山紫水明
宴が終わった後、家の近くの森に入っていった。
魔法が使えるようになるための予行練習だ。
今日は「その3、一晩中水の中へ」だ。
寝ずに一晩中水の中へってどんな苦行だろうと思っていたけど、実際やるとやっぱり苦行だった。
少し前に家の近くの森に流れている川に入ってみたけど水が冷たい。冬の水ほどじゃないけど、冷たいもんは冷たい。
水の中ってことは水に浸からないといけないんだろうけど、本には「全身入れ」とは書かれていないから私は自分の都合のいいように解釈して体の半分だけ川の中へ浸かることにした。
この前来た時は途中で次の日のスナルさんとの特訓のことも考えて1時間くらいで止めたけど今日は少し長めに入ってみよう。
川の冷たさになれた訳じゃないけど少しずつでも入っていられる時間を延ばしていかないと練習にならない。
こんなに大変な思いをしてまで魔法が使いたい理由は私がただ魔法を使ってみたいから。スナルさんやカエルムに戦い方を教えてもらえるだけでも今より強くなれると思う。むしろそれで十分な気がする。
前の生きていた時はビビリだったから(今でもビビリではある)新しいことに挑戦することが少なかったけど、せっかくまた生きることができたんだからやれることは全部やってみたい。色々経験すればこのネガティブ思考も少しはましになるかもしれない。
だから私は魔法を使えるようになりたい。使えなかったら使えなかったで体術や剣術を極めればいい。
そう考えていたら月にかかっていた雲が晴れて辺りが明るくなった。月明かりに照らされた川の水はすごく綺麗でずっとここにいられるような気がした。特に今日の月は特別綺麗に見えるなんでだろう。
昔から嫌なことがあったり、考えすぎちゃう時はお風呂に頭まで浸かってたな。水の中なら外と離れて、水の音だけ聞こえてくるから好きだった。
その後はほぼ無心になって川に浸かって月を眺めた。あっという間に時間が過ぎて寒さは感じなかったのに気付けば手も足も氷のように冷たくなっていた。
そろそろ帰ろう。また明日、もう今日か。今日もスナルさんとの特訓はある。この前よりもだいぶ長く川の中にいることができた。少しの進歩はあったと思う。
なんか少し落ち着けた。
私は川から上がった。
「ま…るの…みに…よ...」
「え?」
今何か聞こえた?
いや、まさか。こんな夜中に?
最近動きすぎて幻聴でも聞こえたのかな。
早く帰って少しでも寝よ。