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第16節第1話『決戦・I 』

「ったく、最後の最後でお前かよ」


 煉獄の中で、傷だらけの戦士はありったけの憎悪を込めて吐き捨てる。異端狩り大阪支部リーダー、樫木光貴。火傷に裂傷、満身創痍の身体を動かして、彼は今この大地に足をつけている。


「その言葉——そのまま貴様に、返してやろう。異端狩り」


 対して、半裸の男は拳を構えて言葉を紡ぐ。神父——▪️▪️▪️▪️もまた、傷だらけだ。先のシエルによる廃墟爆破によるダメージが顕れている。直前に術式を起動させたから、なんとか致命傷にはならずに済んだものの、彼にはもう後はない。


「こんなところで会うなんて、腐れ縁ってやつか? いいや、あの時の借りを返してやるよ」


 樫木もまた、神父と同じく拳を構える。樫木は一度審査に追い込まれている。その時のリベンジといこう、と異端狩りの少年は気合を入れる。


「根性で実力差は覆らん。異端狩りの男よ、年季の違い——年の功というものを、教えてやろう」


 神父の拳に焔がまとわりつく。その焔の色は赤でも青でもない、春に芽吹く草木のような透き通った緑色である。樫木はそれを宣戦布告と受け取り、拳に水属性元素の力を纏わせる。


「——これで最後だから聞いておく。お前の動機は、なんだ?」


 樫木は兼ねてからの疑問を口にする。神父がここまで惨事を引き起こした原因を、まだ彼の口から聞いていない。樫木はこの勝負が()()だと考える。もう先はない。どちらが死ぬことが、この戦闘の終了条件だろう。ならば、謎は明かしておく必要がある。


「……()()だ。私のと——いいや、クラスメイトは、かつてこの日本に殺された。主犯はどこかの市の政治家だった。名前はもう、覚えていないが。とにかく、私はそいつに味合わせてやりたかったのだ。理由もなく、道理も明かされず、無惨に殺されたヤツと同じ気持ちをな」


 神父は淡々と語る。樫木はその言葉一つ一つに、怨嗟と怒りが籠っているのを感じとる。


「……なるほど、事情は理解した。だが、ヤツを……宿儺を起動する必要性はどこにある? それは、これほどの大惨事を引き起こしていい理由にはならないぞ」


「この程度で知ったような口を聞くな、男。……いや、私がここまでの惨事を引き起こした理由、だったか。それはな、手っ取り早く復讐を達成するためだ」


「……なんだって?」


「私のクラスメイトを殺した議員……その正体を探り、居場所を突き止めるのは効率が悪い。ならば、強大なものに踏み潰してもらうほうが早い。宿儺、という怪物を起こすだけで、私の復讐が果たされるのだからな」


「……ッ」


 神父の言い分を、樫木は拳を握り、歯噛みしながら聞き入れる。度し難い話だ。効率がいいから人を、街を蹂躙しただと?そんなこと許されていいはずがない。樫木は今にも殴りたい気持ちを抑えつけて、神父に鋭い視線を向ける。


「しかし……あの女は番狂せだった。まさかビルごと爆破とは、度胸があって驚いたよ。宿儺の護りがなければ、即死だった」


 生き延びることができた幸運からか、神父はほくそ笑む。

どうやら、シエルの決死の覚悟が神父をここまで追い込んだらしい。樫木は心の中で、シエルを称賛する。だが同時に恐怖も感じる。やはり宿儺の術式は高度だ。魔術の頂点——呪いの最高峰のひとつと謳われるだけのことはある。


「だがな、私にはその守りはもうない。もはやこの生身のみ……というわけだ。弱ったものだ。おかげで、最後の壁を自力で越えなければいけないようになった」


 神父は自身の右手の掌を、悲壮さを溢れさせた視線で見つめる。


「お前、まだ何か企んでるのか!?」


 樫木は考察した。爆破から立ち上がって、自分の前に現れてきた以上、神父にも『果たすべき目的』があるはずだと。


「宿儺……いや、もはや宿儺とも呼べないあれには、まだ最後のトリガーが残されている」


 神父は、遥か空を赤く染め上げる大樹を見上げながら、言葉を紡ぐ。樫木は戦慄する。戸川区に甚大な被害を与えたあの怪物に、あれ以上の形態が存在する——? 


「呪いの極み。怨嗟の溜まり。いくら祓われようと燻り続ける慟哭の炎。両面宿儺の伝承は知っているだろう?」


「それがどうした!」


「霊長。巨人。大樹。ヒトから生じた呪いの末路は、ヒトならざるものの進化だ。貴様も見ればわかるだろうが、あれは今進化の途中にある。そこで問題だ。ヒトならざるもの……怪物の終着点(ゴール)とは何だと思う?」


「はぁ……?」


 神父の突拍子の質問に、樫木は上手く対応できない。


「簡単な話だ。究極性能生命体アルティマ・ウェルテクス——全ての生命、全ての性能を超える究極生命の誕生だ。そうなれば、宿儺は誰にも止められない無敵の生命体となる。私の目的も滞りなく果たされる」


「——」

 

 途方もない解答に、樫木は思考を停止してしまう。完全な、生命だって? 宿儺はそこまでの怪物だったのか? 樫木は自らの未熟さに苛立ちを覚える。——だが、確かなことは一つだけある。たとえ宿儺がどれだけ強大な存在になれる素質を持っていようと——


「——お前を倒せば、宿儺が進化することもない。ここまでの雪辱を晴らす。お前を倒して、夏宮のところへ行くんだ!!」


「私も同じだ、異端狩り。お前を殺し、宿儺の『進化』のトリガーを起動する。そろそろ決着をつけようじゃないか、樫木光貴」


 樫木の啖呵をさらりと流して、神父も己の戦意を誇示する。互いの戦う理由は、もはや明白となった。一方は、仲間を助けるため。一方は、自らの願いを叶えるため。神父は右手を強く握り、斃すべき敵へと視線を向ける。戦意を剥き出しにしているのは、異端狩りの人間とて同じこと。神父は小さく息を吐いて、


「行くぞォ!! 異端狩りィィイイイイ!!!」


 自らの覚悟と決意と戦意を、咆哮にして表した。

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