恋の人と会えますように』とただそれだけ。織姫様に届くと良いな。シッピングモールにある三色ほどの短冊。
きっと叶わないのは知っている。もう会えない事も心の何処かでは分かっている。
だけど私は最後の告白の返事をまだ聞いていない。私の辞書には諦めるという言葉はない。
あの日のように青く晴れた空。雲一つない空はあの人も見ているだろうか?
空は繋がっている。同じ景色ではなくとも、同じ地球にいるのだから諦めなくともいいだろう。少なくとも私が満足するまでは。
私の人生なのだから、全力で走りたい。
その青いファイルは今でも持っている。
世界に二個とない一品だから。
もう二度ともらう事のできない物だから。
先輩と呼んで慕ってくれた人の手紙が入っているから。
仲の良かったあの子の手紙が入っているから。
好きな子との思い出が詰まっているから。
私はまだ初恋に焦がれている。あの甘酸っぱい初恋に。二度と味わえないあの恋に。
もう見てないあの恋に
『たかが初恋、されども初恋』
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