声を呑む
あの後広場に行って色んな人と手合わせをしたり、カルミアと遊んでいたらまた泥だらけになってあっという間に夜になった。
今夜も雲1つない綺麗な夜空で月の光が差し込んでいた。
「ふぅ……」
私はまた屋根裏に登った。
今日は朝から迷子になったり、崖登りしたり、ずっと動き回ったりしたせいで眠かった。
だけどどうしても確認したいことがあった。
私は昨日読んでいたはずの『親愛なる君へ』を引っ張り出した。
今朝、本棚に戻したばかりだ。取り間違えるはずがない。
いくら月明かりがあると言っても部屋の隅は暗いので明るくなっているところで本のタイトルを確認した。
「あれ。」
今、私の手の中にある本のタイトルは『魔法』となっている。
うーん。なんでだ。
この本は『親愛なる君へ』のはず。
今本を取り出した所と同じ位置に本をしまったはず。もし違うなら私の記憶がやばいことになる。
でも、昨日の夜読んでいた本が『魔法』で、朝起きたら『親愛なる君へ』になっていた、なんてあるのか。
この家に誰か他の人が住んでいるとか?
でも、人の気配はしないし…やっぱり私の頭がおかしくなったのか?
あと考えられるのはもう1つ。
私は下の階から蝋燭を持ってきて火をつけた。
そして、部屋の隅で先ほど手に取った本を蝋燭の灯りに翳した。
「うわ、まじか。」
本のタイトルは『親愛なる君へ』だった。
もう一度窓の近くに持っていって月明かりが当たると『魔法』になった。
どうやらこの本は月の光に照らされている状態だと内容が変わるらしい。
そんなことがあるのかと聞かれると私にもよく分からない。だけど、今実際に目の前で本の内容が変わったのだ。タイトルだけでなく、本に書いてある中身までもだ。
「すごい世界だなー。」
ここは異世界。何でもありなのかもしれない。
月明かりに照らされると本の内容が変わる、その事が私が見ている夢ではなく、現実なら、『魔法』に書かれている条件をクリアすれば私も魔法が使えるようになるのかもしれない。
試すだけ試して使えるようにならなかったら諦めて体術を磨こう。魔法を使えるようになることだけが強くなる方法じゃない。
ものは試しだやってみよう。
" その1、朝日を最も近くで
その2、一晩炎の隣に
その3、一晩水の中へ
その4、一晩森と共に
その5、一晩地に寄り添い
その6、陽の傾きを見届け
その7、一晩1番明るい月と共に "
最短で7日。
やってみてできなければ体術や剣術で強くなればいい。
とりあえず1つ目、『朝日を最も近くで』はたぶん今日行った太陽の神殿で朝日を見ろってことだと思う。
この本がこの村で書かれたものなら。
とりあえず明日、カエルムに何て言い訳して彼処に行こうか。
うーん。
あれ、最後の『一晩1番明るい月と共に』は満月のことだと思うけど、これを7日間連続でやらないといけないなら満月の日から逆算して7日前から始めないといけないってことになる。
これ難しいかも……
そもそも月の満ち欠けを把握できるものなんてこの世界にあるのかな。
それに曇りとか雨で月が出なかったらまた始めからってことだよね。
どうしよう。やめたくなってきた。
ま、でもまずは月の満ち欠けの周期を知らないと話にならない。誰なら分かるんだろう。
明日カエルムかマーテルさん辺りに聞いてみようかな。
さて、今日はもう寝よう。
明日から始めるにしても今日はこれ以上何もできることはない。
それに眠すぎて頭が回らない。大人しく寝よう。