後悔先に立たず
その日は日々のストレスが限界に達していて朝から頭が重かった。
金無し、夢無し、希望無し。
新卒で入った会社を3年弱で辞め、次の会社も1年で辞めてしまい、辿り着いたのは派遣として働く節約の日々。
先のことをしっかり考えているようで思い返せば勢いで生きてきたんじゃないかとこの頃感じるようになってきた。
「真面目にちゃんと生きてたと思ってたのになぁ。」
仕事終わりの人で溢れる帰り道に自分の言葉は揺らめく陽炎と混ざって跡形もなく消えていく。
最近は今までの後悔でタラレバばかり考えてしまう。
もし最初の会社を辞めてなかったらお金に余裕があったのかな。
もし趣味が舞台を見に行くことじゃなかったらもっとお金が貯まってたのかな。
もし自分の思いを素直に伝えられてたら違った未来だったのかな。
もし他人を信じられる心があったら少しは楽になれたかな。
でも、もう戻れない。
なら今を精一杯生きるしかない。
そう思って顔を上げた時、すぐ横に車があるのが目に入った。
想像の中の自分なら華麗に避けて無傷でかっこよく決められたのかもしれない。
だけどここは現実で、超人的な運動能力持つ訳でも走ってくる車を止める力も持っていなかった。
これ絶対即死だなぁ。
死ぬ前にもっとやりたいことしておけばよかった。
もっと舞台観たり、いろんな所旅行に行きたかったなぁ。
最期の晩餐は自分で詰めた9割白米のお弁当かぁ、もっといいもん食べておけばよかった。
実家に帰って父さんと母さんと一緒にご飯食べたかったなぁ。
私は死ぬ直前まで後悔ばっかりだな。
◼️
眩しい。温かい。春みたいだ。
眩しい?温かい?
春みたい?今は夏じゃなかったっけ?
そもそも死んだんじゃなかったっけ?
◼️
目を開けて起き上がると見渡す限り緑の原っぱだった。
近くに湖がある。水も澄んでいて綺麗だった。
こんなに自然に囲まれるの久しぶりだ。
静かで、心地よくって、ずっと眺めていたい。
荒んだ心が洗われるようですごく落ち着いた。
「おい!」
突然話し掛けられて振り向くとそこには中学生くらいの女の子が立っていた。犬みたいな耳と尻尾のある女の子。
え?犬みたいな耳と尻尾?
いや、でも、見間違いじゃない。
目を擦っても何度振り返ってもいる、耳と尻尾のある女の子。
リアルな夢だなーって思っているとさっきより近くで、さっき聞いたときよりも震えた声がした。
「なんで、生きてるの…?あなたはこの前死んで、昨日葬式が終わったはずなのに…」
涙を目に溜めながらそう伝えてくるが、私はまずこの子を知らない。
知り合いに獣人なんていないし、コスプレをする人もいない。
ここが異世界なら確かに私は死んでる。
そうだとするならそもそも今いる世界で私のことを知っている人が1人としているはずがないのだ。
とすると私の答えは1つしかない。
「は?」