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第17節第2話『物部宿儺・II』

 戸川区……のまだ残存しているビルの上。

空を焦がす不遜な大樹を裁く執行人は、大弓の弦に矢をあてがっていた。執行人の名はシエル・マークスマン。異端狩り・樫木の同僚であり、支部長が用意した最後の『武器』。


「矢は、これだけあれば十分だけど——」


 シエルが放つのは魔術的改造が施された特殊な矢だ、命中するまでの間、あらゆる物理法則を無視して、対象の心臓を射抜く必殺の連撃となる。


「体力、持つかなぁ……」


 当然、そんな治外法権な力を行使するには代償も伴う。

圧倒的な速度で体内の魔力元素が奪われ、体力が消耗される。託された矢の数は3本。これで宿儺を消耗しきり、無力化に持ち込めなければ、問答無用で敗北だ。シエルは、矢を番える手に力を込め、意識を集中させる。真紅の大樹は相も変わらず、惑星の空を暗く染め上げている。焦げた臭いが鼻をつく。滾る惑星の熱が、シエルに汗を流させる。時が止まったような感覚。戦士の心には、世紀最大の緊張が走る。そして、その時はくる。


「発射ッ!!」


 一撃目が放たれた。物理法則完全無視。宿儺を殺すためだけに空を駆ける一矢。シエルは宿儺からの反撃を予期して、ビルを飛び退く。そして、超速の嚆矢は容易く大樹の幹を貫通した。


「——!——!!」


 想定外、規格外の激痛に音を上げるように、大樹はシエルへ向けて4本のレーザーを放つ。その内2本の熱線を、シエルは感覚で回避する。避けきれない3番目は防御礼装で受ける。直撃した瞬間、戦場に爆音が響く。防御装甲は1発で砕けた。残る4本目は——


「苦し紛れの防御よ!」


 シエルが反射的に展開した『防御術式』が熱線を受け止める。シエルはそれを盾にして、違う魔術で自然落下のスピードを極力減らしながら、2本目の矢を弓の弦に当てがう。バキバキ、と音を立てて崩壊していく防御術式。彼女には、即席の防御では宿儺の攻撃を受けきれないことを理解している。故に。


「それぐらい、覚悟済みだっての!!」


「——!!」


 大樹が呻き声を上げる。自分を狙う不遜な輩を始末する宣言だ。


「——っ、ちょっと、それは、反則じゃない!!!??」


 シエルは思わず叫ぶ。空の上で何かが赤暗く光る。宇宙から落ちてきているソレは、シエルとの距離を縮めてくる。隕石だ。厳密には、超高密度の魔力元素弾。あんなの直撃すれば、葬儀会場待ったなしだ。


——簡易防御じゃおそらく無理。これは、詰み……?

——いや、まだ、いける!!


 シエルは、矢を向ける照準を変える。その先は、あの隕石だ。片っ方は今番えている矢で破壊する。そしてもう一個を回避する算段もある。


「——、ッ!!」


 その思考を終えて、すぐに矢を放つ。空から降りたる隕石は、それによって爆散する。だが、必殺の流星はまだ残っている。シエルは、自身の霊装である『縄』を取り出し、それで隕石を縛り上げる。そして、


「どおおおおりゃああああああああああああ!!!!」


 咆哮と共にに、隕石の軌道を無理やり縄で変えた。腕にかかった負荷は計り知れない。バキバキ、と骨が砕ける音がシエルには聞こえた。シエルはそのまま家屋の屋根に着地し、大樹から距離を取るように走る。その後を追うように、宿儺の放つ熱線が家屋を破壊していく。


「——」


 シエルは考える。左腕が使い物にならなくなった以上、もう弓を使うことはできない。だが、あの大樹は『矢』でしか傷をつけられない。


「違う」


 何も、矢は弓がないと使えないものか。そもそもこの矢は、放たれた時点で相手を狙い続ける必中の一撃だ。それを加味すれば、()()()()()()()()()()()()? そう思い立った時、すでにシエルの身体は大樹の存在する方角を向いていた。そして、槍投げと同じ要領で矢を投げる。宿儺は先の攻撃で魔力をかなり消耗してしまった。つまり、宿儺には矢を弾く手段がない。

 そしてそのまま——矢が、宿儺へと命中した。


♂♀


 大樹が崩壊する。あれほど絢爛に夜空を染め上げていた火も失われていく。その一部始終を、シエルは見届けていた。


「やり切った、か」


 自分に課された使命を達成した達成感からか、シエルの身体から力が抜ける。そしてそのまま、大の字になって地面に転がる。見える空は灰色。相変わらず焦げた匂いが鼻をつく。シエルは首を横にしてみる。地平は真っ黒だ。文明の痕跡はひとつも残されていない。住民の避難が間に合わなければ、どれくらい悲惨なことになっていたのだろう、とシエルは考えてみる。


「けど、考えても無駄だな」

 

 シエルはすぐに考えるのをやめた。今はこの達成感と幸福感で満たされているだけで十分だ。ここから、夏宮シンジの戦いなのだから。自分にできることはもうない。


「——あ、まず」


 シエルの視界が薄れていく。激しい魔力消耗を連続でしてしまった弊害か。だけれども、もう休んでも構わないだろう。シエルは、眠るように視界の電源をオフにした。


♂♀


「見事って、感じかな。さすがはシエルくんに樫木ちゃん」


 異端狩り大阪支部の暗闇。支部長は、足を組んで椅子に深く座って、小さく喝采していた。モニターは、焦げた地面に大の字で転がるシエルが映されている。一通り喝采すると、支部長はコーヒーの入ったカップで片手で揺らしながら、


「ここまでやったら、もう勝ったようなものだ。『進化』にも継続的な魔力消費がいる。『大樹』に変じた上であそこまで大規模な魔術を撃ったなら、もう残存している魔力は少ないだろう」


 独り言のように呟く。支部長はコーヒーを啜って、再び言葉を紡ぎ始める。


「宿儺特有の現象……『進化』。あの『影』ですら知り得なかった呪いの真実。たかだか個人の呪いを、世界を滅ぼすほどに成長させるなんて……ちょっときな臭いな」


 支部長は目を細める。生物は進化する。これは普遍の真理だ。歴史が証明している。そこまでは理解できる。そして、呪霊も『生物』という枠組みに含めるなら、進化するという理屈も受け入れられる。だが、それが『世界を滅ぼしかねない存在への進化』だと言うのなら、受け入れられない。


「——両面宿儺……君の正体は、なんなんだ?」

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