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驚駭

村に入っていくと、さっき村の入り口にいなかった人達が集まって来ていた。


「うそ!?本当にヒイラギじゃない!!こんなに嬉しいことなんてないわ!!」

「すごく嬉しい…また会えるなんて…

これは盛大な宴にしなくちゃ!今から大急ぎで準備よ!!他の人達も呼んできて!!」


いやー、いいですよ。私のために宴なんて。

って言えたらどんなに楽だろうか。

でも、1度演じると決めたんだ。最後まで演じ通す。


気付けば大きな広場に着いていた。

広場の中心には噴水があって、本当にここは村なのかと思った。

村のどこを見渡しても異世界もののアニメや漫画に出てきそうな国の中心街みたいだった。

石畳の道やレンガの家もそうだが、街灯や噴水に施されている彫刻が上品でとても綺麗だった。

ここの村人達が来ている服もそうだ。人が来ていてもおかしくない。獣人といっても人間に耳と尻尾があるくらいで人間とそんなに変わらないのかもしれない。


噴水の前に座るよう言われて敷いてあった絨毯の上に座り、宴が始まるのを静かに待つつもりだった。

だか、もちろん静かになんかさせてもらえない。

宴の準備よりもヒイラギと話したい!という人が結構いて、結局私は誰かとずっとお話しをすることになった。

中には今ここで手合わせを!なんていう人が何人かいたが、また日を改めようと言って上手いこと躱した。

こんなに手合わせを頼まれるヒイラギさんは何者なんだろう。

あとで誰かに聞いてみようか。


私がおしゃべりをしている間に宴の準備は着々と進んでいて気が付けば広場に一帯にたくさんの料理とお酒が並んでいた。


お酒が私のところにも運ばれてきた。

そして村長が私の隣に立つ。

一斉に広場が静かになった。


「昨日までこの村は悲しみに包まれていた。村を救った英雄が数日前になくなったからだ。」


ん?英雄って言ったか?


「そして昨日はその人を弔い我々は前に進まねばならん。いつまでも悲しみに暮れていては英雄を悲しませるだけだ、もう十分悲しんだのだからこれからは明るく過ごそう。その方があの方も嬉しいはずだとわしは言った。

だが!今ここにその英雄がいる!もう2度と会えぬ、口も聞けぬ、笑い合うこともできぬと思っていた人が生き返ってまたこの村に戻ってきてくれた!こんなに嬉しいことはない!!!今日は思う存分食べて飲んでくれ!村の英雄の帰還を祝って乾杯!!!」


村の英雄って言ったな、このおじいちゃん。

それにしてもこんなに声張れるんだな。いきなり大声出すからびっくりしたじゃないか。


「「「かんぱーい!!」」」


また広場が声で溢れた。

みんな元気だなぁ。違う、そうじゃない。

村長さんに聞かないといけないことがあるんだ。


「あの、村長さん!少しお話しいいですか?」

「そんなに畏まらなくても。なんですかな?」

「あの、村の英雄って何ですか?」

「何を言っておる。あなたが一番よくわかっているじゃろうに。」

「いや、えっと…」


どうしよう、すんなり教えてくれると思ってた。

何か言い訳…

あっ!


「じ、実は前に生きていた時の記憶が曖昧でそれまで自分が何をしていたのか、何故この村の英雄と呼ばれているのかわからないんです。」


記憶喪失。

私は記憶をなくしているフリをすることにした。

これならまた手合せとか言われても「記憶がないからできない」で通せると思う。

ただ、やっぱりヒイラギさんではないと疑われないか心配だった。村長さんの返答をビクビクしながら待った。


「なんと…そういうことか。なるほど、じゃから先ほどから丁寧な言葉遣いで、いつもより静かだっんじゃな。色々と混乱したじゃろう。話も聞かずすまんかったな。」


信じてもらえてよかった。

もうちょっと質問責めされるかと思った。


「いえ。私も話すタイミングがなかったので。」

「いやいや、私も他のみんなも舞い上がっておりましたのでな。

何故あなたが村の英雄と呼ばれているかだったかの?」

「はい。」


村長さんが隣に座ってくれた。


「この村はな今でこそ皆明るく過ごしているが、1年ほど前までこんなに明るくは()()()()()()

わしら獣人は獣の、狼の姿に自分を変えることができる。獣人の中でも狼は特に珍しくてのう。見世物にしようとした他の種族に拐われることが多く、拐われれば2度と戻ってくることはなかった。最初は男連中を鍛え、対抗できるようにした。そして村の外へ出るときは必ず1人で出歩くなと村のみんなに伝え、村人が拐われることはなくなった。じゃが、それから少しするとわしらを眠らせてから拐おうとする輩が出始めた。感覚を麻痺させて動けなくする毒針を使うものもおったかのう。獣人がいくら強くても眠らせられたり、動けなくなれば何もできん。そして、村の周りに柵を作り、狩りに行くとき以外は村の外に出るのを禁じた。幸い、村は広く、畑を耕すことができ、自給自足で暮らしていくことができた。

村の外へはなかなか出ることはできなかったが、それでも楽しく、皆で助け合って暮らしていた。」


聞いてみないと分からないもんだな。

この村の明るさからそんな時があったなんて想像もできなかった。

過去を見ながら話す村長の顔が少し曇った。


「じゃが、楽しい時、幸せな時、平穏というのは長くは続かんかった。

ある晩、隣国の兵士達が村に火を放ってな。村人を全員拐い、この村ごと消そうとしたんじゃ。村のあちこちで火の手が上がった。もちろん抵抗したが、人間の圧倒的な数の差を前に、村を守ろうとした者が次々と倒れ、ついに全員捕まってしまったのじゃ。皆が全てを諦めていた。

その時、急に雨が降りだしてのう。炎がどんどん小さくなっていった。

そして雨の中から1人の人間がわしらの前に現れた。それがあなたじゃよ。

ヒイラギは奴らに問うた。何故こんなことをしているのか、獣人達が村を焼くほどのことをしたのか、とな。もちろんわしらは何もしておらん。そして奴らは嘲笑うように金儲けのためだと答えたのじゃ。

次の瞬間そう答えた奴の体と頭が離れておった。速すぎて何が起こったのか最初はわからんかったが、ヒイラギの立っている場所がさっきよりもずっと近く、わしらの目の前になっているのを見てヒイラギがやったのだと分かった。

それからはあっという間でわしもよく覚えておらん。

ただ、最後には何十人といた兵士は1人も立っておらんかった。そして、雨の降りしきる中、血溜まりに1人立つ英雄の姿はこれから先何があっても忘れはせん。」


まじかー

ヒイラギさんめっちゃお強い人じゃないですか。

聞いてないって。

軽はずみに演じようなんて思うもんじゃないな。

演じられるわけがない。1人で大勢の兵士をぶっ倒した英雄なんてなれるかけがない。

だからあんなに手合せをしたいと言う人が多かったのか。

私の異世界ライフ、目覚めて数時間で終了のチャイムが鳴ってる。


「それからヒイラギはわしらの縄をほどき、手当てをしてくれた。わしは何故助けてくれたのかと理由を聞いた。ヒイラギは悪い奴らをやっつけただけだと答えたんじゃ。あなた達は悪い奴には見えなかった、それだけだとな。

それから死体の片付けや壊れた村の修理を手伝い、わしらを拐おうとしてやって来たやつらも倒してくれた。

そのおかげが他の種族がこの村に寄り付かんようになってな。おかげで狩りをする以外にも村の外へ出られるようになったんじゃ。

そして、村が日常を取り戻そうする頃にはヒイラギは村に溶け込んでいた。わしはこの村にいて欲しいと頼んだんじゃ。ヒイラギが強いからではない、村の皆がヒイラギのことを好いておったからじゃ。ヒイラギは最初迷惑が掛かるからと村から出ようとしたが皆の説得もあってかしばらくはこの村に残ると言ってくれたのじゃ。

皆必死でのう。特にカルミアはどうにか残ってもらおうと頑張っておったわ。これがあなたが英雄と呼ばれるようになった経緯じゃ。」


話し終わった村長の顔は綻んでいた。

なるほど。そうだったのか。

強くて、優しい、村の英雄。

すごい人だったんだなぁ。

もっと知りたい、ヒイラギさんのことを。

でも、1つ疑問がある。何故そんなに強いヒイラギさんが亡くなったんだ?大勢の兵士を相手にできる程強いのに。


「そうだったんですね。

話してくれてありがとうございます。

1つだけ教えてください。何故そんなに強いヒイラギが亡くなったんですか?」

「それは…」


「村長!!!ちょっと来ていただけますか!」

「あ、あぁ。

すまんな、ヒイラギ。この話はまた次の機会に。」

「いえ、ありがとうございました。」


死んだ理由は聞けなかったが、まあ今日はいいだろう。

まだ信じられないが、今の話を聞いて私はヒイラギを演じきる自信がなくなった。

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