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磨杵作針①

キンッ!キンッ!


まだ薄暗い早朝。

剣の交わる音が辺りにこだましていた。


獣人と人間の女の子。周りから見ると2人は互角に手合わせしているようにしか見えない。

2か月前まで剣を振るったこともない女の子とは思えない動きだった。


そしてこの手合わせは始まってから止まることなく、2時間も続いている。


「ハァッ!」


ヒイラギが飛び上がりスナルに攻撃を仕掛けた。

だが、スナルはそれを受け止め、ヒイラギが来た方向に飛ばした。

それを追いかけるようにしてスナルがヒイラギに向かっていく。

飛ばされている空中でもヒイラギは体勢を崩さず、スナルの攻撃を受けていた。ただ受けるだけではなく、ヒイラギからも攻撃していた。


どちらが負けるのか想像もつかないほどに2人の力は拮抗していて、この手合わせに終わりはないのかと感じるほどだった。


しかし、終わりは突然だった。

ヒイラギが着地に失敗して、体制を崩したところをスナルは見逃さなかった。


「やば_」

「これで終わりだな。」


ヒイラギの首もとにスナルの短剣が光った。


「はぁ、今日が最後なのに結局1回も勝てませんでした。」

「お前は詰めが甘いんだよ。お前が勝てそうだと思っている時は特にな。」

「はい…」

「最後まで気を抜かないことだな。」

「精進します。」


2ヶ月に渡る特訓も今日でも終わりだった。スナルは伸ばすことを提案することもなく、きっかり2ヶ月…つまり今日で特訓を終えようとしていた。


~~~~~~~~~


「スナルさん2か月間ありがとうございました。スナルさんのお陰でまた強くなれた気がします。」


私は改めてスナルさんにお礼を言った。


「気がするじゃない。お前は強くなったよ。」

「えっ」

「途中で音を上げるかと思っていたが、やりきったんだ。」

「ありがとうございます!」


初めてこんなちゃんと褒められた!!!


「じゃあな。」

「あの!たまにまた来てもいいですか?」


帰ろうとするスナルさんの背中に話しかけた。

さすがにもう1ヶ月っていうと断られそうだから「たまに」にした。


「……」


返答はなかった。まぁ、もともと他人が嫌いなんだもんな。


「……いつでも来い。」


小さかったけど、ちゃんと聞こえた。


「ありがとうございます!!」


私はまたお礼をしてスナルさんの家を離れた。

自分の家まで帰るまでこの2ヶ月のことが頭を巡った。

あっという間で、濃い時間だった。最初はスナルさんのこと少し怖かったけど、ちゃんと色々教えてくれたし、きっとほんとはいい人なんだろう。何で他人と関わろうとしなくなっちゃったのかな。また聞ける機会があったら聞いてみよう。


2ヶ月前は特訓が終わったら疲れて動けなかったのに今では特訓の後も普段と変わらず動くことができるようになった。これからカエルムの所に行こうかな。

スナルさんとの特訓と最近昼間は寝るようにしてたせいで全然会いに行けてなかったし。よし、広場にちょっと顔出しに行こうか。


と考えながら歩いていたら家に着いていた。ドアの前に2つの人影があった。


「あ、カエルムとフセル」

「おぉ!ヒイラギ生きてたか!」

「なんでここに?何かあったんですか?」

「こいつがお前を最近見てない、心配だって言うから見に来たんだよ!」

「なっ、心配なんて俺言ってないです!!」

「フセルが?」

「だから言ってないって言ってないだろ!」

「俺はスナルとの特訓がもう少しで終わるから最後の追い込みでもしてるだけだから心配すんなって言ったんだけどな!」

「だからカエルムさん!心配なんてしてないですって!」

「そうか~?」


まぁ、急に会いに行かなくなったら心配もするか。会いに行かなかったんじゃなくて、会いに()()()()()()んだけど。

約2週間前、月が満月になる1週間前だった。

つまりこの日から条件を1つずつクリアしていかないと魔法は使えない。クリアしても肝心の満月の日に雲がかかってしまっては結局失敗になって、魔法は使えない。

それでも可能性があるならと1週間1つずつ条件をクリアしていった。2ヶ月くらいあったお陰で何回か練習ができて、ちょっと危ない時はあったけど何とかクリアできた。一晩中川の中とかほんとに死ぬかと思ったし、4日目の『一晩、森と共に』は家の近くの森で、一晩じっとしてたから睡魔に襲われ続けて辛かった。

まぁ、でも…


「なぁ、ヒイラギ?」

「え?ごめんなさい。聞いてなかったです。何ですか?」

「だから、いい加減ヒイラギを心配してたって認めちまえって言ったんだよ!こいつ今日なんて特に俺との手合わせに全然集中できてなかったんだからな!」

「あっだからそんなボロボロなんですね。」


フセルの服はすごい汚れていた。きっと何回も倒されたんだろう。


「お前も似たようなもんだろ。」

「怒らないでくださいよ。心配してくれてありがとうございます。」

「だから心配なんてしてねぇって!カエルムさん俺先広場行ってますから!!」


捨て台詞のように早口で行った後フセルは足早に広場の方に向かっていった。


「素直じゃねーな。」

「そこもまたフセルの良さですよ。」

「ハハッ!まぁな!それはそうとヒイラギ、確か今日でスナルとの特訓は終わりだったよな?」

「はい。今戻ってきたところです。あっという間ででしたけど、2ヶ月前に比べれば少しは強くなれたんじゃないかと。」

「そうか!」

「はい!本当はもう少し教えてもらいたかったんですけど、言っても断られそうだったのでたまに行ってもいいですかって聞いたらオッケーしてくれました!」

「あのスナルがか。お前すごいな。」

「え?」

「あいつ自分の家に他人が来ることを嫌がるのに…たまにでも来ることを許したって、お前ってすごい奴だな。心なしか見ない内に逞しくなった気がするぞ!」

「フフッ、特訓のお陰ですかね!カエルム、これからまた鍛えてください!よろしくお願いします!」

「おう!任せな!じゃあ早速広場に行くか!」

「はい!」


私はカエルムと広場に向かった。

広場まではすぐなのでたくさん話すことができたわけじゃないけど、スナルさんとの特訓のことを話した。


「そういえばお前短剣が使いこなせるようになったら長物の剣も使いたいって言ってたよな?」

「はい。まだ使いこなせてるわけじゃないですけど、その気持ちは変わってないです。」

「今日から少しずつ俺が教えてやろうか?」

「え!いいんですか?」


カエルムから提案してくれたのは嬉しい。いつ戦うことになるか分からないからできるだけ早く教えてもらいたい気持ちもある。でも…


「おう!だが、まだ短剣の方に力を入れたいだろうから本当に少しずつ基礎的なところからになっちまうがいいか?」

「ありがとうございます!」


カエルムに心を読まれているのかもしれない。

2つの剣を使えるようになりたい気持ちは確かに変わってない。でも、2ヶ月間毎日振ったこの短剣に愛着がわいてもっとこの剣と一緒に訓練したいと思っていた。それを見抜いたみたいなことをカエルムがいうから驚いた。


「何で短剣に力を入れたいって分かったんですか?」

「俺もそうだったからな!初めて剣を持った時より強くなった時はもっとこの剣で強くなりたいって思うもんさ!」


キンッ!キンッ!


「お!もうみんなやってるな!俺たちも行くぞ!」

「はい!」


もう広場は目の前に見えていてみんなが訓練しているのが見えた。私とカエルムは特に走る必要もないのにみんなの方に走って向かった。

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