夢が逃げた
ども。ハツラツです。
夢って、追いかけても追いかけても、全然届きませんよね。
見えたような気がしても、実は距離が思ったよりあったりして。
今回のお話はこういうお話ではありませんが、最後までよろしくどうぞ。
夢が逃げた。
僕は夢を見ることが好きだ。
いつだって、僕の知らない不思議な世界を見せてくれて、一晩だけの小さな冒険を見せてくれるから。
そんな夢が、逃げ出した。
僕がいつものようにベッドで目を閉じると、そこに広がっていたのは真っ白な世界。
「あっ」
一面の真っ白な世界に、ぽつりと人影が一つ。何かを拾い上げてはトートバッグにしまっている。
僕に気が付くと、大慌てで逃げ始めた。
「待って!」
その背中を追いかけてみる。
足の速さは互角。
ですが、後ろを気にしてばかりの相手と、まっすぐ追いかけているだけの僕とでは、徐々に距離が縮まってきているのがわかる。
「もう、しつこい!」
叫んだあと、盛大に躓いて転んだ。
バッグの中身も一緒に散らばった。
「いてててて……」
「ようやく追いついた!」
僕が倒れた人へ近づく。
すると、慌てて散らばったカラフルに彩られた画用紙を寄せ集めてうずくまった。
「ねぇ、君は誰?」
その顔をのぞき込んで、びっくりした。
その人の顔は、僕だった。
「どうして……」
散らばっていた画用紙を一枚、拾い上げる。
「あ」
『僕』が消え入りそうな声を上げた。
「どうして……」
それは、僕が今までに見た夢だった。
「じゃあ、君は……」
「そうだよ。僕は君の夢さ」
『夢』が僕をにらみつける。
何も悪いことはした覚えがないのに、にらみつけられても困ってしまう。
「心当たりはないのか?」
「うん。だって、僕、夢のことは好きだったよ? なのに、どうして逃げたの?」
「ふん。決まってるさ!」
鼻を鳴らす『夢』。
「お前が僕のことを好きすぎるからだ!」
「ええ!?」
好きじゃダメなの?
言ってることがわからなくて、ハテナが頭に浮かぶ。
「お前は夢ばかり見て、現実を見ようとしていないんじゃないかって」
「そんなことないよ! 現実も楽しいよ!」
友達もたくさんいるし、何も不満はない。
「僕のことは嫌いになった?」
「うーん、そんなことはないかなぁ」
「じゃあ、お父さんのことは?」
「え」
「お母さんは?」
「それは……」
急に、『夢』のことが苦手になってきました。
「僕のことは嫌いになった?」
また同じ質問です。
「……うん」
「そっか。じゃあ、続けるよ」
本当は続けてほしくない。
「夢はきっと大好きだったけど、どうして大好きだった人がいないの?」
「だって、もう、いないんだもの」
「夢でも会えたらよくない?」
「でも、起きたらさみしくなっちゃう」
『夢』のせいで、大好きだった人たちの顔を思い出してしまう。
でも。
「ほらね、嫌いなんて嘘だ。やっぱり、向き合うべきだ」
「でも……」
「でもじゃないやい。僕も逃げないから、お前も逃げるな」
『夢』は姿を変え、白い世界は昔住んでいた家に、『僕』の姿は、みるみるうちにお父さんとお母さんの懐かしい姿になった。
「お父さん、お母さん」
二人の顔を見て、言いたかったことが込み上げてくる。
やっぱり、伝えなきゃ。
「大好きだったよ」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
逃げる理由に夢を使っていた少年のお話でした。
はじめは苦しい現実を紛らわせるために、のちに依存へと変わっていきました。
夢にとって、それは幸せなことと言えたのでしょうか。
逃げるためではなく、大切な人と再会するための夢。怖いかもしれませんが、彼は一歩、前進できました。
私も、夢に怒られない生き方をしたいものです。
では、また。
では