形勢一変①
「え?」
「おい!それ、ほんとか!」
「あぁ、昨日の夜から家に帰っていないらしい。」
カエルムとフセルとの特訓終わりに広場に向かうと、
なんだかいつもより騒がしかった。
ノワールさんがいなくなったらしい。
昨日の夜から家に帰っておらず、朝になっても姿が見えないのでノワールさんの奥さんがブランさんの家に行っているのだろうと思い、ブランさんに聞いたが、ブランさんも昨日広場で別れてからノワールさんを見ていないそうだ。
「あいつ…一体何処に...」
「まさか、他の奴等と同じ様に消えちまったのか…?」
「とりあえず手分けして探そう!いいか絶対1人になるんじゃねーぞ!」
カエルムの一声で5、6人で固まってノワールさんを探すことになった。
私はカエルム、フセル、ブランさん、ロンくんと一緒に森の中を探すことになった。ロンくんは最近よく手合わせするようになった子で弟みたいに思っていた。
ロンくんは私の後ろを歩いて探していた。前には他の3人がいる。
「ノワールさん何処行っちまったんっすかね。」
「何処に行っちゃったんだろうね。ロンくんみんなの側から離れちゃ駄目だからね。」
「俺は子供じゃないっすよ!ねえさん!」
こやつ、私のことを「ねえさん」と呼ぶのだ。
悪い気はしないけど、ちょっとだけ恥ずかしい。
初めて会った時に有無を言わせないほど手合せでコテンパンに負かしてからそう呼ばれるようになった。
「ねぇ、そのねえさんってのそろそろやめない?」
恥ずかしいものは恥ずかしいので止めてもらうように頼むのだが、いつも「ねえさんはねえさんっすよ?」と当たり前の顔で言われるのでこっちが間違っているのかと思ってしまう。今日も同じ様に頼むが返ってくる返事は同じだろう。
…あれ?
返事が返ってこない。
「ロンくん!?」
振り返るとロンくんはいた。
だけど、目が虚ろで私の声が聞こえてないみたいだった。
「ちょっ、どうしたの!ロンくん!!」
肩を揺さぶっても返事もなければ、目も合わない。
急にどうしてしまったというんだろう。
あ、そういえば他のみんなは!
振り返って3人の前に回り込むとみんなロンくんと同じ様な状態だった。声を掛けても何も反応が無い。
どうしちゃったんだ…
「えっ、ちょっと!何処行くの!」
4人が一斉に同じ方向へ歩き出した。
止めようとするも4人相手じゃ手が足りない。
それに霧で足元も少し離れたところもよく見えない。
あれ、こんなに霧かかってたっけ?
気付けば周りが霧で何も見えなくなっていて、視界全体が真っ白だ。
「…」
いや、本当に何なんだ。
みんなは返事してくれないし!いつの間にか霧が出てるし!!視界は真っ白になってるし!!!
1人で、心の中でキレていた時。
パチパチ
「ん?」
パチパチ
「これは…火?」
小さく火の粉が弾けるみたいな音が聞こえた。
こんな状況で誰かがキャンプファイヤーでもしているのだろうか。
………そんなわけあるか。
そもそも誰かがいるとも限らない。
こんな状態の4人を置いていくのはすごく心配だけど何かこの状態のことを知る手掛かりになるかもしれない。
せめて誰か1人でもいてくれたら。
あ、みんなに呼び掛けたら来てくれないかな。
「うーん!」
唸って頭の中でみんなを呼ぶ。意識が繋がっているのであれば誰かが返事をしてくれるかもしれない。
誰からも返事がない。やっぱり私には無理なんだろうか…
いや、今は落ち込むよりこの状況をどうにかしないと!
みんなごめん、何かあったら私を恨んで。
私はパチパチと音のする方へ走った。
周りを囲う霧に向かって行くため前が全く見えない。自分が前に進んでいるかも怪しいが、今は進んでいると信じるしかなかった。
パチパチッ
音が近くなった。
そして、視界が開ける。
「あ?」
「は?」
霧の囲いから抜けると目の前で兵士の格好をした、おそらく人間であろう人達数人が焚き火をしていた。
何だこの状況。
「誰だテメエ。」
それはこっちのセリフだ。
「それはこっちのセリフだって。あんたら、誰?
この霧はあんたらの仕業?」