前程万里?①
「あと54日後ね」
マーテルさんが月を見ながらそう言った。
「54…」
まじか。
明確な数字を出されてちょっとした絶望感を味わった。
さてさて、何故今マーテルさんと一緒に月を見上げているのかと言うと話は今日の朝に遡る。
◇
今日も今日とて日が昇る前から特訓です。
まだ薄暗い森の中を進んでいくと、もうカエルムが来ていた。
「よっ!今日は迷子にならなかったみたいだな!」
「おはようございます。
もうなりませんよ。それに今歩いてきたのはいつもの道です。今日はフセル来てないんですか?」
「今日はまだ来てねーな。ま、その内来んだろ!」
なるほど、今日はまだ来てないのか。
じゃあ今がチャンス。
「あの、カエルム。少し聞きたいことがあるんですけど。」
「ん?なんだ?」
「次の満月っていつですか?」
「満月?この前満月だったから大体2ヶ月後くらいだと思うぜ。何でそんなこと聞くんだ?」
2ヶ月?本気か?
じゃあ魔法が使えるようになるのは最短でも2ヶ月後ってことか。
そんな先だなんて…
「おい、ヒイラギ?」
「あっはい!」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「えっと…」
やべ、言い訳考えてなかった。
「こ、この世界に来てから晴れてる夜はほぼ毎日明るいけど満月って見たことなかったからいつなのかなって思っただけです。」
「ほーん」
言い訳が苦しすぎる。こんなどうでもいいこと「聞きたいことがあります」って意気込んで聞くことじゃないだろうに。
「ちなみになんですけど正確な日数って分かりますか?」
「そこまでは俺じゃあ分かんねーな。マーテルさんとこに行けばわかるかもしれねーけど。そんなに満月が見たいのか?」
「い、いえ!そういうわけでは!昔から月とか夜空が好きなので気になっただけです!」
「そういえばそんなこと言ってたな。」
「え?」
「前にお前が言ってたんだよ。夜空が好きなんだって。」
「へぇー」
そうなのか。急に親近感。
というか魔法のことって別に隠す必要ないんじゃないか。何で言い訳したんだろう。
「カエルムさん夜空が好きなんですか?」
急に別の声がして驚いた。
「おっフセル!俺じゃねーよ。ヒイラギのことだ。」
「あぁ、なんだそっちか。」
「私の扱い雑すぎじゃないですか?」
「…」
無視か。この野郎。
「おっし、じゃあ今日も始めるか!」
フセルの態度には納得いかないが、今日もいつも通り特訓が始まった。
フセルとカエルムそれぞれと何回か手合わせして今日は終わった。
帰ろうとしたらカエルムに呼び止められた。
「ヒイラギ、お前そろそろ武器もってやってみねーか?」
「武器?」
「剣とか短剣とか。他にもいろいろこの村では作ってるから何でもいい。体術は大分ものになってきたし、そろそろいいんじゃないかと思ってな。どうだ?」
「やりたいです!でも、先にどんな武器があるのか見てみたいです。」
「いい返事だ!確かにどんなのがあるのか知っておいた方がいいよな。おっ、もう煙が上がってるからもうあいつらいるんだな。どうする?今からでも見に行くか?」
「こんなに早く行って邪魔じゃないですか?」
「大丈夫だろ!」
何を根拠に…
まぁ、カエルムがいいって言うなら大丈夫なんだろ。
「じゃあ今から行きたいです。」
「よし、じゃあ行くか!フセルはどうする?」
「俺はいいです。先に広場に行ってます。」
「じゃあまた後でな!」
付いて来るかと思ったけど、来ないのか。
私はカエルムにつれられて煙が上がってる方に向かった。
鍛冶場みたいなところが畑から少し離れたところに建っていた。
「よ!ルカ!朝から悪いんだが、今いいか?」
「なんだよ、こんな朝早くから。まだなんも作ってねーぞ。」
「悪いな。ヒイラギにどんな武器があるか見せてほしいんだが、いい…」
「そう言うことなら早く言ってくれよ!」
え?
「ヒイラギ久しぶりだな!武器が見たいなんてどうしたんだよ!全然来てくんなかったのに!もしかして記憶無くして俺の作る武器に興味が出たか!そうかそうか、そう言うことなら俺の説明付きで見せてやるよ!!」
カエルムの言葉を食い気味で遮ってからのマシンガントーク。なんだこの人。
「ほらこっち来いって!」
「おわっ。」
急に手を引っ張られて転びそうになった。
「これが1番スタンダードな剣で基本誰でも使えるし、長さもちょうどいいから初めて剣を使うにはちょうどいいと思う。そんでこっちがさっきのやつよりちょっと刃が短くて軽い。近接戦闘には向いてるし、短い分敵に近づかないといけねーから体術に自信があるやつの方が使うには向いてる。ただ、メインで使う剣があってサブとして使ってる奴もいる。それから…」
部屋の奥に案内されると色んな武器があって1つずつルカ?が説明してくれた。
長い剣から短い剣まで、双剣や弓矢、くないみたいなのもあった。
マシンガントークのお陰でもう最初の方に聞いた説明は断片的にしか覚えていない。
きっといま頭から煙が出てると思う。
「…と武器の説明はこんなもんかな!」
「…」
情報量が多すぎて頭が回らない。
「ヒイラギ?」
「え、あ、大丈夫です!いっぱいありすぎてびっくりしました。これ全部ルカさんが作ったんですか?」
「おうよ!全部俺だぜ!他にも手伝ってくれる奴はいるが、基本俺1人だ!」
「こんなにたくさん…すごいですね。」
「すごかねーよ。それにこんなにいろいろ作って武器に詳しくなったのはお前のせいなんだぞ。」
「え?」
「お前がこの村に来たばっかりの時ここに来てこういう武器がある、これはこういう使い方ができる、とかいろいろ教えてくれたんだ。それまで1つの形しか知らなかった俺がこんなにたくさん作れるようになったのはお前のお陰なんだぜ。だから感謝してる。」
「そうなんですね…」
「まぁ、最近は全然来てくんなかったけどな!」
「これからはちょくちょく来ますよ。お邪魔じゃなければ。」
「そうか?ありがとな。邪魔じゃねーからいつでも来てくれ!
で、どれにする?記憶無くして剣を扱うの初めてならやっぱり1番スタンダードなこいつがいいと思うが…」
初心者には扱いやすいとあれば惹かれるが、でも、私のなかで気になっている剣はもう決まっている。
「この短刀がいいです。」
「これか?」