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第16節第2話『決戦・II』

 午後8時。文明の灯りが消え去った爆心地で、2人の魔術師が交戦していた。激しくぶつかり合う拳。繰り返される打撃の応酬。両者が鎬を削り合う中、黒い長髪を風に揺らす神父の表情に、もはや笑みはない。当然だ。半裸の青年……金髪マッシュの青年・樫木光貴との決戦なのだから。この決戦に敗北するということは、つまり自分の願いが破綻するということ。故に、加減など考えれない——!!


「——ッ!!」


「どうした異端狩り! この程度かぁ!!」


 敵の拳に直撃して、フラフラと後退する樫木につけて、神父は息を荒げながら、威勢よく呼びかける。


「んなわけあるかよぉおおおおおおおお!!!」


 だが、樫木は痛みをものともせずに、咆哮する。それどころが、拳を振りかぶり、勢いよくスタートを切る。あまりにも予備動作が大きすぎる。度重なる戦闘で、もはや判断力が正常に働かない。


「舐められたものだ、私も!!」


 当然、神父は反撃の構えを取る。樫木が射程距離に入った瞬間、腹に拳を打ち込む。神父はその時をいまかいまかと立ち続ける。そして、樫木が神父の射程距離に入った瞬間——


「……なっ!!!???」


「バーカ! こんなのに引っ掛かるなよ!!」


 樫木は神父の拳の射程距離範囲内ギリギリで停止して、そこまま軸の左足を支えにして、そのまま右の回し蹴りを神父の腹部へと撃ち込む。


「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


 神父の身体が吹っ飛ぶ。ボールのように勢いよくバウンドしながら、地面を転がっていく。樫木はそれをすぐさま追跡する。狙うのは当然追い討ちだ。血を吐きながら、四つん這いになっている神父目掛けて走る。


「まだまだァ!!」


 樫木はサッカーボールを蹴るように、神父を蹴り飛ばす。再びバウンドしながら、吹き飛んでいく神父。その無様は、樫木は息を整えながら静観する。あれだけ殴れば、立ち上がってこないだろうと考えたからだ。


「——!!」


 だが神父は立ち上がる。樫木は一瞬動揺する。それは、戦場では命取りだ。その隙を見て、神父は樫木との距離を即座に潰す。そして、灼熱の右ストレートが樫木へと迫る。反射的に、樫木は両手で神父の拳を受け止める。樫木は掌が焼けていく痛みを、歯を食いしばりながら堪える。


「また、お留守、だぞ!!」


 樫木は右膝を神父の腹へとぶつける。その一撃は鳩尾まで響き、神父は後退する。「ガハッ」と大袈裟なそぶりを見せながら、神父は血を吐く。


「ただの殴り合いも飽きてきたな。そろそろ味変……というくか」


 神父は僅かにほくそ笑むと、火属性元素の太刀を生成する。


「そうかよ……なら、オレも遠慮なくさせてもらうぜ」


 樫木も神父と同じく、水属性元素の太刀を生成する。2人の闘士が、刀を構えながら、互いの状態を確認する。神父も樫木も満身創痍だ。立っていられるのが不思議なくらい。それでも彼らが立てているのは、己が願いを叶える『覚悟』の強さゆえか。樫木は太刀を振り上げると、目を閉じ、魔術の詠唱を始める。


「なるほど。互いの信念の強さを比べるには十分だ。樫木光貴、貴様の覚悟の位、しかと受け取ってやる」


 樫木の行動は、『最後の一撃をぶつけ合って、立っていたほうが勝ちだ』という意志表明だ。神父も同じく刀を振り上げ、詠唱を始める。


『——四大元素の一、大陸の北』

『——四大元素の一、大陸の南』


 曰く、それは中国の奇跡。地球に散らばった『四霊武具』を魔力元素で再現する絶技。炎と水。南と北。宿儺と樫木は、絶技解放の準備を進める。


『—— 白雪より奇跡を紡ぎ、我、ここに汝の一閃を拝借せん』

『—— 紅陽の下、ここに犯す大罪を許されよ』


『魔刀、装填。その名は『玄武』』

『魔刀、錬成。その名は『朱雀』』


 四霊武具とは、中国に伝わる四霊獣の力を宿した貴重な霊装である。当然、その性能を飛び抜けて優秀である。樫木は、そんな崇高なものの『姿』を拝借することの断りを。宿儺は、崇高なものの『姿』を模倣することへ謝罪を。神父と樫木は互いに魔術を練り上げていく。

 ——そして、其の時はきた。


『千年の大地より、目覚めの咆哮をあげろ!!』

『千年の大地より、滅びを産声をあげるがいい』


 2人の咆哮と共に、剣が振り下ろされる。同時に巻き起こされた津波と溶岩が、樫木と宿儺の間合いの中心点で激しく衝突する。上昇する世界の体温。それを冷却する自然の威容たる津波。やがて生じたエネルギーは莫大な光を生み、そして——


▲△

 勝敗は決した。爆心地には、ボロボロの樫木が俯いて、地面に伏した神父を静観している。樫木には、勝った、という優越感も達成感もない。意識を保つのに精一杯で、そんなことに気力を回す余力がない。


「——負けた、か」


 神父は靄がかかる視界の中で、ポツリと呟く。もう全力は出し切った。まだ噛みついてやりたいところだが、もはやそんな気力はどこにもない。


「ああ——宿儺、滅びの大樹——呪いの、炎——」


 神父は樫木のことなど構わず、大樹の伸びる空へと手を伸ばす。届きもしない星に手を伸ばす子どものように、樫木には、神父のその行動がとても弱々しくみえた。


「お前の……計画も、これで、終わりだ」


「——ああ、そうだな。きっ——と、大樹は、あの女が伐採するだろうな。奴には、それだけの才能がある。しかし——」


「……?」


「その後の始末は、あの一般人の少年の仕事だ」


「どういう意味だ?」


 樫木は、神父の言っていることが理解できない。意味のある発言なのか、ただのうわ言なのか。


「まさか、異端狩りであるお前が——『呪いを祓う』……その正しい意味を理解していないわけはあるまい……?」


「まさか——」


 樫木には思い当たる節があった。異端狩り本部の図書室で、暇つぶしに読んでいた本に書かれていた気がする。


「呪いの根底は——ってことは」

 

 何か思い当たる節があったのか、樫木はシンジたちの元へ行こうと、神父へ背を向ける。


「待て、異端狩り」


 それを死に体の神父が呼び止める。


「呪いの本質は——そのほとんどが『不満』だ、叶えられなかったこと。伝えられなかったこと。果たせなかったこと。満たされなかったこと。それが凝縮して、積み上がったものが怨嗟だ。呪いを祓うとは、その不満を取り除くことにある。それを失念するなよ、樫木」


「……ああ。あいつを呪いたらしめるのは、何かは考えた……つもりだ。あの呪いの解放には、受容が必要ってことだろ」


 樫木は拳を強く握り、答える。受容とはつまるところ、宿儺を許すということだ。被害者である樫木たちにとって、この結末はなんとも耐え難い答えだ。


「上出来だ。さあ……行け」

 

 樫木と神父の戦いは幕を閉じた。神父にもはや戦う気力はなく、その瞳も完全に閉じた。樫木は、シンジたちのいる場所は向けて走り出す。物語は、ついに佳境へ向かう。

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