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回顧

村長の家に着いてドアをノックした。


夜ご飯の準備で忙しいだろうか。

もし断られたらどうしよう。

また日を改めようか。でも、もうノックしちゃったしなぁ。


と1人で悶々と考えているとドアが開いた。


「おや、ヒイラギ。どうしたんじゃ?何かあったのか?」


村長が出てきてちょっとだけ驚いたが、村長の家でもあるんだから村長が出てきてもおかしくない。

驚いてごめんなさい。


「ご飯時にすみません。マーテルさんはいらっしゃいますか?」

「マーテルなら今晩御飯の支度中じゃ。急ぎだったかのう?」

「い、いえ!急ぎてはないのでまた来ます!失礼しました!」

「あら!ヒイラギ!」


帰ろうとしたらマーテルさんに呼び止められた。


「あ、こんばんは。」

「こんばんは。どうしたの?何か用事?」

「お前に用があるそうじゃ。」

「私?ヒイラギ、何でも言ってみて。どうしたの?」


あぁ、ダメだ。この声を聞くと甘えたくなってしまう。

迷惑なことに変わり無いのに。


「あの、急ぎでは無いんですけど、この前の続きで文字を教えていただけないかなと思って来ました。だけどご飯の用意でお忙しいと思うのでまた来ます!」


後半すごく早口になってしまった。

考え無しにここまで来てしまったことが急に恥ずかしくなってダッシュでこの場を去ろうとしたが、マーテルさんに腕を掴まれた。


「ちょっと待って。文字を習いに来るくらいいつでも来ていいのよ。

じゃあ、せっかくだからご飯食べていきなさい。文字は食べ終わった後に教えてあげるわ。」

「え、いや、ご飯までいただく訳には!」

「遠慮しないの!一緒に食べてくれた方が私達も嬉しいから食べていってくれない?」


そんなこと言われたら断れない。

チラッと村長さんを見ると目が合った。


「うん。ヒイラギ一緒に食べよう。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます。お邪魔します。」


家の中に入れてもらった。

入り口にいた時から思っていたが家の中は美味しそうな匂いでいっぱいだった。


「どうぞー。もうちょっとで出来上がるから待っててね。」

「あの、何か手伝わせてくれませんか?」

「ありがとう。じゃあこれお願いできる?」

「はい!」


マーテルさんと一緒にご飯の準備をして3人で一緒に食べた。

たくさんの料理があってこれを2人で食べようとしていたのかと疑問に思ったが、台所に冷蔵庫みたいな箱があってそこに保存しているみたいだった。


「遠慮しないでたくさん食べてね。」

「ありがとうございます。いただきます。」


3人で食べた夕食はとても懐かしい味がして少しだけ視界がぼやけたが、村長やマーテルさんが話を振ってくれたお陰で楽しい時間になった。



「ごちそうさまでした!全部美味しかったです!」

「じゃあ片付けするからちょっと待っててね。」

「あ、手伝います!」

「ありがとう。助かるわ。」


2人で片付けてから文字を教えてもらった。

何故か村長もマーテルさんの横に座って話を聞いていた。

1通り教えてもらったところで絵本を読んでみようと言うことになった。

一応50音表みたいな紙はもらったが、その文字がどの発音なのかは覚えるしかなくて記憶力がいいとは言えない私は所々詰まり、マーテルさんに教えてもらいながら絵本を読んでいった。

何とか1通り読み終えるとお茶でも淹れましょうか、とマーテルさんが席を離れた。

詰まりながらも何とか1冊読み終えて少しだけ達成感があった。

窓の外を見ると真っ暗になっていた。そんなに時間は経っていない気がしていたけど結構経っていたらしい。

ふと村長と目が合った。


「すみません。こんな遅くまでお邪魔してしまって…」

「いやいや、構わんよ。2人を見てちと懐かしくなってのう。」

「懐かしいですか…何か思い出があるんですか?」


村長は昔を懐かしむ顔をしていたが、話すのを躊躇っているようだった。


「うむ。わしらの息子の子供の頃を思い出してしまってな。今のヒイラギと同じようによくマーテルに文字を教えてもらっておったわ。教えてもらった後は先程のように一緒に絵本を読んでのう。急に懐かしくなってしまったわい。」

「そうなんですね。じゃあその息子さんがカルミアのお父さんですか?」

「そうじゃ。」


あれ、この村に来て数日経つけど1度もカルミアのお父さんを見ていない。まさか…


「もうこの世にはおらんがな。」

「えっ」

「死んだんじゃ。ヒイラギは覚えておらんかもしれんが、ヒイラギがこの村に来た、村が炎に包まれた日に人間どもに殺されてしまった。息子は体も大きく、当時村一番の強者じゃった。眠らされ、次々と他の者が倒れていく中、息子…ヴィールは最後まで戦った。

体を麻痺させる毒針を何発食らおうと、立っているのが自分1人になろうと最後まで戦った。じゃが、奴らの中に毒を操る者がおってのう。そやつの毒にやられてしまった。」

「そんな…」

「わしらはただ静かに暮らしておっただけなのに何故こんな目に遭わねばならんのか。人間のことを恨んだ、今でものう。」

「では、何故ヒイラギはこの村に迎えたのですか?」

「ホッホッホ、他人事のように聞くのじゃな。この村を、皆を守ってくれたからじゃよ。

最初は人間どもは皆同じ、きっとこの人間もわしらを利用するために今は守ってくれただけなのじゃと思った。わしも、村の皆も簡単に信用できぬほど人間から受けた傷は深かった。

村の片付けや修理を手伝うと言われた時も最初は断ったんじゃ。もう人間とは関わりたくない、早くこの村から出ていってくれとな。そうするとヒイラギは人間の片付けだけさせてほしい、この村を血で汚してしまったのは私だからせめてそれだけさせてほしいと頼んできたんじゃ。人間を見るのも嫌になっていたわしらはヒイラギに人間の方は任せ、片付けが済んだら出ていくように伝えた。

ヒイラギは1人で人間を片付け始め、どんな方法を使ったか分からんが、2日ほどで片付いていた。ようやく人間が出ていってくれる、そう安心していた時また大勢の兵士が現れた。今度は2日前よりもっと多くの兵士じゃった。ヒイラギは誰よりも早く兵士に向かっていった。そして現れた兵士全てを覆うほどの大きさのバリアのようなものを出現させ、その中でヒイラギは1人で戦った。そのバリアは内から出ることが出来なかったようでな。村人が誰も傷付けられること無く、ヒイラギは兵士を倒した。バリアと共に倒された兵士も消え、ヒイラギだけが残った。

わしらは圧倒された。1度ならず2度までもわしらを人間から守ってくれた。数百人を相手にたった1人で。

じゃが、流石に大変だったのじゃろう。ヒイラギはその場に倒れてしまってな。3日間目を覚まさなかった。そのままにしておけず、わしらの家で様子を見ることにした。」

「その時のヒイラギすごい怪我だったのよ。あちこちに切り傷や擦り傷があって、傷が深いものもあったわ。」


マーテルさんがお茶を持ってきてくれた。


「マーテルがその傷を手当てして、その後付きっきりで看病してくれたんじゃ。他の者も手伝ったが、ヒイラギが心配というよりはわしとマーテルが心配だったようじゃがのう。ホッホッホ。」


そりゃそうだ。恨んでいる人間を看病なんて誰もやりたくないだろうに。目が覚めた瞬間襲われるかも知れないのに。それなのに何故…


「そんな中なのにどうして助けてくれたんですか?」

「何故かしらね。私達を守ってくれたからかも知れないわね。それにこんなにも身を挺して助けてくれる人間が悪い人じゃないって思ってしまったし、悪い人じゃないって信じかたったのよ、きっと。」


ヒイラギさんがこの村にいることができたのはマーテルさんがきっかけだろう。そして、私が今こうしてこの村にいることができるのも元を辿ればマーテルさんのお陰だ。


「本当にありがとうございます。

その時の記憶はありませんが、今この村にいられるのはマーテルさんのお陰だと思います。何かお礼をさせてください。」

「えっ。フフッ。ごめんなさいね。

ヒイラギが目覚めた時と同じことを言うものだから可笑しくて。フフッ。」

「え?」

「ヒイラギはな、目が覚めると助けてくれてありがとう、何かお礼をさせてほしいと言ってのう。わしはお礼をするのはわしらの方じゃ、今この村には何もないができることなら何でもすると言うと、ヒイラギはこの村の復旧を手伝わせて欲しいと言ったんじゃ。」

「村の復旧?」

「あぁ。それはお礼になっとらんと思ったが、ヒイラギが引かなくてのう。結局、手伝ってもらうことになった。」


まぁ、お礼にはなってないよね。


「最初は村の皆とぎこちなかったが、次第に打ち解けて協力するようになった。復旧の合間には男衆と手合わせをしていたり、度々現れる兵士や獣人狩りをやっつけてくれた。そして、村が元通りになる頃にはヒイラギはこの村の全員と仲良くなって、村に明るさが戻っておった。

改めて礼を言う。本当にありがとう。感謝してもしきれんわ。」

「お礼をするのは私の方です。助けてもらって、今この村にいさせてもらっている。感謝してもしきれません。」

「いや、わしらが出ていこうとするヒイラギを引き止めたんじゃ。

村が元通りになったら出ていくつもりだったと言ってな。朝昼晩、毎日村人皆で説得した。文字通り、村人総出でのう。」


朝昼晩、毎日…


「そして、何日かに渡る説得の末、この村に留まるだけでは申し訳ないから警備としてこの村にいると言ってくれたんじゃ。」

「それで、この村にいることになったんですね。」

「あぁ。ヒイラギがこの村を守るようになってから、わしらを拐おうとする奴らはヒイラギがやっつけてくれてのう。お陰で誰も拐われず、段々と獣人狩りに来る人間はおらんようになった。

わしらは人間を恨んでおる。憎しみや怒りはそう簡単には消えぬ。それでもヒイラギは違う。わしらはヒイラギに感謝こそすれ憎んではおらぬ。それは他の皆も同じじゃ。じゃからヒイラギはこの村にいていいんじゃ。」

「…!はい。ありがとうございます。」

「随分長く話してしまったのう。遅くなってしまったし、文字の続きはまた今度に。」

「まったく、あなたの話にほとんど時間を取られてしまったわ。ごめんなさいね、ヒイラギ。また今度来てくれる?」

「あ!いえ!遅くまですみません。また改めて来ます。」


外に出ると月が高く登っていた。

そんなに長い時間過ごした感じはしなかったのに。

でも、時間が早く感じると言うことは有意義な時間を過ごせたと言うことだろうか。

思い付きで来てしまったけど今日来てよかったと心から思える。

玄関から手を振る村長とマーテルさんに手を振り返して私はヒイラギの家に戻った。

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