轍鮒之急
「ヒイラギー!迎えにきたよー!」
「ん?あ、カルミア。
じゃあブランさん続きはまた今度で!」
「ハァ...ハァ...…あ、あぁ…」
私は広場を後にした。
今日は晩御飯をカルミアの家で食べる予定だったので、広場で手合わせしていた私をカルミアお母さんと一緒に呼びに来てくれたのだ。
「ハァ...…あいつますます強くなってねーか?」
「あぁ。お前こんなに息切らしてるのにあいつ普通だもんな。」
「うるせーよ。これもカエルムの特訓のおかげかねぇ。」
「ハハッ!俺だけじゃないさ。毎日お前ら全員相手に手合わせしてんだからそりゃ強くなっていくさ。」
「ふーん。」
「あいつはちゃんと努力してるよ。それが実力として他の奴らの目に見える形で出てきただけだぜ。
さ、俺達も帰るか!」
「俺はノワールともうちょっと手合わせしてから帰るよ。じゃあな。」
「おう。あんまり遅くなるなよ。最近突然行方が分からなくなったやつが何人かいるからな。夜だからって訳でもねーが、一応用心しろよ。」
「あぁ、分かってる。」
◆
「さぁ!遠慮しないで食べてね!」
カルミアのお母さんは料理が上手だ。
目の前に並ぶ数々の料理はどれも美味しそうだ。
「すみません。いつもありがとうございます。」
「ヒイラギは美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるわ!だから気にしないで!」
初めて魔法を使えるようになってから1ヶ月。
ルーナだけじゃなく、アクア、イグニス、ソールの力を借りて魔法を使えるようにもなった。勿論、すぐにできるようにはならなかった。誰かを信じるということは私にとってそんな簡単なことではないからだ。
それでも、毎日みんなに教えてもらって少しずつできることが増えていった。
今では攻撃魔法も使えるようになった。
それから、魔法だけじゃなく、剣術も特訓を重ねた。いろんな人に手合わせしてもらって数ヵ月前に比べて少しは強くなった気がする。
本当にこの1ヶ月はやることがいっぱいで大変だったけど充実した毎日だった。
「ヒイラギ聞いてる?」
「え?ごめんカルミア、何?」
「もう!明日畑に行かない?」
「うん!いいよ。お昼からでもいいかな?」
「また広場?」
「うん。私がカルミアの家まで行くからそれまで待っててくれる??」
「分かった!でも、あんまり無理しちゃダメだよ。」
「うん。ありがとう。」
私は最近、日が出ているうちは広場で手合わせすることが多くなった。だからカルミアは無理をしないでと気遣ってくれたんだろう。
「あ、そういえばヒイラギ知ってる?
最近村の人達が次々いなくなっちゃってるんだって。」
「あぁ、カエルムから聞いたよ。もう何人もいなくなってるって。だからカルミア、夜でも昼でも1人で出歩いちゃ駄目だよ。カルミアのお母さんも。」
「えぇ、分かってるわ。」
「ヒイラギも1人で外出ちゃダメだよ?」
「うん。気を付けるね。」
「さぁ、料理が冷めちゃうわ!食べましょ!」
その後カルミアのお母さんの料理を美味しくいただいた。
帰ろうとするとカルミアが送っていくと聞かなかったが、何とかなだめて私は家に帰った、というか家の近くの森に入っていった。いつもここで魔法の特訓をしている。
「ねぇ、最近村の人達が次々にいなくなってるんだって。みんな何か知ってる?」
「うーん。あ、そういえば今日散歩している時に村人がそんな話をしてるのを聞いたな!な、イグニス!」
「確かにそんなことを聞いた気がする♪
消えた人達を最後に見たのは昼だったり、夕方だったり、夜だったりみんなばらばららしいわ♪でも、最後に目撃された時に1人もしくは2人だった人ばかりが消えてるらしいわよ♪」
「うーん。まだ分からないことだらけだけど、犯人がいるとしたら少人数でいるところを狙ってるのかな。」
「大体何故こんな平和な村でそんなことが起こるんだ?」
「それが分からないからこうして頭を抱えているんだよ、アクア。」
「ヒイラギ、もし良ければ私たちでこの村を見張りましょうか?」
「え?」
「今でも村の人達は警戒してパトロールしているのは知っているけど、私たちも念のため何か異変が無いか見回りするのはどうかしら?私達ならヒイラギ以外には見えないし、それにこうして...
(意識が繋がっているから何かあった時は声を出さずに伝えることができるしね。)」
「あぁ…そういえばそうだったね…」
今、ルーナの声が直接頭の中に流れてきた。
少し前に教えてもらったばかりだけど、妖精と契約するとその妖精と意識を繋げることができ、離れていても意志疎通ができるようになる。念みたいなものだ。ただ、意識を繋げることができるからといって心の中、相手が考えていることを知ることはできない。どちらか片方が強く念じることで相手と意識を繋ぐことができるため、心の中を見ることはできない。また、相手との距離があればあるほど魔力と体力を消耗してしまうため、普段から意識を繋いでおくことは難しい。
妖精達の力を借りることができるのは体力がある内だけだが、使う魔法の強さは契約した人の持つ魔力量に比例する。つまり、体力があっても魔力がなければ大した魔法は使えないということだ。だから、魔力がなくなってしまえば遠くから意志疎通はできないし、この意志疎通も魔法であるため体力がなくなってしまえば使うことはできない。
「じゃあ、お願いしようかな。」
「えぇ、任せて。ヒイラギはできるだけいつも通り過ごしてね。」
「え?」
「あの子を、カルミアを心配させたくは無いでしょう?」
「あ、うん。そうだね。」
「これから私達と別行動になることが多くなるわ。だから、前にも言ったこともう一度言うけど、あなたが魔法を使えることを誰にも言っては駄目よ。この世界で魔法を使える者はとても珍しいの。他人に知られてしまったら、争いの火種になりかねないから決して話しては駄目よ。」
「うん。分かった。」
「じゃあ今日はもう帰りましょ。明日から私達は村の見回りを始めるから何かあったら連絡するわね。」
「うん。」
私達は家に向かって歩き出した。
「ん?」
私は何かの気配を感じて後ろを振り返った。
「どうかしたか?ヒイラギ。」
「いや、何かの気配がした気がするんだけど気のせいかな。」
「行くぞ。」
「うん。」




