前程万里?③
ルカさんと別れた後私とカエルムは広場に向かった。
そこで木でできた短剣を渡された。短剣と言っても訓練用のもので木刀の短いバージョンみたいな感じだった。
「とりあえず対人相手の訓練や手合わせの時はこいつを使え。しばらくの間は本物の短刀は素振りで使ってくれ。」
「分かりました。」
「素振りする時も剣の扱いには気を付けるんだぞ。さっきも言ったが、人を傷付けることができるんだからな。」
「はい。」
「ん?さっきからどうした。」
「え?何がですか?」
「うーん、なんか元気がないというかなんというか、静かだな。」
「私が静かだとおかしいですか?」
「おかしいな!」
即答かよ。
まぁ、確かに自分でも少し静かだと思う。体調が悪いとかそういう訳じゃない。理由は分かってる。
「即答ですか。ちょっと緊張してるんですよ。」
「緊張?」
「初めて本物の剣を持ったもので。これで私も誰かを傷付けて、戦っていくんだと思ったらなんかフワフワしてるというか、現実味が無くて多分緊張してるんだと思います。」
「お前今、記憶を無くしてるんだもんな。とりあえず基本から教えていくが、前のお前は剣術も結構強かったんだぞ。だから大丈夫だ!」
「は、はぁ…」
何が大丈夫なんだ。私は剣を持ったことすらないんだぞ。でも、体術の時も何とかなってるんだとりあえず頑張ろう。
「そういえばさっき素振りは本物でって言ってましたけど、どれくらい素振りをすればいいんですか?」
「毎日だろ。」
知ってた。きっとカエルムなら毎日って答えが返ってくるって分かってた。
「ただ、俺は短刀の扱いは分からんから俺じゃなくて別のやつに訓練してもらおうと思う。」
「え、カエルムが教えてくれるんじゃないんですか?」
「悪いな。俺は短刀だけは使ったことがねぇんだ。まだそいつには言ってないが、この村で短剣を使わせたら右に出るやつはいないくらいの腕だから安心しろ!」
「そうなんですね。」
「まあ、今日はまだ来てないみたいだからそいつが来るまで他の奴と手合せでもしててくれ。」
「分かりました。」
「それにしても、お前が短剣を選ぶとは以外だったぜ。」
「なんていうんですかね、1番しっくりきました。私じゃなくて剣が私を選んでくれたんですよ。」
「ほう。さっきも言ったが、その感覚大事にしろよ。」
「はい。この短剣を使いこなせるようになったら、短剣より長い剣も使えるようになりたいと思ってます。」
「なるほどな。2つの剣を使いこなすのは結構大変だが、それでもやるか?」
「はい。でも、短剣を使いこなせるようになった後の話です。きっとまだまだ先ですよ。」
カエルムや他のみんなと手合せしながら待っていたが、夕方になっても私の短剣の師匠は来なかった。
カエルムには気まぐれな奴だから今日はたまたまいなかっただけ、また明日紹介すると言われた。
そう言われたので今日はいつもより早めに切り上げて私はそのままマーテルさんの所に行った。
朝カエルムから聞いた次の満月の日を知るために。
「こんばんは、マーテルさん。今お邪魔しても大丈夫ですか?」
「こんばんは、ヒイラギ。大丈夫よ!さぁ、上がって!」
「ありがとうございます。お邪魔します。」
いつも思うが、私はきっと間が悪い。
扉が開いた時からマーテルさんの家に行くとだいたいご飯作ってる。
そして決まって
「もうちょっとでできるから一緒に食べましょ!」
と言われるのである。
マーテルさんと出会ってすぐの頃は最初断っていたのだが、結局どれだけ断ろうとしても気付けば流されて一緒にご飯を食べている。何よりマーテルさんのご飯は美味しい。なので、最近は
「いつもすみません。ありがとうございます。手伝います。」
とお言葉に甘えることにしている。
いつも貰ってばかりでは申し訳ないので、私にできることがあればやっているが、たぶん見合ってない。借りの方が多い気がする。
いつものように3人でご飯を食べた後、マーテルさんに聞いた。
「あのカエルムからマーテルさんは次の満月が何日後になるのか正確な日数が分かるって聞いたんですけど…」
「えぇ、分かるわよ。でも、私だけじゃなくてあの道具を使えば誰だってできるわ。ちょっと待ってね。」
そう言うとマーテルさんは席を立って、窓辺にあったものを持ってきてくれた。
「これを使うのよ。」
木製の小学校の授業で使った星座早見盤見たいな形をしていて、たくさん穴の下には月の形と数字が書いてあった。
「これは満月盤と言って、この穴に月が収まるようにかざして、穴の下に書いてある月の形と合うものが見つかったらその絵の下に書いてある数字が次の満月までの日数よ。」
「へぇ~。細かいですね。私じゃ分かりそうにありません。」
盤面に描かれている月には隣に描かれている月と違いが分からないものがたくさんあって、見分けるのが大変だと思った。
「大丈夫よ。慣れれば違いが分かるようになるわ。丁度今日は晴れているし、今から見てみましょうか!」
「すみません。ありがとうございます。」
慣れで分かるようになるものなのか。
マーテルさんに続いて外に出た。
マーテルさんは月に先ほど見せてくれた満月盤をかざした。
「あと54日後ね」
マーテルさんが月を見ながらそう言った。
◇
思っていたより、長くて驚いた。
2か月後。でもそれくらいあれば条件をクリアする準備もできるだろう。
ポジティブにいこう。
その後マーテルさんは満月盤の使い方と月の満ち欠けについて教えてくれた。
満月から次の満月まで60日、間があるそうだ。
満月から月が見えなくなる新月まで30日。新月の日は何か緊急の用事が無い限り夜は外に出ないらしい。
この前満月が来てたからあと54日後っていうのも間違ってなさそうだ。
でも、新月になるまで30日って、これは満月盤を見ても次の満月がいつになるのか分かるようになるまで時間がかかりそうだな。
とりあえず明日からは条件をクリアするための練習をしよう。
それに剣の鍛練もやっていかなくちゃならない。
やることが一気に増えて目が回りそうだが、ゆっくり着実にやっていこう。




